はじめに - アメリカ大統領選、投票前最後のテレビ討論会
2020年10月22日、大統領候補者同士によるテレビ討論会が開催されました。
通常は合計3回に及ぶテレビ討論会ですが、トランプ大統領が新型コロナウイルスに感染したことを受けて、10月15日に予定されていた2回目の討論会はキャンセルされました。
9月29日に実施された1回目のテレビ討論会は「史上最悪」や「批判合戦」などと揶揄されるほど酷い内容だったことから、両陣営は2回目こそは失敗できない状態で挑んだ模様です。
今回は、2回目そして投票前最後となるテレビ討論会について、どのような発言があったのか、そして世論の反応はどうだったかなどをご紹介します。
なお、アメリカ大統領選「テレビ討論会」第1回目まとめについても併せてご参考ください。
2020年9月29日、アメリカのオハイオ州で大統領選に向けた「第1回テレビ討論会」が開催されました。今回は、アメリカ大統領選「テレビ討論会」第1回目について、アメリカ在住の日本人にレポートいただきました。
アメリカ大統領選テレビ討論会の概要
今回のテレビ討論会の会場に選ばれたのは、音楽の街として知られているテネシー州のナッシュビルです。テネシー州は歴史的に共和党が強い州として知られ、トランプ大統領にとっては若干優勢な場所とされていました。
90分間のテレビ討論会で非常に重要な役割を持つとされる司会に選ばれたのは、黒人女性のKristen Welker(クリステン・ウェルカー)氏です。アメリカの大手テレビ局NBC Newsで働いており、ホワイトハウス特派員やジャーナリストとしても活躍している人物です。
支持政党の偏りはなく、中立的な立場の人物として見られていますが、トランプ大統領は討論会に先立ってツイートした際には「彼女はいつも不公平だ」と不満を漏らしています。
テレビ討論会で黒人女性が司会を務めるのは、おおよそ30年振りで2回目です。ウェルカー氏は、今回の討論会を終えた後に「(大統領候補者ふたりを差し置いて)最も素晴らしい参加者」として、世界中から絶賛されることになります。
ちなみに、初の黒人女性司会者はCarole Simpson(キャロル・シンプソン)で、1992年に開催されたジョージ・H・W・ブッシュとビル・クリントンによるテレビ討論会の司会を務めました。
1回目のテレビ討論会で多くの国民の期待を裏切った候補者ふたりと、そんな二人を仕切るのが黒人女性ということもあり、色々な意味で注目される討論会になりました。
アメリカ大統領選テレビ討論会の内容
では、2回目のテレビ討論会でどのようなことが話されたのか、主な発言をトピックごとに紹介します。
テレビ討論会の内容その1:新型コロナウイルス対策およびワクチン開発について
国民の注目が最も高いとされている新型コロナウイルス対策については、様々な論点で激しい論戦になりました。
ワクチンの登場によって危機はなくなると主張するトランプ大統領に対して、感染拡大の責任を追及するバイデン氏という構図です。
トランプ氏:コロナウイルスによって220万人が死亡すると推定されていたが、国を閉鎖して中国からやってきたウイルスと闘った。フロリダ州やテキサス州で感染者数が増加したが、今は落ち着いている。ワクチンも数週間以内に発表されるはずだ。
バイデン氏:ウイルスによってすでに22万人が亡くなっている。1日に数万人が感染している。このような結果をもたらした責任ある人は大統領として居続けるべきではない。トランプ政権にはいまだに包括的な計画がない。
私はマスク着用を推奨し、検査体制を整える。経済や学校を安全に再開できるように国家的な基準を設定する。そして、それを実行できるための財源を確保して、危機を終わらせる。
トランプ氏:私自身も感染したが、短期間で早く回復して免疫ができた。感染拡大の峠は超えており、ウイルスは消えてなくなるだろう。アメリカはマスクやガウン、人工呼吸器などの医療器具を世界に供給しており、多くのリーダーたちから賞賛されている。
ワクチンは数週間以内にできる確証はないが、可能性は十分にある。ワクチンは「ワープ・スピード作戦」によって軍が配布する。ジョンソン・エンド・ジョンソン、モデルナ、ファイザーなどの企業が有力だ。
バイデン氏:ワクチン開発や安全性について透明性を確保する。世界中の科学者が(安全性を)確認できるようにする。トランプ大統領は、復活祭(4月)までに収束させると言っていたが、その後は夏頃までにと改めて、冬を迎えようとしている。多くの国民は来年中頃までワクチンを得られそうにない。
テレビ討論会の内容その2:新型コロナウイルス感染拡大の責任について
新型コロナウイルス感染拡大の責任問題を巡っては、責任は中国にあると主張するトランプ大統領に対し、バイデン氏は責任はトランプ大統領にあると追及しています。
バイデン氏:大統領は何も対策をとらなかった。「心配するな、すぐに収まる」とさえ言っており、世界の科学者たちは誰もそんなことは考えていない。ウイルスとの共存どころか、人々は亡くなっていく一方だ。
トランプ氏:私たちはウイルスと闘わなければいけない。バイデン氏のように地下室に閉じこもっている訳にはいかない。すべての責任は私がとるが、感染拡大は私やバイデン氏のせいではなく、中国の責任だ。中国がアメリカや世界中にウイルスを拡げたんだ。
テレビ討論会の内容その3:経済や学校の再開について
感染拡大を防ぐために経済や学校が閉鎖されていることを受けて、再開を強調するトランプ大統領に対して、バイデン氏はウイルスの封じ込めに取り組むとしました。
トランプ氏:国民はウイルスと共存することを学んだ。それ以外に選択肢はない。99%は感染しても回復する。経済や学校を再開しなければ国がなくなってしまう。規制を強めたニューヨークはもはやゴーストタウンだ。人々は職を失って、うつ病や薬物中毒、アルコール依存症、自殺などが増えている。
バイデン氏:ウイルスと共存?国民はウイルスで死んでしまうことを学んだんだ。大統領がコロナウイルスは危険だと決して言わないから、そのせいで人々は死んでいる。経済や学校を安全に再開するには資金が必要だが、大統領はその資金供給を拒んでいる。
テレビ討論会の内容その4:大統領選への他国による介入について
ロシア、中国、イランなどが大統領選に介入しようとしていることについて、両者とも介入は容認できないとしつつも、それぞれの対応を巡り批判が続きました。
バイデン氏:どの国、誰であろうとアメリカの選挙に介入するなら責任をとってもらう。すでにロシア、中国、イランが関与していることが明らかになっており、私が当選したら代償を払ってもらう。トランプ大統領がロシアのプーチン大統領と話をしようとしないのが分からない。
トランプ氏:私はロシアからお金をもらっていないし、私ほどロシアに厳しく接した大統領はいない。ロシアから守るために北大西洋条約機構(NATO)関係諸国に1,300億ドルの追加負担させた。
バイデン氏こそ、ロシアから350万ドルのお金を受け取り、元モスクワ市長とも仲良しだ。その説明責任はあるだろう。
テレビ討論会の内容その5:バイデン氏の息子の疑惑について
討論会直前に報道された、バイデン氏の次男であるハンター氏がウクライナで汚職事件容疑の対象になっていた企業から多額の報酬を受け取っていたとするスキャンダルについても触れられました。
自身も企業関係者と接触していた疑いがあるバイデン氏は潔白を主張し、反対にトランプ大統領の所得税疑惑を追及する攻勢になりました。
バイデン氏:私は倫理に反することは何もしていない。この疑惑に関する根拠はなく、他国から1ペニーさえ受け取っていない。私は過去22年分の納税報告書を公開しているが、大統領はまったく公開していない。
ウクライナを巡る問題はむしろ大統領の方が深刻だ。あなたは私が不利になるようにウクライナに証言を求めた。
トランプ氏:ハンター氏は長年無職だった。しかし、あなたが副大統領に就任した途端にウクライナの企業の役員に就任して、月18万3,000ドル、前払い金300万ドルを手にしたそうだ。100%不誠実ではないか。
テレビ討論会の内容その6:北朝鮮問題について
北朝鮮を巡る問題においては、良好な関係を築いて戦争を避けていると主張するトランプ大統領に対して、バイデン氏は北朝鮮を抑制できていない現政権を批判しています。
トランプ氏:オバマ前大統領は、アメリカと北朝鮮は核戦争になると私に言った。しかし、私はキム・ジョンウン氏と良好な関係を築いている。タイプは違うが、互いに同じように思っている。事実、戦争も起きていない。
バイデン氏:私たちは北朝鮮の脅威を抑制しなければいけない。大統領は悪党である北朝鮮を正当化して親友とまで言った。大統領は暴漢のような人物と仲良くし、友好国や同盟国を侮辱している。
北朝鮮はアメリカ本土まで届くむかしよりも遥かに高性能のミサイルを保有しているんですよ。私がキム委員長と会談する場合、北朝鮮が核開発のレベルを引き下げることが条件だ。
テレビ討論会の内容その7:最低賃金の引き上げについて
司会のウェルカー氏によって、前回のテレビ討論会では触れられなかった最低賃金にも言及がなされました。
最低賃金を引き上げるべきとするバイデン氏に対して、トランプ大統領は解決策にならないと批判しました。
バイデン氏:小規模事業者の救済のために最低賃金は引き上げるべきだ。6分の1の事業者が行き詰まっているのに、政府は何もしていない。
トランプ氏:(小規模事業者に賃金を要求して)どうやって救済できるのか?多くの従業員は解雇されるだけだ。最低賃金の引き上げは各州の判断に委ねられるべきだ。
バイデン氏:15ドル/時間未満の賃金では貧困ラインを下回ってしまう。賃金を引き上げると経営が行き詰まるということは正しくない指摘だ。
テレビ討論会の内容その8:不法移民政策について
ウェルカー氏は、不法移民としてアメリカに入国した親子が別々の施設に収容されている事実に触れ、両者に見解を求めました。
トランプ氏:私たちはかつてないほどに国境警備を強化した。私たちは移民を受け入れるが、法にのっとる必要がある。(別々に収容されている親子について)手続きを進めているが、その大半は不法入国あっせん業者やギャングに連れてこられており、親がいない。
バイデン氏:子どもには親がおり、一緒に入国して引き離されている。私は副大統領時代に移民政策を正すことに時間を要し、それは誤りだった。しかし、大統領就任後100日以内に、1,100万人の移民に対して市民権を得られるよう議会に法案を提出する。
トランプ氏:バイデン氏は(副大統領時代の)8年間なにもしなかった。子どもたちを収容する施設を作っただけだ。前政権の不法移民政策は大失敗だ。
テレビ討論会の内容その9:人種差別問題について
前回の討論会に引き続き、アメリカ国内で話題の人種差別問題についても語られました。
ウェルカー氏は、1994年にバイデン氏の肝煎りで成立させた法律(黒人がわずかな薬物保持だけで刑務所に収容される)によって苦しんでいることや、トランプ大統領が差別を煽って国民に不安を与えていると指摘したうえで、それぞれコメントを求めました。
バイデン氏:1980年から1990年頃にかけて、薬物を取り締まる法案に賛成したことは間違っていた。薬物関連の罪を犯した人は刑務所に行くのではなく、更生施設で治療を受けさせるべきだ。
トランプ氏:なぜ副大統領時代の8年間に何もしなかったのか。あなたのせいで私は立候補している。口ばかりで行動を伴わない。
私は刑事司法改革や刑務所改革を実施し、この中で一番人種差別的ではない人間だ。リンカーンを除いて、私ほど黒人社会のために貢献した大統領はいない。
バイデン氏:近代史のなかで最も人種差別的な大統領がここにいる。状況を悪くしたのはトランプ大統領だ。前回の討論会では白人至上主義を容認するような発言さえしている。
アメリカ大統領選テレビ討論会に対する世間の反応
今回のテレビ討論会は、1回目と比較して概ね好評です。相手を邪魔できないように発言していない側のマイクをオフにするなどの対策がとられましたが、双方とも1回目の批判を意識してか非常に紳士的な振る舞いを見せました。
一方で、トランプ大統領もバイデン氏も具体性に欠ける発言が多く、目新しい政策や方針がなかったことも事実です。とくに、バイデン氏は政策や実績よりも批判に集中していたことが印象的でした。
このことから「トランプ優勢」の声も多く、バイデン陣営としては有利な立場を生かしきれなかったと見られています。
メディアの反応
共和党寄りの報道で知られるFOX NEWSは、インターネット調査の結果として「トランプ大統領が優勢だった」と回答したのが62%、バイデン氏が38%と発表しています。
また、今回の討論会で追及されたバイデン氏の息子を巡る疑惑を大きく報じており、民主党優位の状況に一石を投じています。
反トランプ政権で民主党寄りとされるCNNは、調査の結果としてバイデン氏が優勢だったと回答したのが53%、トランプ大統領は39%としました。1回目の討論会では、60%がバイデン氏、28%がトランプ大統領だったので、バイデン陣営にとっては必ずしも喜べる数字とは言えないでしょう。
ABCテレビは約19万人が参加した調査結果として、バイデン氏が62%、トランプ大統領が35%だったとしています。
トランプ大統領は、テレビ討論会後に更新した自身のツイッターで「トランプ優勢」の声をリツイートで紹介し、その大半が90%以上がトランプ優勢と評価したものでした。
アメリカではメディアごとに政権の偏りがあるため中立的な評価が難しいですが、相変わらずトランプ陣営が劣勢に映っていることは否めません。
まとめ
以上、「アメリカ大統領選「テレビ討論会」第2回目まとめ」でした。
トランプ大統領のコロナ感染を受けて従来の3回から2回に減ったテレビ討論会ですが、1回目とは打って変わり落ち着いた討論会になりました。
司会を務めたウェルカー氏による進行は平等な発言機会だけでなく、国民が知りたいような一歩踏み込んだ内容で非常に効果的でした。毅然とした態度で両者をコントロールしたからこそ「見ていられる討論会」になったと言えるでしょう。
そんなウェルカー氏が最後に両者に投げかけたのが「みずからに投票しなかった人へのメッセージ」です。
トランプ大統領は「コロナ以前のような完璧な国を目指しひとつにまとめる。バイデンは増税するから恐慌が起きて年金が大変なことになる」と括りました。バイデン氏は「すべての国民の代表になり、アメリカ本来の良さを取り戻して良識、名誉、尊敬を得られるよう約束する」とまとめました。大統領選投票日は2020年11月3日(日本時間11月4日)です。
なお、アメリカ大統領選「テレビ討論会」第1回目まとめについても併せてご参考ください。
2020年9月29日、アメリカのオハイオ州で大統領選に向けた「第1回テレビ討論会」が開催されました。今回は、アメリカ大統領選「テレビ討論会」第1回目について、アメリカ在住の日本人にレポートいただきました。
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