アメリカの次期政権「民主党」が抱える問題点とは?(2020年11月3日)

2020年11月3日に行われたアメリカの大統領選挙は、民主党のバイデン氏の勝利宣言によっていったん決着しました。

本記事では、次期政権になる予定の「民主党」が抱えている問題点について、アメリカ在住の日本人にレポートいただきました。


はじめに - 2020年11月の大統領選挙に勝利した民主党

2020年の大統領選は民主党のバイデン氏の勝利宣言によって決着しました。しかし、共和党のトランプ大統領やその周辺は敗北を認めておらず、法廷闘争を続ける異例の事態になっています。

今回勝利した民主党は、一般的に「リベラル(自由主義)」で、政府が主体になって社会保障や生活保護を整える「大きな政府」という方針で知られています。共和党とは対照的な政治理念で、近年ではアメリカの若者や富裕層を中心に支持されています。

そんな民主党がアメリカの次期政権に決定した訳ですが、実は民主党は「一枚岩」ではなく、党内結束が弱いという欠点があります。

次期政権において、アメリカの政治動向を把握するためには「民主党の弱点」を理解しておくと良いでしょう。今回は民主党が抱える問題点について解説します。

アメリカの「民主党」の概要

はじめに、アメリカの民主党(Democratic Party)がどのような政党なのか概要を見てみましょう。

アメリカの「民主党」はどんな政党なのか?

民主党を一言で表すならば「リベラル(自由主義)」な政党です。基本的な政治指針としては、文化、道徳、経済など様々なことに対して政府が主体的になって取り組み、それぞれの権利を尊重して容認する立場を取ることが多いのが特徴です。

民主党は多くのことに積極的に取り組むことから「大きな政府」と例えられますが、政府の介入を嫌悪する人や共和党支持者からは「ナショナリスト」や「社会主義者」などと呼ばれることもあります。

オバマ政権やバイデン新政権では、民主党の政治指針を示すように、国民健康保険の導入や不法移民への市民権発給、クリーンエネルギーへの投資、LGBTの権利容認などに取り組んでいます。

民主党の政策は時代に見合っていることや、人道的なものが多いため、好意的な印象を持つ人がいる反面、「なぜ政府がそこまでするのか?」や「とても実現できそうにない」という反応が起こりやすいとされています。

アメリカの「民主党」は、党内派閥が生じやすい政党

民主党はリベラルであることが最大の特徴と言えますが、リベラルには非常に幅広い定義があるため「どこまでをリベラルと判断するか」が度々議論になり、党内の対立を生んでいます。

この結果、民主党内にはリベラルながら保守的な「右派」、中立的な「中道派」、そして徹底してリベラルな思想を持つ「左派」の3つのグループが存在します。さらに、リベラルに傾倒し極端な思想や革新的な政策を支持する「急進左派」があります。


例えば、大統領選に先立って実施された民主党候補者選びでバイデン氏と最後まで争った、バーニー・サンダース氏は急進左派として知られており、公立大学無償化や国民皆保険(メディケア・フォー・オール)など、大胆な政策を打ち出していました。

次期大統領のバイデン氏は穏健な中道派として知られていますが、副大統領のカマラ・ハリス氏は急進左派から徐々に中道派に移行しています。

ハリス氏は候補者選び討論会において、人種差別者を支持したバイデン氏を追及し謝罪に追い込みました。この言動からハリス氏は急進左派としての印象を決定付けましたが、大統領選ではバイデン氏を支える副大統領として足並みを揃えるように立場を変えたと見られます。

トランプ大統領はこのハリス氏の言動に対して「急進左派として失敗したのにメディアは(彼女を)受け入れている」と批判し「(討論会では)誰よりもバイデンを見下していた」と攻撃しました。

また、民主党内でもハリス氏の派閥移行を快く思っていない議員もおり、ハリス氏の「一貫性のなさ」を指摘する声もあります。

このように、民主党内には右派、中道派、そして左派の大きな党内派閥があり、それぞれが同じリベラルでも思想や方針が異なるため「一枚岩」になれないことが弱点と言えます。

このことは、政策決定にも影響するため、民主党が与党であったとしても円滑に政権運営が進まないことを意味します。言い換えれば、バイデンとハリス両氏にとっての政権運営は「民主党内の取りまとめ」と「共和党からの支持獲得」という、ふたつの大きな課題があると言えます。

バイデン氏が掲げる政権公約は共和党からの反発は必須ですが、まずは民主党内の派閥をどうまとめるかが焦点になるでしょう。

アメリカの「民主党」内で、さっそく起きた党内衝突

民主党内の衝突はすでに始まっており、バイデン政権を不安視する事態になっています。

大統領選と同時に実施された連邦議会下院選において、民主党は過半数獲得を確実にしました。一方で、目標としていた議席数の大幅増は実現しそうにない状況になり、その責任問題について党内衝突が起きているのです。

今回の選挙では435席の下院議員を巡り、民主党が218席を確実にして過半数を維持しました。しかし、現状の232席からの上乗せはならず、議席を減らす事態になっています。共和党はすでに201席を獲得しており、残り16議席を巡る攻防が続いています。

これを受けて民主党内では「急進左派による過激な政策(国民皆保険など)が原因」とする声があがり、左派はこれを否定する事態になっています。

2021年1月に召集される新議会では、下院議長のナンシー・ペロシ氏の再任を阻止する動きもあり、スタートから民主党の足並みが揃わない可能性が出てきました。

批判の対象になっている急進左派のひとり、アレクサンドリア・オカシオコルテス(Alexandria Ocasio-Cortez)氏は「(過激な政策とされる)国民皆保険やグリーン・ニューディール政策を訴えた議員はみんな当選している」とし、党内からの批判をかわしています。

事実、急進左派とされる議員の当選が相次いでいます。ニューヨーク州では、黒人のジャマール・ボウマン氏(Jamaal Bowman)、ミネソタ州ではイスラム教徒で難民として渡米してきたイルハン・オマル氏(Ilhan Omar)などが相次いで勝利し、民主党内で左派の影響力が増してきています。


大統領選が決着したいま、大統領選期間中に一時休戦していた党内派閥争いが再発した訳です。中道派のバイデン氏は頭角を現わす左派に配慮し、選挙公約に「公立大学の無償化」や「国民皆保険の拡充」を盛り込んでいますが、実現に向けては共和党からの反発が必須で、党内からの信頼を得るには苦労すると見られます。

アメリカの「民主党」が上手く機能するための条件

党内派閥によって一枚岩になれない民主党ですが、政権運営が円滑に進むシナリオが残されています。

最も現実的なシナリオが「上院議員でも過半数獲得」です。民主党は、100議席ある上院議員でも過半数を獲得できれば上下両院で民主党優勢となり、円滑な政権運営が実現し、党内衝突を減らせます。

具体的には、2021年1月5日に実施されるジョージア州の決戦投票で勝利して、2席を獲得する必要があります。民主党はすでに48議席獲得しているため、ジョージア州で勝利すれば50席を占めることになります。

仮に、民主党と共和党が50席ずつになった場合、上院議長を務める副大統領の1票によって決まります。副大統領は民主党のハリス氏になると見られていることから、実質的に過半数獲得となり、上院議会の採決は民主党にとって有利になる訳です。

そのため、バイデン氏をはじめとする民主党の主力メンバーとしては「上院議会でも過半数獲得」はぜひとも実現したいシナリオと言えます。

上院議会は政策決定や人事権などに大きな影響力を持っており、党内結束に不安を抱える民主党が一枚岩になれるかどうかの重要なポイントです。

反対に、上院議会で共和党が優勢になれば、バイデン氏に対する民主党内からの風当たりが強くなり、バイデン氏は民主党と共和党の板挟みになる可能性もあります。この結果、政治が空転することも考えられるため、バイデン氏は「味方(民主党)を敵にしない」ことに翻弄されるでしょう。

このようなことは、結束力が強い共和党では起こりづらく、民主党ならではの問題点と言えます。オバマ大統領が党内を取りまとめることに苦労し、大統領令を頻発したひとつの理由でもあります。

まとめ

以上、「アメリカの次期政権「民主党」が抱える問題点とは?」でした。

民主党はリベラルな風潮で若者や富裕層からの支持を得ていますが、リベラルであるが故に党内派閥が生じやすく、党内結束の弱さが問題と言えます。保守的な共和党と比較して「党内政治」で手を焼くことが多いため、肝心の国政に集中できない可能性があります。

バイデン氏は多くの理想的な政策を掲げていますが、これらの政策を実現するためには「民主党内の取りまとめ」が必要です。バイデン氏が民主党をまとめることに時間と労力を使わず、国政に専念できるように党内結束が求められるでしょう。

本記事は、2020年11月17日時点調査または公開された情報です。
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