はじめに - 2020年の民主党大会開催
2020年8月17日から4日間の日程で民主党大会が開催されました。
大統領候補のジョー・バイデン氏や、副大統領候補のカマラ・ハリス氏などが正式に指名を受け、政権奪回を目指してトランプ大統領率いる共和党と対決します。
通常であれば大いに盛り上がるはずの党大会ですが、新型コロナウイルス感染防止を優先し、実質的な「バーチャル党大会」になりました。
2020年の民主党大会ではいったいどのようなことが話題になり、民主党はどのような政策を掲げたのか、そしてバイデン氏は何を語ったのか、まとめてご紹介します。
今回は、アメリカの「アメリカ大統領選・2020年共和党大会」について、アメリカ在住の日本人にレポートいただきました。
なお、アメリカの「党大会」、「アメリカ大統領選・2020年共和党大会まとめ」については、それぞれ以下の記事もご参考ください。
アメリカの大統領選では、「予備選挙」「党大会」「テレビ討論会」「投票日」という大きな流れがあります。これらのうち、特に「党大会」についてはよくニュースなどで耳にするけれど、詳細がわからないという方も多いのではないでしょうか?今回は、「アメリカ大統領選の党大会」について、アメリカ在住の日本人にレポートいただきました。
アメリカでは4年に1度、アメリカ合衆国のそれぞれの党が、正副大統領の指名候補を選出する時に開く大会があり、これを「党大会」といいます。共和党が開催する党大会は「共和党大会」と呼ばれます。今回は、アメリカの「アメリカ大統領選・2020年共和党大会」について、アメリカ在住の日本人にレポートいただきました。
アメリカの「民主党大会」の概要
まず、民主党大会の概要について見てみましょう。
アメリカ史上初のオンライン党大会
共和党大会に先駆けて開催された民主党大会は、アメリカ中西部のウィスコンシン州ミルウォーキーが会場になりました。
本来であれば、民主党の代議員や上下両院議員、州知事、支持者などを含めて数万人規模のイベントになるはずでしたが、新型コロナウイルスの影響を受けて、大幅な規模縮小、録画や中継を使った「オンライン会議」になりました。
ミルウォーキーのメディアは、民主党大会が開催されることで2億ドル(約210億円)の経済効果が得られるとしていましたが、実際には数百人規模の関係者しか滞在しておらず、地元からの票は期待できない結果になりました。
ウィスコンシン州は接戦州のひとつとされており、2016年の大統領選でトランプ氏が当選した大きなきっかけとされている重要州です。
民主党は同州で党大会を開くことで、同州での勝利に結びつけたい目的がありましたが、思わぬ形で新型コロナウイルスの影響を受けてしまいました。
予想通りの党大会
今回の民主党大会は、オンライン化されたこと以外に目立った動きはありませんでした。
予定通りにバイデン氏が大統領候補、ハリス氏が副大統領に指名され、政策綱領案についてはトランプ政権とは対照的な政策が並びました。
なかでも、トランプ政権が実施してきたことを「元に戻す」政策が目立ちます。
例えば、WHOへの再加盟、気候変動対策の国際的な枠組み「パリ協定」再加入、富裕層への増税、法人税の引き上げなどがあります。
また、副大統領候補のハリス氏の指名受諾演説では、オバマ政権の意志を継ぐかたちで「医療保険制度改革法(オバマケア)」の拡充を訴えており、バイデン氏やハリス氏のオリジナリティは薄く「オバマ政権時に戻る」ような印象を残しています。
テレビ視聴者数は28%減
党大会初日のテレビ視聴者数は全米で約1,870万人とされ、2016年と比較して28%も下落しています。
本来であれば注目される基調演説の多くは録画であることや、SNSや民主党公式サイトを通していつでも視聴できることから、テレビ視聴者数が減少したと見られています。
一方で、オバマ前大統領、ミシェル・オバマ夫人、ジミー・カーター元大統領、ビル・クリントン元大統領などが基調演説で参加したことは注目を集めました。なかでも、95歳のカーター元大統領による演説は、ちょっとしたサプライズだったと言えるでしょう。(実質的には音声のみ)
アメリカの民主党大会で語られたこと
次に、民主党大会で誰がどのようなことを語ったのか、主な発言をご紹介します。
カマラ・ハリス副大統領候補の発言
民主党大会3日目、正式に指名を受けたハリス氏は副大統領指名受諾演説でオバマ政権を踏襲する考えを示しました。
ハリス氏は演説のなかで、新型コロナウイルス対策に失敗したトランプ政権を痛烈に批判したうえで、公的医療保険(オバマケア)の拡充によって無保険者を減らすと主張しました。
コロナによって失業した人や、低所得者層にも医療保険を提供する「弱者に優しい政策」は、オバマ政権とよく似ています。
また、演説では人種差別根絶についても多くの時間を費やしました。コロナの影響で少数派人種は様々な影響を受けていると指摘したうえで「偶然ではなく構造的な問題」とし、問題解決に取り組むことを表明しています。
ミシェル・オバマ夫人の発言
党大会初日にビデオ演説で登場したミシェル・オバマ前大統領夫人は「トランプ氏は大統領にふさわしくない」と辛辣な言葉で批判しました。
また、コロナウイルスの対応を巡っては「過小評価を続けた結果、アメリカ経済は大混乱に陥っている」と指摘しています。
5月に発生した白人警察官による黒人殺害事件についても触れ「黒人の命が大切なことを愚弄している」とし、トランプ大統領を人種差別主義者として扱いました。
これまでオバマ夫婦の演説は語りかけるような前向きな演説として定評がありましたが、党大会では辛辣な言葉が並び、夫人までもが現政権を批判する異例の形になりました。党大会初日の演説だっただけに、夫人によるトランプ批判は強烈な印象を残したと言えるでしょう。
オバマ前大統領の発言
オバマ前大統領はアメリカ建国の地であるフィラデルフィアから中継で演説し「トランプ氏は能力がないから大統領に育たなかった」と批判しました。
また「トランプ政権は再び勝利するためなら民主主義を破壊する」と警告したうえで、トランプ大統領が問題視している郵便投票は「(勝つために)投票を困難にしようとしている」と、大衆に危機感を示しています。
自身が大統領時代に副大統領を務めたバイデン氏を「経験豊富」と評価し、副大統領候補のハリス氏についても「理想的なパートナー」と強調しました。
ヒラリー・クリントンの発言
2016年の大統領選でトランプ大統領と争ったヒラリー・クリントン氏は、一般投票で得票数が上回ったものの獲得選挙人の数で敗れた前回の大統領選に触れ「トランプ氏がこっそり勝てないようにするには圧倒的な差が必要」と投票を呼びかけました。
また「いまのアメリカにはリーダーが必要」とも述べており、トランプ大統領をリーダーとして認めていない立場を強調しています。ビデオ演説では終始「カンペ」に目をやる姿が続いたことが印象的でした。
ジョン・ケーシックの発言
民主党大会に共和党のジョン・ケーシックが登場しました。同氏は下院議員9期、オハイオ州知事2期を務めた経験がある共和党の重鎮で、2016年の大統領選ではトランプ氏と共和党候補選びで争った関係です。
同氏は演説のなかで「トランプを再選させてはならない」と強調したうえで「今よりはもっと良くなる、絶対に」と結束を促しました。
他にも、共和党系の有力実業家として知られるメグ・ホイットマンや、ブッシュ政権で国務長官だったコリン・パウエル、元ニュージャージー州知事クリスティーン・ホイットマンらも参加し、いずれも共和党ながらバイデン氏を支持すると公言しています。
このように、基調演説や応援演説では一貫して「トランプ批判」が繰り返され、所属政党を問わず「対トランプ」を意識させる内容になりました。
民主党大会で採択された政策綱領案の要旨
ここでは民主党大会にて採択された政策綱領案についてご紹介します。主要な内容を理解することで、民主党が考える方向性が見えてきます。
経済について
・2026年までに連邦最低賃金を15ドル/時間に引き上げ
・50万ヶ所に電気自動車公共充電スタンドを設置する
・アメリカの競争力強化に優先投資し、それまでは新たな貿易協定の交渉はしない
・低公害の国産原料の需要増加を目指すBuy America, Buy Cleanプロジェクトの導入
・銀行による自社資産を使ったハイリスクな市場取引を禁止する(金融規制改革法/ボルカー・ルールの強化)
税制について
・トランプ政権が35%から21%に引き下げた法人税を28%まで戻す
・富裕層への課税強化
・中間層に恩恵がある税制改革の実施
・投資家が労働者と同じ税率を支払うようにする
内政について
・アメリカ全市民に新型コロナウイルス検査、治療、ワクチン接種の無料提供支援
・最低12週間の有給家族・医療休暇が保障されるようにする
・社会保障の削減や民営化、弱体化などを一切拒否する
・国民皆保険(公的医療保険)の拡充
・年収125,000ドル(約1,375万円)未満の家庭の学生を対象に公立大学を無償化、コミュニティカレッジや専門学校も無償化する
・10,000ドル(約110万円)までの学生ローン免除
・銃購入時に身元確認を義務付ける
・安全で合法的な中絶を支持する
・全国的な基準を有する警察の実力行使規制の導入
外交について
・トランプ政権で著しく低下した評判や影響力を取り戻す
・同盟国との関係修復、再構築をする
・日本、韓国、オーストラリアなどアジア太平洋諸国と同盟強化
・同盟国と協力して北朝鮮による核の脅威を抑制し、封じ込める
・イラン核合意を巡る相互順守への復帰
・北大西洋条約機構(NATO)の公約再確認
・イスラエルとパレスチナの2国家共存を支持
・世界保健機関(WHO)や国連人権理事会、国連人口基金に再加盟し、改革する
・パリ協定に再加入
・永久化した戦争を責任ある形で終結させる
移民・人種問題について
・イスラム諸国からの入国制限措置を即時撤廃
・就労ビザ発給停止措置の撤廃
・不法移民が市民権を獲得できるようにする
・性的少数派の差別禁止法を成立させる
対中問題について
・中国政府や中国企業による為替操作、違法行為、知的財産の窃盗などの不正行為や貿易慣行からアメリカ人労働者を守る
・新冷戦や関税戦争などの自滅行為に陥らない
・経済や安全保障、人権に関する深刻な懸念に強く立ち向かう
・香港を巡る「香港人権民主主義法」を完全施行する
民主党大会で採択された政策綱領案から読み取れること
民主党が打ち出した政策綱領は多岐に渡りますが「トランプ政権と真逆」そして「オバマ政権の踏襲」ということが特徴的です。
トランプ政権と真逆の政策
経済や外交はトランプ政権とは対照的で「元に戻す」ような政策が目立ちます。
例えば、減税に注力して経済を回復させたトランプ政権に対し、バイデン氏は増税によって経済に公正さを取り戻そうとしています。10年で3兆ドル(約330兆円)規模の増税額を見込んでおり「バイデン増税」と呼ばれています。
また、国際協調よりもアメリカ第一主義を貫くトランプ政権とは対照的に、バイデン氏は国際協調路線を打ち出しています。また、失った国際的な信頼回復にも注力するとしており、アメリカの国際的な地位を取り戻したい考えです。
オバマ政権の踏襲
政策綱領案はオバマ政権を踏襲した内容と言えます。
ハリス副大統領が演説で強調したように、公的医療保険の拡充はオバマ政権時の政策そのものです。トランプ大統領が就任初日に大統領令によって見直すことにした保険制度を再び強化する計画です。
不法移民に市民権を与える制度や、イスラム諸国からの入国制限措置を撤廃するなど、オバマ政権がそうであったように「人道的な政策」が多いことが特徴と言えるでしょう。
周囲に配慮した政策綱領案
国際協調や国際的な信頼回復を目指す一方で、対中問題においてはトランプ政権ほど強硬的ではないものの、強気な姿勢です。
バイデン氏が対中政策に強気な姿勢を取る背景には「親中国派」というイメージを払拭したい思惑があります。
トランプ陣営によって、バイデン氏の次男が金融会社を通して中国企業に巨額の投資をしていたことが指摘されており、対中で強硬姿勢を強める世論に配慮したと見られます。
他にも、妥協点が見られます。
民主党のなかでもとくにリベラル(極左)な政策を掲げ、民主党候補者選びでバイデン氏と最後まで争ったバーニー・サンダースは、大学無償化、学生ローンの免除、国民皆保険などの政策を打ち出していたことから、多くの若者から支持されていました。
民主党の中でも中道派として知られるバイデン氏は、サンダース氏の政策を取り込むことに消極的です。しかし、これらの政策を受け入れることで、若者層の票を獲得できる見込みから政策綱領案に盛り込んでいます。
バイデン氏は「多様性」を重視していることから、政策綱領案には多様性が色濃く反映されているようです。
民主党大会最終日に行われた大統領指名受諾演説について
民主党大会最終日、地元デラウェア州で指名受託演説を行ったバイデン氏は、怒り、恐怖、分断を生み出したトランプ政権を批判したうえで「結束することで暗黒の時代を乗り越えられる」と呼びかけました。
演説は主に4つの内容で構成されており、新型コロナウイルス(パンデミック)、経済、人種差別問題、そして地球温暖化問題について語っています。
演説序盤では、大統領としての最初の仕事は新型コロナウイルスの抑制とし、トランプ大統領による一連の対応を「地球上の国のなかで最悪」と非難しました。同時に、「大統領としてアメリカを守る」と述べ、強さを強調しています。
また、1930年代の大恐慌時代を乗り越えたフランクフルト・ルーズベルト元大統領の功績に触れ、自らも大規模投資を実施することで500万人の雇用を生み出すとし、インフラ整備など政府主体の経済対策に取り組むことにも触れています。
人種差別問題については、5月に白人警察官に殺害されたジョージ・フロイド氏に触れつつ、「アメリカに染み付いた人種差別問題を一掃できる世代である」と述べました。人種差別問題是正に声をあげた多くの若者の声にも理解を示し、大統領の仕事として人種差別問題を解決するとしています。
地球温暖化を巡っては、アメリカがクリーン・エネルギーで世界をリードすることで、高賃金の雇用を何百万も生み出せると強調しました。これを実現するために、政府による積極的な投資を行い、財源にはトランプ大統領が実施した富裕層と大企業の1兆3,000億ドル分の減税を止めることで賄うとしています。
演説のなかで度々「Unite.(結束)」という言葉を用いたバイデン氏は、民主党や共和党といった枠組みにとらわれることなく、アメリカ国民全体が結束して困難を乗り越えようと呼びかけました。
「多様性」を強調するバイデン氏は「結束」という言葉を使って「トランプ対アメリカ」という選挙になることを演出したかったと思われます。
まとめ
以上、「アメリカ大統領選・2020年民主党大会まとめ」でした。
今回の民主党大会では、バイデン氏とハリス氏が指名され、オバマ政権時代を踏襲した政策綱領案が発表されました。
目新しい政策や取り組みよりも「アメリカを元に戻す」ことに重点を置いた内容になっていますが、元に戻ることをアメリカ人が歓迎するかは不透明です。
新型コロナウイルスによって生まれた弱者や、人種差別問題を訴える少数派をどのように守っていくか、民主党の腕の見せどころです。民主党がどこまで「多様性」を具現化できるか注目しましょう。
ぜひ、2020年の共和党大会についての記事もご参照ください。
アメリカでは4年に1度、アメリカ合衆国のそれぞれの党が、正副大統領の指名候補を選出する時に開く大会があり、これを「党大会」といいます。共和党が開催する党大会は「共和党大会」と呼ばれます。今回は、アメリカの「アメリカ大統領選・2020年共和党大会」について、アメリカ在住の日本人にレポートいただきました。
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