2020年11月の「アメリカ大統領選」の争点 – トランプは再選になるか

2020年11月3日、アメリカで「大統領選挙」が行われます。トランプ大統領が再選するのか、新たな大統領が誕生するのか、アメリカでも注目が集まっています。

本記事では、アメリカ在中の筆者が、「2020年アメリカ大統領選の争点」について解説します。


はじめに

2020年11月にアメリカの大統領選が開催されます。

今回の大統領選では現職のトランプ大統領に民主党の候補者が戦いを挑む形になりますが、前評判ではトランプ優勢の声が多いようです。これに対して民主党は総力を上げてトランプ政権崩しを狙っていますが、どのような戦略を考えているのでしょうか?

今回は、2020年の大統領選でいったい何が争点になるのかをアメリカ在住の筆者目線で解説します。

トランプ大統領の主張や政策の方針はどんなこと?民主党の対抗策は?アメリカ人はどんなことを重視して投票するの?など、大統領選の前に知っておきたいことをまとめています。

公務員を目指す方は日本と関係が深いアメリカがどんな課題を抱えているのかを理解できるチャンスですので、ぜひ参考にして下さい。

2020年アメリカ大統領選の概要

まずは、2020年のアメリカ大統領選に関する日程や仕組み、候補者など基本的な情報を確認しておきましょう。(ご紹介する情報は2020年3月末のものです)

アメリカ大統領選の日程

2020年2月から6月:予備選挙

2020年07月13日から16日:民主党全国大会

2020年08月24日から27日:共和党全国大会

2020年09月29日:第1回テレビ討論会

2020年10月15日:第2回テレビ討論会


2020年10月22日:第3回テレビ討論会

2020年11月03日:一般投票

2020年12月14日:選挙人投票

アメリカ大統領選は、2020年11月3日(火)に本選挙(一般投票)が全国で一斉に実施されます。(日本時間の11月4日)

一般投票に先立ち、共和党および民主党の候補者を選ぶ予備選挙が2月から6月に州ごとに順次開催され、7月または8月の全国党大会で各党の候補者が決定します。11月3日に一般投票、12月14日に選挙人投票が実施され大統領が正式に決定します。

アメリカ大統領選の仕組み

2020年の大統領選は、予備選挙および全国党大会で民主党候補が選出され、現職のトランプ大統領(共和党)の対戦相手が決まります。つまり、2020年の大統領選はすでに「トランプ大統領対民主党の候補者」という仕組みが決まっていることになります。

有権者は11月3日の一般投票で、トランプまたは民主党候補者(いずれも副大統領候補を含む)を選びます。この1ヶ月後に実施される選挙人投票によって大統領が確定します。選挙人投票は形式的なもののため、実質的には一般投票の結果が最終結果になります。

アメリカ大統領選の「共和党」の候補者

共和党の候補者は現職のトランプ大統領です。トランプ一強状態の共和党内で指名争いをすることは現実的ではありません。元マサチューセッツ州知事のウィリアム・ウェルドや、元サウスカロライナ州知事のマーク・サンフォードなどが指名争いに名乗り出ていましたが、いずれもトランプ大統領に勝てる見込みがなく撤退を表明しています。

アメリカ大統領選のの「民主党」の候補者

民主党の候補者は、オバマ政権時の副大統領だったジョー・バイデンと、バーモント州上院議員のバーニー・サンダースに絞り込まれています。指名争いの大勢が判明するスーパーチューズデー後の時点でジョー・バイデンが優勢で、予備選挙の後半戦でバーニー・サンダースがどれだけ巻き返せるかが注目されています。

2020年の大統領選では、ジョー・バイデンかバーニー・サンダースがトランプ大統領の対立候補となる訳です。

2020年アメリカ大統領選の争点

トランプ大統領対民主党候補という構図で実施される2020年の大統領選ですが、いったいどのようなことが争点になるのでしょうか? アメリカ人は選挙で何を重視しているのでしょうか?

ここでは、2020年初頭に実施されたトランプ大統領の一般教書演説の内容や、民主党が掲げる政策などを参考にして大統領選の主な争点をまとめてご紹介します。

トランプ大統領の主張

トランプ大統領は2月4日に実施された一般教書演説の中で、自身が大統領に就任してからわずか3年で雇用と所得が増加したことや、貧困と犯罪が減っていることに触れて政策が順調に進んでいることをアピールし、この方針を継続する必要性を主張しました。

さらに、オバマ政権で低迷していた景気が急速に改善し、株価が過去最高を記録したことにも触れて、アメリカの繁栄がこれから始まると期待を持たせました。「偉大なアメリカが再び戻ってきた」とし、自身の続投を表明したのでした。

2020年アメリカ大統領選の争点 その1:国際貿易

トランプ大統領はアメリカ人の雇用を奪ったのは、中国を中心にした国際貿易に原因があるとしています。そのため、中国から輸入する鉄鋼製品などに高い関税をかけて国内の雇用を守る姿勢を見せました。この一件は、両国が関税をかけあう泥仕合になったものの、中国に対して強気な姿勢を貫く「強いアメリカ」を印象付けました。


トランプ政権に対抗する民主党も関税をかけることには否定的ではないため、国際貿易についてはトランプ大統領は優勢にあります。強気なトランプ大統領は重工業や製造業など国際貿易の影響を受けやすいアメリカ人たちからの支持を得ています。民主党は国際貿易に関しては攻めあぐねていると言えるでしょう。

そもそも、トランプ大統領が中国に対して強気な姿勢を取れる背景には、アメリカから中国へ輸出している量が少ないため、関税をかけられたとしてもアメリカの痛手は少ないということがあります。トランプ政権はこの点をうまく利用して印象アップを狙っていると言えます。

2020年アメリカ大統領選の争点 その2:社会主義

いまアメリカは若者を中心とする社会主義の台頭に直面しています。経営者だけが富を得る行き過ぎた資本主義、そしてそれを後押しするトランプ政権に嫌気が差した若者たちが、より平等な社会主義に傾いているのです。

事実、サンフランシスコやシアトルなどに拠点を置くIT企業(GAFA)の急成長によって、これらのエリアでは家賃や生活費が高騰して生活が成り立たなくなる若者が増加しています。ひとたび職を失えばすべてを失う状況に置かれた若者たちは平等を求め、富裕層の増税や国民皆保険などの政策を掲げる民主党のバイデンやサンダースを支持しています。

これに対してトランプ大統領は、社会主義を嫌悪する時代(冷戦を知る中高年世代)の危機感をあおり、社会主義の芽を摘もうとしています。この社会主義の問題は「医療保険制度」や「ホームレス」の問題に直結しており、大統領選の大きな争点とされています。

2020年アメリカ大統領選の争点 その3:移民問題

現在アメリカには不法移民がおおよそ1,100万人いるとされており、低賃金で働く不法移民(約800万人)によってアメリカ人の仕事が奪われる状態が続いています。アメリカの農業、漁業、林業に関わる労働者の約24%は不法移民とされており、アメリカ人の雇用の問題に大きな影響を与えています。

この問題に対してトランプ大統領は徹底して強硬な姿勢を貫いており、メキシコとの国境に壁を作り、拘束した不法入国者を刑事裁判にかける、中東諸国からの入国制限、不法移民のための無料医療サービスを禁止するなど、移民を排除するためのあらゆる政策を実行しています。

民主党はトランプ大統領を非人道的と非難し、DACA(幼少期にアメリカに来た移民への強制帰国延期措置)の復活など、移民の権利を守る政策を打ち出しています。

2020年アメリカ大統領選の争点 その4:白人至上主義

アメリカでは白人至上主義者による移民への差別的言動も大きな問題になっています。アメリカに極度の誇りを持つ白人種が、黒人やヒスパニック、アジアンなど増え続ける移民を差別して排除しようとしているのです。この思想は大学生などの若者を中心にして広がっており、移民に厳しい政策を取るトランプ大統領を後押ししています。

なかでも、大票田のひとつとして知られているテキサス州では、2019年8月にヒスパニックを狙った白人至上主義者による銃乱射事件が発生し、メキシコ人8名を含む22名が犠牲になる事件が起こりました。この事件では暴力行為こそ否定されたものの、移民に対する怒りを許容する人は多く、事実としてテキサス州では移民に否定的なトランプ人気が続いています。

民主党はトランプ大統領の移民に対する度重なる非人道的な振る舞いや発言を取り上げて有権者にアピールしていますが、アメリカを極度なまでに誇りに思う潜在的な白人至上主義者は多く、決め手を欠いています。

2020年アメリカ大統領選の争点 その5:電子たばこ規制

2020年の大統領選で密かな争点とされているのが「電子たばこ規制」です。アメリカの若者の間で流行している電子たばこが健康に悪影響を与える可能性があることが分かり、トランプ大統領は2020年1月に電子たばこの販売を部分的に規制しました。

この規制は年頃の子どもを持つ親からは歓迎されたものの、電子たばこの愛好家から批判を受けます。実は、この電子たばこの愛好家たちが大統領選に大きな影響を与える可能性があることが判明したのです。

2016年の大統領選でクリントン候補との票差が10ポイント以内の接戦だったのは17州で、この僅差の州に住んでいる電子たばこ愛好家たちの83%は「電子たばこを規制するかしないか」だけを理由に票を入れたということが分かりました。

さらに、票差が1ポイント以内だったミシガン州、ウィスコンシン州、ペンシルベニア州には電子たばこ愛好家が数十万人いるとされており、もしトランプ大統領が規制を強めれば数十万票が民主党に流れてしまい、2016年に勝利した3州をみすみす逃すことになるのです。

つまり、電子たばこ愛好家たちの多くは大きな政策には関心がなく、自分にとって影響が大きい「電子たばこの規制」だけを重視して投票する傾向があり、なおかつ多数の接戦州の結果にまで影響を及ぼす存在だと判明したのです。

両党にとって、電子たばこ愛好家たちをどのようにして取り込むかが争点になっています。

2020年アメリカ大統領選の争点 その6:妊娠中絶

アメリカの女性に注目されている争点が妊娠中絶です。トランプ大統領を支持しているキリスト教福音派(アメリカ人の4分の1が該当する)は、妊娠中絶を神の教えに反するとしており、トランプ大統領自身も福音派を意識してか妊娠中絶に反対する立場をとっています。

対照的に、民主党のサンダース候補は一貫して「妊娠中絶は女性の権利」と主張しており、とくに若い女性有権者たちからの支持を得ています。妊娠中絶を禁止または制限する州法は、多くの州で裁判所によって差し止められているため機能していません。大統領選で事態がどう動くか争点のひとつとして注目されています。


2020年アメリカ大統領選の争点 その7:教育制度

アメリカでは教育制度の見直しが迫られています。なかでも問題視されているのが「学生ローン」と「教員の待遇」の2点です。

アメリカでは1,000万円を超える学生ローンを抱えている学生が200万人、2,000万円を超える学生は60万人いるとされています。学生ローンによる負債総額は170兆円にもなることから異常な事態と言えます。

多くの学生は社会人になってから返済をするものの、40歳を超えても返済が終わらない人や、学位や博士号を取得しても就職できずに返済が滞る人もいるため、大学に通うことの意味自体が問われています。

教員の待遇も問題です。トランプ大統領は教育に関する予算を削減する政策を取っており、各州は教員へ満足な報酬を支払えずに教育の質の低下を招いています。十分な補助金が出ない地域では教員が自腹で教材を買い与えるなど教員現場は深刻な事態です。

教育予算を削減するトランプ大統領に対して、民主党のサンダース候補は学生ローンの全額免除や公立大学の無償化を公約に掲げています。また、バイデン候補は短期大学の無償化を公約にしており、民主党は教育制度改革に注力しています。

2020年アメリカ大統領選の争点 その8:新型コロナウイルス

絶好調の株価、史上最長の好景気とアメリカ経済を復調させたトランプ大統領でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大によって事態は一変します。国家非常事態宣言後の株価は連日にわたって過去最大の下げ幅を記録するなど、3年かけて築いた株価の伸びしろを一瞬で失ってしまいました。(一時は18,591ドルまで下落)

トランプ大統領はすぐに500億ドルの追加予算を調達し、FRBからは2兆ドル規模の資金投入や利下げ(実質ゼロ金利政策)を取り付けました。過去最大規模とされる緊急経済対策を早々に決定したことは市場から好意的に見られ、大暴落から2週間で22,000ドルまで回復しています。

民主党はトランプ大統領の新型コロナウイルスに対する初動対応の遅れや楽観視を追及し、大統領選までに経済が復調しなければ攻撃要素にすると見られています。新型コロナウイルス問題は大統領選の最中で起きたことからトランプ大統領に与えた影響は大きいと言わざるを得ません。

まとめ

2020年のアメリカ大統領選の争点は国際貿易、社会主義、移民問題、白人至上主義、電子たばこ規制、妊娠中絶、教育制度、新型コロナウイルスなど非常に多岐にわたります。他にも中東問題、銃規制、LGBT(同性結婚)などの争点を重視する声もあり、両党はどの争点を重視するかによって有利か不利が決まります。

すべての争点で強硬な姿勢を貫くトランプ大統領に対して民主党がどのような政策で有権者の支持を得るかがポイントになりそうです。まずは予備選の民主党候補者争い、全国党大会の経過を見て、11月3日の本選挙に注目してもらえればと思います。

本記事は、2020年4月1日時点調査または公開された情報です。
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