わかる政治経済シリーズ 第26回

社会権における「労働基本権」とは?

社会権シリーズ第4回目は、「社会権」の中の「労働基本権」について説明します。


「労働基本権」とは?

「労働基本権」とは、国民が人間らしい生活ができるように、労働者としての様々な権利を保証するものです。「資本主義社会」において、労働者は使用者と比べ弱い立場に置かれています。そのため、不当な搾取や貧困によって生活が脅かされる危険があるため、それを防ぐため様々なルールが定められています。

国が定める「労働基本権」は「勤労の権利」と「労働三権」からなっています。以下で順を追って説明していきます。

まずは「勤労の権利」について見ていきます。

労働基本権キーワード:「勤労の権利」とは?

勤労の権利とは、国民は労働(勤労)を行い、その対価を得ることで日々の生活を営んでいます。

「勤労の権利」は憲法27条一項に次のように規定されています。

第1項 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。

全ての国民には勤労の権利があり、また勤労の義務を負います。これを「勤労の権利」と言います。「労働権」と呼ぶこともあります。

「勤労の権利」には、日本国民が就職の機会を与えられ、国家によってその機会を妨害されることなく勤労することができるという「自由権」的な側面と、勤労の意思があるにもかかわらず就職の機会が与えられない場合には、「職業紹介」などで適切な労働う機会を与えるなど、生存に必要な保証を国に対して求めることができるという「社会権」的な側面の二つの面があります。

次に、憲法27条2項では「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。」と規定しています。賃金などの勤労条件を使用者側が勝手に定めてしまうと、労働者にとって不利な状況になる恐れがあるからです。そのため、国が「最低賃金法」や「労働基準法」を定め、労働者の立場を確保することになっています。

さらに27条3項では「児童は、これを酷使してはならない」と規定し、児童労働を禁止しています。これは、「資本主義経済」が発展する過程で過酷な児童労働などの社会問題があったことの反省に立っています。

次に「労働三権」とは何かについて説明します。


労働基本権キーワード:「労働三権」とは?

先述した「勤労の権利」を守るために、日本には「労働三権」というものがあります。

「労働三権」とはそれ自体が1つの法律ではなく、国民が劣悪な労働環境を強いられることなく安心して働くことができるように「勤労の権利」を守るための、「団結権」「団体交渉権」「団体行動権(争議権)」の3つの権利をまとめて呼ぶものです。「労働基本権」と呼ばれることもあります。

以下で、それぞれ「団結権」「団体交渉権」「団体行動権(争議権)」について説明していきます。

「労働三権」の中の「団結権」とは?

「団結権」とは、「労働組合」という団体を組織し、加入する権利のことです。憲法28条では「団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利」として規定されています。

労働条件に不満があっても、労働者一人一人は使用者と比べ圧倒的に立場が弱く、対抗したり労働環境を改善させたりすることは困難です。しかし、労働者たちが団結して「労働組合」を組織し声を合わせることで、使用者と対等な立場で話し合いを行うことができます。

「労働三権」の中の「団体交渉権」とは?

「団体交渉権」とは、「労働組合」が使用者と労働条件などを交渉し、文書などで約束を交わすことができる権利のことです。使用者は、「労働組合」から「団体交渉」の申し出があった場合、交渉に応じなければなりません。

「労働三権」の中の「団体行動権(争議権)」とは?

「団体行動権」とは労働条件の改善などの要求を実現するため、仕事を放棄して「ストライキ(同盟罷業)」や「サボタージュ(怠業)」などを行う権利のことです。「争議権」とも言います。「ストライキ」を行うことは「団体行動権」で法的に認められている権利なので、使用者は労働者が「ストライキ」を行ったことを理由に罰を与えたり解雇したりすることはできません。

「労働三権」を具体的に保証するためには?

以上で見てきた「労働三権」を具体的に保障するため、「労働三法」が設けられています。

「労働三法」とは、労働時間・休日・賃金などの労働条件の最低基準を定めた「労働基準法」、「団結権」を保証した「労働組合法」、「ストライキ」などの「労働争議」の収拾がつかなくなったときに、「労働委員会」が「労働争議」の調停や仲裁を図る「労働関係調整法」の三つを合わせて呼ぶものです。

公務員の労働三権について例外の対象

次に、公務員の「労働三権」について見ていきます。

ここまで見てきた通り、日本国民には労働者としての「労働三権」が保証されています。しかし、すべての労働者に「労働三権」が完全に認められているわけではありません。

「労働三権」がフルに認められているわけではない例外は公務員です。

日本の公務員は「国家公務員法」や「地方公務員法」によって、一部の「労働基本権」が制限されています。これは、公務員は「全体の奉仕者」であり、公共の福祉のため、一般の労働者とは立場が違うという考え方に基づきます。

例えば、警察・消防職員・自衛隊員などは「労働三権」のすべてが否定されています。また事務職でも非現業の(管理部門の一般事務などを行う)公務員は「団結権」のみが認められ、現業の(造幣など現場の仕事を行う)公務員は団結権と団体交渉権のみ認められています。団体行動権についてはすべての公務員において否定されています。

「ストライキ」などで必要な行政サービスが滞ってしまうと、国民の生活に多大なダメージを与え、社会が混乱してしまう恐れがあるため、国民の生活により密接にかかわる職種ほど制限が大きくなっています。


「人事院勧告制度」とは?

このように公務員は「全体の奉仕者」として、一般の労働者とは異なった扱いを受けています。しかし、公務員も職務を行っている労働者であることに変わりはなく、適切な労働条件を求める権利がないわけではありません。

公務員は「労働三権」が制限されている代わりに「人事院勧告」という制度があります。「人事院」は公務員の給与や勤務時間などの労働条件について国会および内閣に改善を勧告します。

このように、「人事院勧告制度」があるおかげで、「労働三権」が制限されていても公務員にも待遇改善の機会が用意されていることになります。

まとめ

以上、社会権シリーズ第4回「労働基本権」について説明しました。

本記事は、2023年2月21日時点調査または公開された情報です。
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