はじめに - 2020年の共和党大会開催
アメリカの共和党は8月24日から4日間にわたって共和党大会を開催しました。
今回の共和党大会では、現職のトランプ大統領とペンス副大統領が正式に指名されることは確実とされていたことから、共和党が示す政策綱領案(マニュフェスト)や、トランプ大統領の発言に注目が集まりました。
共和党大会よりも先に実施された民主党大会において、バイデン氏とハリス氏が発表した政策綱領案と比較し、どのような違いがあるかも注目されています。
そこで今回は、共和党大会でどのようなことが語られ、どのような政策綱領案が発表されたか、トランプ大統領は何を語ったかなどをまとめてご紹介します。
なお、アメリカの「党大会」、「アメリカ大統領選・2020年民主党大会まとめ」については、それぞれ以下の記事もご参考ください。
アメリカの大統領選では、「予備選挙」「党大会」「テレビ討論会」「投票日」という大きな流れがあります。これらのうち、特に「党大会」についてはよくニュースなどで耳にするけれど、詳細がわからないという方も多いのではないでしょうか?今回は、「アメリカ大統領選の党大会」について、アメリカ在住の日本人にレポートいただきました。
アメリカでは4年に1度、アメリカ合衆国のそれぞれの党が、正副大統領の指名候補を選出する時に開く大会があり、これを「党大会」といいます。民主党が開催する党大会は「民主党大会」と呼ばれます。今回は、アメリカの「アメリカ大統領選・2020年民主党大会」について、アメリカ在住の日本人にレポートいただきました。
アメリカの「共和党大会」の概要
まず、共和党大会の概要について見てみましょう。
規模縮小ながら対面式で実施
今回の共和党大会は、実質的な「オンライン党大会」となった民主党大会とは対照的に、全国から代議員や支持者300名が集まって従来通りの「対面式」で実施されました。
新型コロナウイルス感染に配慮して規模を縮小しての開催でしたが、ほぼオンラインで実施された民主党大会との違いを打ち出す形になりました。
トランプ大統領は現地を訪れ、ペンス副大統領はメリーランド州から参加するなど、感染防止と同時に、大会を盛り上げる工夫がされています。また、初日からトランプ大統領が演説を実施するなど、現政権の勢いを印象付けたと言えます。(通常、大統領候補は初日に演説はしない)
一方で、初日のテレビ視聴者数は約1,700万人とされており、民主党大会初日の1,870万人を下回りました。視聴者がテレビよりもインターネットに流れていることが原因とされていますが、関心の低さは懸念材料になりかねません。
なお、今回、共和党大会の開催場所として選ばれたのは、アメリカ南部のノースカロライナ州シャーロットです。
本来は激戦州であり、重要州のひとつであるフロリダ州ジャクソンビルを予定していましたが、同州の感染者数が増加傾向であったことや、共和党幹部陣の感染リスクを回避するために急遽ノースカロライナ州シャーロットへ変更されました。
現職ペアが正式に指名
党大会初日、トランプ大統領とペンス副大統領は正式に指名されました。これにより、民主党のバイデン氏とハリス氏のペアと争うことが確定しました。
再び指名された理由として、1期目で実施された経済対策(好調な株価)や不法移民対策などが評価されています。一方で、民主党から度々批判されている新型コロナウイルス対策については問題視されておらず、11月の本選に向けて攻撃要素を残している状態です。
党大会前から、トランプ氏とペンス氏が指名されることは間違いないと見られていたことから、予定通りの結果と言えるでしょう。
政策綱領案は2016年版から更新なし
当選した場合、2期目となるトランプ政権は、2016年の大統領選時に発表した政策綱領案を踏襲する形になります。大きな変更や修正はないものの、「アメリカ第一主義」がより鮮明な内容になっています。
なかでも、経済、外交、不法移民、そして対中政策においてアメリカ第一主義という基本方針が見てとれます。民主党の政策綱領案と比較すると「自国優先」「非協調路線」「国内産業回帰」といった点が特徴と言えるでしょう。
例えば、国内雇用を維持するために、中国を始めとする海外諸国からアメリカ国内へ回帰した企業に対して減税措置を実施、不法移民には税金を使った福祉サービスを提供しないなどが挙げられます。
共和党の政策綱領案は、国際協調や人道的な政策を重視する民主党と比較して、極めて対照的な政策と言えます。
アメリカの共和党大会で語られたこと
次に、共和党大会で誰がどのようなことを語ったのか、主な発言をご紹介します。
ペンス副大統領の発言
ペンス副大統領は3日目にメリーランド州で指名受諾演説を行いました。
トランプ大統領から全幅の信頼を置かれているペンス氏は、アメリカ人の4分の1を占めているとされるキリスト教福音派からの支持が厚く、これらの層はトランプ再選に欠かせないと言われています。(2016年の大統領選でトランプが勝利した要因とされている)
ペンス氏は演説の中で、トランプ政権は経済や外交において約束を守ってきたことを強調し、トランプ大統領再選のために戦うべきだと訴えました。人工中絶や銃規制に反対する立場を見せ、勝利への鍵を握る保守層へのアピールも万全です。
ペンス氏は、30分を超える演説の中で繰り返し民主党のバイデン氏を批判し続けたことが特徴的でした。(2分に1回のペース)
バイデン氏について「中国のチアリーダーになっている」「不法移民に税金を使おうとしている」「急進左派のトロイの木馬」などと厳しく批判しています。また、バイデン氏ではアメリカを守れず、アメリカを社会主義化と崩壊に導くだろうと付け加えました。
保守派の支持団体が「ペンス氏こそ司令塔」と評価している通り、決して目立たずトランプ大統領を忠実にサポートし、支持基盤の確保という重要な仕事もこなしています。接戦州とされるフロリダ州やアリゾナ州などを度々訪問しており、優秀な副大統領をアピールして見せました。
ポンペオ国務長官の発言
ポンペオ国務長官は歴訪中のイスラエルで収録したビデオ演説でコメントしました。
演説のなかで対中問題について触れ、トランプ政権は中国に新型コロナウイルス感染拡大の責任を取らせることや、外交官になりすました中国人スパイの摘発や、強制送還したというこれまでの実績も強調しました。
また、エルサレムをイスラエルの首都に認定したことや、イスラエルとUAEの国交正常化の仲介、北朝鮮との首脳会談実現、過激派組織ISの指導者を殺害した成果なども重ねて強調しています。
現政権でトランプ大統領に次いで発言力が大きいとされるポンペオ氏ですが、政権公約に基づいて着実に成果を挙げていることをうまくアピールしました。
一方で、国務省の現職高官は党大会に参加してはいけないという内規を破って参加していると民主党陣営が攻撃しています。これに対して共和党陣営は、あくまでもポンペオ氏は個人出演であり、国務省の費用や人員は関与していないと一蹴しました。
次の(2024年)共和党大統領候補として名前が挙がっているポンペオ氏だけに、党大会でも存在感を示しておきたかった狙いがあるとされています。
メラニア夫人の発言
党大会2日目、メラニア・トランプ大統領夫人がホワイトハウスで演説を行いました。
ホワイトハウスの中庭に招待された関係者の前で、おおよそ30分にわたって大統領の働きや、ファーストレディーとしての活動、移民から始まったアメリカでの生活、新型コロナウイルスによる困難、自身が運営している子どもや若者の幸福を追及するキャンペーン「Be Best」などについて触れました。
メディアや野党からは非難しかされない大統領に対して「(隣りで)日頃の努力を見ており、大統領は今後も諦めずに努力するだろう」と擁護してみせました。
大統領夫人ということもあり政治色を除いた演説でしたが、多様性や家族、国の団結などを呼びかける内容だったと言えます。普段は表立って演説する機会はない夫人ですが、メディアからは重要な仕事をやり遂げたと評価されています。
これに対して民主党は、連邦政府関係者による選挙活動は法律で禁止されているにもかかわらず、演説を実施するにあたってホワイトハウス職員が関与したことは違法行為と批判しています。しかし、慣例を破ってまで演出することは現政権の強さを感じさせる場面でした。
共和党大会で採択された政策綱領案の要旨
ここでは共和党大会にて採択された政策綱領案について、民主党との違いも交えてご紹介します。
発表されたものは2016年版の政策綱領案を踏襲していますが、2期目では経済、新型コロナ、社会保障、不法移民、外交、そして対中政策を中心に取り組むとしています。
経済について
・10ヶ月で1,000万人の雇用創出
・国内回帰をする企業に対する減税措置(Made in America減税)
・アメリカの雇用を保護するための公正な貿易協定
民主党はインフラ整備やクリーンエネルギー事業を通して500万人の雇用を創出するとしていますが、共和党は1,000万人規模の雇用創出を約束しています。雇用創出の具体的な施策は発表されていませんが、製造業などの「国内回帰」によって実現させると見られます。
これらの政策は、再選のために重要とされている白人労働者や保守層に対して「アメリカ第一主義」を強くアピールする狙いがあると思われます。共和党と民主党のどちらが「早く、多く」雇用を生み出せるかがポイントになりそうです。
新型コロナウイルスについて
・2020年内にワクチン開発
・2021年内にアメリカ社会を元に戻す
民主党は検査や治療、ワクチン接種などを無償で提供するとしています。一方で、共和党は費用や援助については具体案を示していません。新型コロナウイルスは、アメリカ人にとって喫緊の問題だけに、軽視し過ぎることは懸念材料になるかもしれません。
社会保障について
・公的医療保険制度(オバマケア)を撤廃
社会保障は共和党と民主党で真っ向から対立するかたちです。オバマ政権時代に成立したオバマケアの撤廃は、トランプ大統領の目玉公約のひとつなので、2期目でも完全撤廃に向けて動くと見られます。
貧困層や無保険者からの批判は避けられませんが、制度そのものの有効性や仕組みが疑問視されているため、中間層や富裕層からは制度撤廃を歓迎する声も多いようです。
不法移民について
・不法移民が税金による支援を受けられなくする
・企業がアメリカ人の代わりに低賃金の外国人労働者を雇用することを禁止する
不法移民対策も民主党とは対照的です。民主党は一定の条件を満たす不法移民に対して、市民権を与える制度を打ち出しています。また、不法移民に対する教育や医療は税金を財源にして提供するとしており、富裕層や保守層からは批判されています。
トランプ政権は不法移民に厳しい姿勢を徹底しており、アメリカ第一主義か人道支援のふたつで意見が割れています。オバマ政権において、不法移民に対する過剰な優遇が問題視されたことから、共和党の方針は支持されやすいと見られます。
外交について
・グローバル化を排除し、アメリカが損する国際機関と対決する
・同盟国に公正な負担金を支払わせる
・イラクやアフガニスタンなどの海外駐留アメリカ軍の撤退および縮小
・最強の軍事力を拡大する
・終わりなき戦争をやめる
外交においてもアメリカ第一主義が鮮明です。民主党はWHOやパリ協定への再加入を掲げていますが、共和党はこれまで通り国際機関との対立姿勢を崩していません。
同盟国に対しては、駐留アメリカ軍に対する負担金を払わせるとしていることから、日本も影響を受けそうです。皮肉にも「戦争を終わらせる」という公約は両党で一致しています。
対中政策について
・中国依存を終わらせる
・100万人分の製造業の雇用を取り戻す
・中国から国内回帰した企業への税制優遇措置
・連邦政府は中国に業務を委託する企業とは取引しない
・新型コロナウイルス感染拡大の責任を負わせる
共和党の政策綱領案で注目される点が対中政策です。対中問題だけは他の外交政策と区別していることから、トランプ政権が本腰を入れていることが分かります。
アメリカでは新型コロナウイルス騒動以降、中国に対する反感が強まっていることから、対中政策に注力することで支持を集め、民主党との違いを明確に打ち出す狙いがあると見られます。
共和党大会最終日に行われた大統領指名受諾演説について
党大会最終日、トランプ大統領はホワイトハウスでおおよそ1,500名の招待客を招いて指名受諾演説をおこないました。
会場に集まった支持者のほとんどはマスクをせず、ソーシャルディスタンスも取らない密集状態でした。感染拡大を恐れてオンライン化した民主党とは対照的に「日常のアメリカ」を演出したと見られます。
トランプ大統領は演説の冒頭で「アメリカ史上最も重要な選挙になる」としたうえで、アメリカンドリームを救うのか、社会主義者(民主党)の政策を受け入れるかの2択だと述べています。
演説では「1期目の実績」「中国批判」そして「アメリカ第一主義」を重点的に話しました。いずれのパートにおいてもバイデン氏や民主党を批判し、巧みに共和党の政策を際立たせています。
1期目の実績については、TPPやパリ協定からの離脱で不公平なコストを削減したことや、記録的な減税と規制緩和によって、わずか3年で世界史上最高の経済を作り出したとアピールしました。
また、2期目でも「過去にないほどのレベル」で減税や規制緩和を続けるとし、中国からアメリカに回帰した企業に税制優遇措置を設けて「次の4年でアメリカを製造業の超大国にする」と宣言しています。
演説の中で度々中国批判を繰り返したトランプ大統領は、バイデン氏や民主党と中国を結びつけて「アメリカの偉大さを破壊する人」と断定し、バイデン氏が掲げた政策綱領案を「メイドインチャイナ」と呼び、自らの政策を「メイドインアメリカ」と強調しました。
対中問題については、アメリカ史上最も強く厳しい姿勢で取り組んでいるとし、中国依存から脱却してアメリカ第一主義に貢献するとアピールしています。
奇しくも、共和党大会中にウィスコンシン州で起きた警察官による黒人男性銃撃事件についても触れ、バイデン氏は沈黙を貫いて何もしていないと批判したうえで、自らは法と秩序を重視してデモ隊から市民を守ったと成果を主張しました。(実際には2名が死亡、火災や略奪も起きており、なぜこれが起きたかについては触れていない)
この他にも、5G競争に勝つことや、世界最強のサイバー防衛、ミサイル防衛の構築、そして女性の月面着陸、火星への有人飛行など、「アメリカの新しい一章」についても触れました。
1時間を超える演説の最中、ホワイトハウス周辺には1,000名近いデモ隊によって、警察官による黒人男性銃撃事件に抗議する姿もありましたが、アメリカを再び偉大な国にしようと呼びかけて終了しました。
まとめ
以上、「アメリカ大統領選・2020年共和党大会まとめ」でした。
共和党大会は先に行われた民主党大会と比較して、小規模ながら従来の様式を残した姿でした。これには、新型コロナウイルスの影響は限定的であり、民主党のように恐れる必要はないという「強い共和党」をアピールする狙いがあったと見られます。
トランプ政権の実績、中国批判、バイデン氏および民主党批判などを繰り返し、共和党の存在感を示した4日間だったと言えるでしょう。
事前予想では劣勢とされている共和党だけに、有権者の注目を引くことに注力したと見られます。民主党よりも具体的な政策や実績を示したことから支持者からの評判は上々です。
11月3日の投票日まで、両党の激しい攻防が続きます。
ぜひ、2020年の民主党大会についての記事もご参照ください。
アメリカでは4年に1度、アメリカ合衆国のそれぞれの党が、正副大統領の指名候補を選出する時に開く大会があり、これを「党大会」といいます。民主党が開催する党大会は「民主党大会」と呼ばれます。今回は、アメリカの「アメリカ大統領選・2020年民主党大会」について、アメリカ在住の日本人にレポートいただきました。
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