差別社会アメリカを悩ますアファーマティブアクションとは?

歴史的経緯や社会環境によって「弱者」とされる集団にとって不利な現状があるとき、その不利を是正するための措置を、「アファーマティブアクション」といいます。

今回は、アメリカの「アファーマティブアクション」の概要とその問題点について、アメリカ在住の日本人にレポートいただきました。

はじめに

2020年8月13日、アメリカ司法省は名門イェール大学が入学選考試験においてアジア系と白人を「違法に差別している」と認める調査結果を発表しました。

この調査結果を巡って、国際的な知名度が高いアメリカ国内の大学は揺れています。この問題を引き起こしているのが「Affirmative Action(アファーマティブアクション)」と呼ばれる差別是正措置です。

今回は、アメリカで生活していると必ずと言っていいほどに影響力を感じる「Affirmative Action」についてご紹介します。

アファーマティブアクションの概要

はじめに、アファーマティブアクションに関する概要を見てみましょう。

アファーマティブアクションとは

アファーマティブアクションとは、人種や性別、国籍、家庭環境などによって生じる社会的な差別を是正するための制度です。

日本では「積極的差別是正措置」や「積極的格差是正措置」、「Positive Action」などと表記されます。

国連では「Temporary Special Measures」と表現されますが、社会的な差別が常態化しているアメリカで最も多く使用されていることから、アファーマティブアクションという表現が広く使われています。

日本の法律で例えると

アファーマティブアクションは日本の法律で言うところの「男女共同参画社会基本法」や「男女雇用機会均等法」に該当します。

日本ではアメリカのように異なる人種が混在することがほとんどないので、人種による差別や格差は生じません。一方で、性差による差別や格差を是正するための取り組みが続けられています。

なかでも、2020年までに指導的地位において女性が占める割合を30%程度にすることを目標にした「男女共同参画基本計画」が知られています。

アファーマティブアクション誕生の背景

アファーマティブアクションの先駆けとなる思想は、1863年から1877年までの「Reconstruction Era(再建の時代)」と呼ばれる頃に、アメリカ軍人だったWilliam Sherman(ウィリアム・シャーマン)によって提唱されました。

この時代、解放された奴隷が独立して生活できるようにと「40エーカーの土地とラバ」を分配しようとしたことに始まります。

多くの白人によって反対されたため法制化されることはありませんでしたが、この思想は1964年の公民権法成立まで何度も形を変えながら法制化されました。現在でも内容の見直しや有効性を巡って議論が続いています。

現在のアファーマティブアクション

近年のアファーマティブアクションは「教育」や「就職」の場で用いられています。

例えば、アメリカで高校や大学などに進学する場合や就職の際には「人種」が考慮されます。黒人かヒスパニック、ネイティブアメリカンであれば、試験の得点が加算されたり、他人種よりも優遇されます。

1978年までは合格者の総数に対して一定の割合が黒人などの少数派に割り当てられる「クォータ制」が用いられていましたが、最高裁が割り当ては違憲とする判決を下したため、事実上撤廃されました。その代わり、各教育機関や企業が独自に定める方法で、少数派を優遇しています。

仮に、学歴優秀な人材や白人だけを採用した場合、基礎学力が劣る黒人やヒスパニック系の人たちは、いつまでも教育の機会が得られず良い職に就けないことから、アファーマティブアクションによって是正されているのです。

アファーマティブアクションの問題点

次にアファーマティブアクションの問題点を見てみましょう。

その1:逆差別が起こる

最も問題視されているのが「逆差別」です。

アファーマティブアクションは少数派を優遇するため、過度になると多数派を差別することにつながります。事実、1978年の「バッキー裁判」では、白人男性がアファーマティブアクションが原因で不合格になったとしてカリフォルニア大学メディカルスクールを訴えています。

人種差別解消を巡るBLM運動の際に表面化したように、黒人やヒスパニックによって白人が迫害されていると訴える声は多く「白人が差別されている」と主張するアメリカ人は増えつつあります。

教育現場では優遇された少数派に対して、白人からの風当たりが強くなるなど、潜在的な問題も発生しています。白人にとってアファーマティブアクションは決して歓迎できるものではありません。

その2:明確な定義がなく、曖昧である

アファーマティブアクションは曖昧な定義であることが問題視されています。

入試選考において、優遇措置の内容や方法は学校ごとに異なります。例えば、A大学は黒人やヒスパニックに対して100点加算する独自のルールがあり、B大学は黒人は50点、ヒスパニックは30点加算といった様子です。また、点数加算ではなく「配慮する」という漠然としたルールもあるとされており、優遇する基準は曖昧です。

さらに、州によってはアファーマティブアクションそのものを禁止している場合があります。例えば、カリフォルニア州は1997年に廃止、翌年にはワシントン州も廃止、2000年にはフロリダ州が教育の場でアファーマティブアクションを禁じました。

アファーマティブアクションを禁じた州では、学校ごとに代わりとなる優遇制度を用いています。カリフォルニア大学では「Eligibility in the Local Context」と呼ばれる、高校で上位4%内の成績を収めていれば入学を許可する制度を導入しています。

このようにアファーマティブアクションはアメリカ全土で統一されたものではなく、州や学校、企業によって内容や仕組みが全く異なる曖昧な制度なのです。

その3:判決を出すのに、最高裁も迷う

アファーマティブアクションを巡る裁判の判決は、ほとんどがはっきりしない判決です。

例えば、先述した「バッキー裁判」に対して最高裁は「アファーマティブアクションは合憲だが、(人数を割り当てる)クォータ制は違憲」としました。また、2003年にはミシガン大学が少数派の志願者に加点して優遇したことに対して「アファーマティブアクションは合憲ながら、加点制度は違憲」と判決を下しています。

つまり、合格者や採用者の割り当てや、点数加算制度は違憲とされるため、学校や企業は何をすればいいのか分からない状態になっているのです。最高裁ですら迷うアファーマティブアクションの施行内容は今後も続くであろう問題とされています。

アファーマティブアクションの事例

ここではアファーマティブアクションの主な事例をご紹介します。

イェール大学の場合

2020年8月、アメリカ司法省は2年間に及ぶ調査結果として「イェール大学は人種や出身国に基づく差別をしていた」と結論付けました。

調査内容では「合否の基準として人種が決定的な要因になっている」としたうえで「アジア系や白人は、同等の学力がある黒人と比較して10分の1から4分の1程度しか合格する確率がない」ことを明らかにしました。

また「イェール大学は公民権に違反しており、人種や民族で分けることで敵意や分断を招く」と強く非難しています。

一方で、イェール大学側は「司法省は根拠がない主張で、法律と矛盾する基準を強いようとしている」と反論しており、アファーマティブアクションの曖昧さが露呈したケースと言えます。

ハーバード大学の場合

2018年、アジア系学生を多く含む学生団体(SFFA: Students For Fair Admissions)がハーバード大学に対して、入試の際にアジア人に対して低い点数を付け、明らかに成績が劣る黒人やヒスパニックを優遇しているという訴えを起こしました。

原告側の主張は、成績だけで判断されれば、アジア系学生は現在の2倍になると主張しました。一方で、大学側は選考では「全体論的選考」を使用しており、人種は比較的重要ではない選考要因と説明し、アジア系学生の数は全学生の23%と増加傾向にあることを付け加えています。

2019年、連邦地方裁判所は「選考基準は完全ではない」と指摘しつつも「人種を考慮することは適切」として、原告の訴えを退けました。SFFAは最高裁まで視野に入れて控訴すると見られています。

アメリカ司法省はこの判決に反対しています。司法省は「大学が人種的偏見を持っていないと証明できない」とし「人種を任意に利用しており、アジア人が他人種よりも著しく不利な状況にあることを示している」と述べています。

アファーマティブアクションを巡って裁判所と司法省の見解が異なることから、制度の曖昧さを感じさせます。

アファーマティブアクションを巡る反応

アメリカでアファーマティブアクションはどのような見方をされているかご紹介します。

トランプ政権の反応

トランプ政権はアファーマティブアクションに対して否定的です。

アファーマティブアクションは教育機関や企業に多様性を持たせる制度ですが、白人からしてみれば白人差別につながるため決して良い制度と言えません。

このようなことを嫌う保守派のトランプ大統領は、オバマ政権で導入されたアファーマティブアクションの奨励に関する指針を撤廃しました。

また、トランプ大統領は政権の考えに近いとされる保守派の最高裁判事を指名しているため、アファーマティブアクションを巡る裁判が最高裁までもつれた場合、政権に有利な判決を得る可能性があります。

アメリカ国民の反応

アメリカの様々な分野において世論調査を実施しているピュー調査研究所(Pew Research Center)の発表によると、アメリカ人の71%はアファーマティブアクションに肯定的な考えを持っているとされています。

制度そのものは自由と平等をうたうアメリカらしいものですが、曖昧な中身や学校や企業によって異なるルールが、不平等を生んでいることは間違いありません。

保守的で白人至上主義が多い共和党政権では否定的に見られ、リベラルな民主党政権では肯定的に見られることから、政権によって変化していく法律と言えるでしょう。別の言い方をすれば、政権が安定しない限り決着しない法律と言えます。

まとめ

以上、「差別社会アメリカを悩ますアファーマティブアクションとは?」でした。

アファーマティブアクションは様々な人種や国籍が入り交じる国のアメリカで、差別や格差を無くすために長い時間をかけて作られた制度です。

建前上は優れた制度で国民からの支持も得られていますが、内容やルールが統一されていないため、様々な問題が起きているのも事実です。

また、共和党と民主党のどちらが与党になるかによって取り扱いが変わるため、制度自体の一貫性のなさも否めません。

アファーマティブアクションは政権、最高裁、教育機関、企業それぞれで捉え方が違う課題が多い制度です。なおかつ、そんな制度を通して差別問題を是正しようとしていることを知っておくと良いでしょう。

参考資料サイト

ピュー調査研究所(Pew Research Center)
https://www.pewresearch.org/politics/2017/10/05/4-race-immigration-and-discrimination/

本記事は、2020年9月3日時点調査または公開された情報です。
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