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オーストラリアの子育て事情

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はじめに

アジア諸国の子育ては学力の向上に力を入れている家庭が多く、日本では小学6年生では3人に1人、中学3年生で2.5人に1人の子どもたちが放課後通塾していると言われています。

最近では英語を学ばせ、また国際感覚も身につけさせたいという思いから、子どもの英語圏への留学に伴い母親も渡航するという選択をする家族も増えているといいます。母子留学のデスティネーションとして高い人気を誇るのはオーストラリアです。

人気の理由は、オーストラリアと日本は2国間で友好な関係を築いていること、そしてオーストラリアの主要都市と日本の時差は1時間程度なので、日本の家族との連絡が取りやすいということなどが挙げられます。

では、日本人の留学先として人気の高いオーストラリアでも、親たちは日本と同じように学力の向上に重きをおいて子育てに励んでいるのしょうか。

オーストラリア人へのイメージと子育て

長年に渡り外国人が考えるオーストラリア人のイメージは、「陽気」「のんびり」「家族優先」の3点が上位を占めると言われています。オーストラリアでの子育てを体験して、正にこのイメージ通りに子育てしている家庭が一般的なのではないかと感じています。

「一般的」と記したのは、残念ながらオーストラリアでも育児放棄や虐待といった問題をはじめ、子ども達を取り囲むさまざまな問題から日々の生活で安らぎを得られない子ども達も数多く存在することは否めないからです。

オーストラリアでの、妊娠から出産まで

オーストラリアでの「妊娠」

オーストラリアでは、妊娠の兆候がみられたら、かかりつけの一般診療医(General Practitioner=GP)を訪れて尿検査・血液検査・エコー検査などを予約します。事前に妊娠検査薬での検査で陽性だった場合には、再度の尿検査は行わないという場合もあるようです。

妊娠に限らず、オーストラリアでは、各種医療検査は病院とは別に血液検査や尿検査などを行うパソロジー(Pathology)やレントゲン等の画像診断を行うイメジング(Imaging)と呼ばれる施設があり、それらに足を運ぶ必要があります。

出産を希望する病院についても、公立病院(Public Hospital)で出産するのか、私立病院(Private Hospital)で出産するのか、希望をGPに伝えて12週目を迎えるまでに病院宛に紹介状の作成を依頼します。

私立病院を利用する場合は、産科医にも紹介状を作成してもらい、以降は定期健診は産科医のクリニックで行うのが一般的です。

公立病院で出産する場合は、一般的に定期健診は予約日の当直医が行うので、毎回同じ産科医に会えるとは限りません。公立病院では特に問題がなければ、20週を超えるまで初回の診察が受けられないのですが、検査費用以外の出産費用が無料ということもあり、公立病院で出産する人が多いようです。


各種検査に話は戻りますが、エコー検診は、妊娠中特に問題がなければ3回程度の受診にとどまり、心配なことなどがあれば医師に相談すれば追加で検査を行ってくれるというスタンスです。妊娠糖尿病や高血圧のリスクを考えた体重増加への注意を喚起されることもほとんどありません。「妊娠は病気じゃないから」という考えをもって妊婦と接している医療従事者が多いように感じます。

オーストラリアでの「出産」

オーストラリアでは、出産という大事を妊婦そしてその家族の希望を叶えるべく努力してくれる病院が多いようです。夫の立会いはもとより、子ども達に妹、弟が生まれてくるところをみせたいと希望すれば、子ども達の立会いをも許可してくれる病院もあります。

水中分娩用の大きなバスタブを完備している病院もあり、また陣痛を促すために鍼師を招きたいという希望も快く受け入れてくれるという病院もあるそうです。

また、いざ出産となったら、助産師さんが「自分の好きなポーズでいきんでいいわよ」とアドバイスしてくれ、ベッドから降りて出産したという話もよく耳にします。周りに希望をはっきり伝えて自分にとってベストな形で出産するのが、オーストラリア流の出産だといえます。

産後の妊婦ケアについても日本とはかなり異なっていて、私の場合は産声を聞いて幸せに浸っていると、助産師さんの「シャワーを浴びてらっしゃい」という声で、現実の世界へ引き戻されたような感覚を覚えました。自分の足で歩いてシャワーまで移動するよう告げられた時には大変な衝撃を受けたことは、今でも鮮明に覚えています。

オーストラリアでは自然分娩の場合には当日、もしくは翌日には赤ちゃんと一緒に退院というのがごく当たり前の事だということを考えれば、出産後それほど時間が経たなくても自分の身の回りのことは自分でするというオーストラリアンスタイルは、今になって考えれば想定範囲内のことだったのかもしれないと思えます。

助産師さんから授乳、赤ちゃんの入浴、おむつの替え方などを指導してもらい、産後検診の予定について説明を受けたら、いよいよ赤ちゃんを迎えての新しい生活のスタートです。

子育て人生の始まり

オーストラリアの育休について

2016年実施の国勢調査で、オーストラリアでは夫婦のどちらか1人がフルタイムでもう1人がパートタイムで働きながら子育てをしているというカップルが全体の21.7%、2人ともフルタイムで働きながら子育てをしているカップルは全体の21.6%との結果が報告されました。

オーストラリアでは、1年間継続して勤務すると最長で2年間の産前・産後休業(産休)・育児休業(育休)が取得できるという制度が整えられています。最初の12週間は職種ごとに設定された最低賃金を政府が補償してくれるので、この制度を利用して1カ月程度の育休を取得する男性も多く、男性も家事に育児にと積極的に参加するのが当たり前という考えが定着しています。

男女平等の育休取得制度を導入、促進している企業や団体への就職を希望する人が多く、有能な人材を確保するために、「家族優先」のライフスタイルが実現しやすい職場環境を提供できるよう、雇用主も努力しているという印象を受けます。

オーストラリアの、子育て世代への地域のサポート

夫婦力を合わせて最善を尽くしていても、ほとんどの新米ママとパパなら泣き止まない赤ちゃんを目の前に頭を抱えてしまった経験があるのではないでしょうか。

オーストラリアでは新生児出産後の最初の検診は、看護師さんが自宅を訪問してくれる「First Home Visit」というサービスを提供しているところが多く、赤ちゃんの健康状態のチェックはもとより、授乳方法の指導や子育てに関する相談に応じてくれます。また、4週間に渡って行われる「New Parents Group」でも看護師から子育てに関する指導や情報を得ることができ、新米ママたちの出会いの場、情報交換の場としても活用されています。

近隣に両親をはじめ近親者が子育てを手伝ってくれるという、恵まれた環境にある家族ももちろんありますが、多くのカップルがこのような地域のサポートを受けながら、徐々に親としての自信を育てていきます。

オーストラリアでの、仕事と育児

2020年に発表されたオーストラリアの労働力調査によると、オーストラリアの全雇用者の47.4%を女性が占めており、労働市場への参加を希望する女性が多いことが伺えます。

さらに、オーストラリア株式市場に上場している大手企業幹部役員の女性が占める割合は、同年2月現在で30.7%に達したとされており、このデーターから女性のキャリア志向の高さを読み取ることができます。


職場復帰までのタイムリミットが近づくにつれ、この先15年以上にも渡る子育て期間をどのようにオーガナイズしていくのか、今一度夫婦間で今後のファミリープランを立てる必要があるのは、どこの国でも同じことです。オーストラリアにおいては、多くの夫婦が大きく分けて二つの選択肢に直面します。

子どもを預けるという選択

日本でも待機児童の問題がメディアなどで取り上げられるようになってから久しく経ちますが、オーストラリアでもこの問題は長年に渡る社会問題の一つとされています。政府が認可している未就学児のケア(Formal Care)を提供するサービスには次のようなものが挙げられます。

1)Long Day Care(0~6歳までの児童を定期的に預かってくれる保育園)

2)Family Day Care(規定の条件を満たした保育士や教員などが自宅で児童を世話してくれるサービス)

3)In-home Care(規定の条件を満たした保育士や教員などが児童の家に赴いて児童を世和してくれるサービス)

4)Occasional Care(非定期的に児童を預かってくれる保育園)

2017年に調査を実施したところ、0~12歳までの児童でFormal Careを利用しているのは全体の28%で、中でも0~4歳までの児童のケアを委ねる先として最も人気があるのはLong Day Careだったと記しています。

希望するLong Day Careに預かってもらうために、妊娠がわかってすぐにWaiting Listに名前を連ねて、電話などで再三に渡り空き状況を確認しながらチャンスの到来を待つのが、オーストラリアでは当たり前になっています。

運良く希望のLong Day Careに入れても喜んでばかりいられない事情もあります。現在、Long Day Careを利用した場合の平均保育料は、一日111.22豪ドルで日本円に換算すると8千円と、かなり高額です。家族構成や夫婦の所得額から算出される保育手当を政府が支給してくれるとはいうものの、一人分の給与のほとんどは保育料に消えていると嘆く夫婦も多いようです。

子どもが一人ならまだしも、二人、三人とLong Day Careに預けるとなれば、それこそ大変な出費になります。新聞広告などで専属のベビーシッターを探す家庭、自宅の一間を無料で提供するかわりに子どもの世話や家事手伝いをしてもらう「オーペア(Au Pair)」を探す家庭と、少しでも保育料を節約すべく、さまざまなオプションを検討しながら、職場復帰に向けての準備をすすめていきます。

子どもを預けないという選択

子どもをLong Day Careに預けたら、手元にほとんど給与が残らないという現実、そして就学年齢になるまで、できるだけ子どもと過ごす時間を大切にしたいという思いから、子どもの世話を他人に委ねないという選択をする夫婦も見受けられます。

前述のとおり、オーストラリアの就業規則は日本のそれよりかなりフレキシブルで、家庭の事情を考慮した勤務体制を許可してくれる事業主も多いようです。共働きでも勤務時間をうまく調整して極力自分たちで育児をするというカップルも多く、ママは日勤でパパは夜勤で家にいる方が育児をするというカップルや、最近では在宅勤務制度をうまく利用して、仕事と育児を両立するというカップルも増えています。

もちろん出産を機に、夫婦のどちらかが家事と育児に専念するという選択をする夫婦もいます。女性の方がキャリア志向が強かったり、既に専門性の高い職業に従事している場合などは、男性が専業主夫として家族をサポートするというケースもあり、状況に応じてフレキシブルに対応しながら子どもの成長を見守っていくという夫婦のあり方が、オーストラリアではすっかり浸透しているように感じます。

オーストラリアの「学校」

オーストラリアの学校制度は州によって若干の差はあるものの、小学校(Primary)7年・中学校(Secondary)4年・高校(Senior Secondary)2年の13年制で、6歳から16歳までの10年間は義務教育です。どの学年も4学期制を採用していて、夏休み6週間、春、秋、冬のお休みはそれぞれ2週間という学校が多いようです。

子どもが就学年齢に達すると、親はさらにフレキシブルな対応を迫られます。子どもの休暇スケジュールに合わせて親も休暇を取得するという家族、課外活動のプログラムに子どもを参加させる家族、子どもを職場に連れていくという家族と、さまざまな方法を駆使して、休みの間の子どもたちのケアプランをたてる必要があります。

フレキシブルな対応を迫られるのは、休みの間だけではありません。オーストラリアでは、小学生の通学は親の送迎、もしくはスクールバスを利用しての登下校が原則とされています。学校は午前9時から午後3時までというのが一般的なので、両親とも9時5時の勤務時間働いている場合には親だけで対応するのは困難を究めます。

さらに、オーストラリアでは子ども(特に低学年)に一人きりで留守番をさせるのは、適切ではないとされているため、子どもを家に送り届けて職場に戻るというわけにもいきません。法律で具体的な年齢に言及しているのは、今のところクイーンズランド州だけですが、その他の州でも保護責任を負う者が放置することによって子を危険にさらしたと判断された場合には厳罰に処せられる可能性があります。

こういった状況を鑑みて、オーストラリアでは子どもが小学生の間は、スクールアワーズに合わせた勤務時間を受け入れてくれる事業主も多いようです。ありがたいことに、7年間のパートタイム勤務(スクールアワーズのみ)を経て、子どもが中学生になった段階でフルタイム勤務に変更してくれるという事業主もいます。特に公務員や団体職員、そして民間でも大企業で勤務している場合は、職員が躊躇なくこのような希望を職場に伝えられる環境が整っていると言えます。

オーストラリアの「学外活動」

オーストラリアでは小学生の間は、前述のとおり登下校時には親、またはそれに変わる大人が送迎をしているので、授業終了後にそのままピアノや水泳といった習い事に直行するという子どもたちもたくさんいます。中学生になっても学内で放課後にクラブ活動を行う学校は極めて少ないようです。


オーストラリアでの学外活動は、週末に行われることが多く、週末のスポーツ施設は屋外も室内も多くの家族連れでにぎわいます。指導するコーチたちも子どもたちのお世話をするマネージャーも、すべて親たちのボランティアで成り立っています。週末のスポーツはパパの担当という家庭も多く、子どもたちの活躍を応援するパパたちの姿を多くの会場で見かけます。

決して学業をおろそかに考えているわけではありませんが、オーストラリアの子育ては、小さい頃はのびのびと、そして健康な体づくりに重きをおく家庭が多く、小学校では宿題は一切出さないという方針を掲げる学校すらあるといいます。

オーストラリアでの子育ては、まさに「陽気」「のんびり」「家族優先」に行われることは基本中の基本と言えます。

まとめ

以上、「オーストラリアの子育て事情」でした。

2020年のオーストラリアは、大規模森林火災にコロナ禍のロックダウンと、多くの人々にとって忘れられない1年になることは間違いありません。

ロックダウンになってから、いつも以上に公園で遊んだり、散歩をする家族を見かけるようになりました。「家族優先」が信条のオーストラリア人も、通常は仕事に追われて、なかなか子どもたちと一緒に過ごす時間がないという親たちも多く、コロナ禍のロックダウンを「子どもたちと過ごす時間に充てた」と語る家庭も多いようです。ストレスフルな生活からも喜びを見つけられるのも、オーストラリアスタイルと言えるのかもしれません。

本記事は、2020年7月1日時点調査または公開された情報です。
記事内容の実施は、ご自身の責任のもと、安全性・有用性を考慮の上、ご利用ください。

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この記事を書いた人

公務員総研の編集部です。公務員の方、公務員を目指す方、公務員を応援する方のチカラになれるよう活動してまいります。

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