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【アメリカ大統領選2020】退陣が迫るトランプ政権による対中政策の狙い

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目次

はじめに - トランプ氏の政治的遺産「対中政策」

アメリカの大統領選はトランプ大統領が敗北を認めておらず、正式な決定は2021年1月に持ち越されました。トランプ大統領は自身のツイッター上で「我々は勝利した」や「バイデンは負けた」と投稿しており、史上稀に見る混乱を引き起こしています。

一方で、トランプ大統領は2021年1月20日正午までは正式に大統領職を務める権利があるため、ここにきて様々な政策を実行しており、政治的な遺産(レガシー)を残そうとしていると見られます。

そんな政治的な遺産の中で注目を集めているのが「対中政策」です。かねてから中国に対して強硬姿勢を貫いてきたトランプ政権ですが、政権の余命1ヶ月でこれまで以上に対中政策を強化しています。

今回はいよいよ退陣まで1ヶ月を切ったトランプ政権が強化している対中政策について解説します。

アメリカ大統領トランプ氏の対中政策の概要

トランプ政権は大統領選での敗北が濃厚になってから立て続けに中国に対する強硬措置を実施しています。主な政策を見てみましょう。

政策その1:中国共産党員のビザ期間短縮

12月3日、アメリカ国務省は「中国共産党員とその家族に対するビザ(査証)の有効期限を10年から1ヶ月へ大幅に短縮」しました。

対象は商用ビザと観光ビザで、中国人おおよそ9,000万人が該当するとされています。この強硬措置により、中国人はこれまでのようにアメリカに滞在することが難しくなり、正当な理由を持つ人までもアメリカ国内での行動が制限されるため、中国政府からの反発は必須です。

今回の措置に対して国務省は「中国共産党の悪質な影響力からアメリカを守るため」と説明しています。具体的には、スパイ行為を阻止する、アメリカ国内にある「孔子学院(中国主導の教育機関)」を早期閉鎖し、世論工作を阻止するなどの狙いがあると見られます。

この措置に先立っては「ハイテク分野で活躍する中国人学生のビザ有効期限を5年から1年に短縮」、「チベット自治区訪問を妨害した当局者のビザ制限」、そして「中国軍と関係する研究者ら(約1,000名)のビザ取り消し」などが実施されてきました。

トランプ政権は「中国人に対してビザを制限する」ことで、実質的にアメリカに滞在させないようにしている訳です。

政策その2:中国最大手半導体SMICへの禁輸措置

12月18日、アメリカ商務省は「中国の最大手半導体メーカーである中芯国際集成電路製造(SMIC)に事実上の禁輸措置」を実施すると発表しました。


この措置は、中国が目指す「半導体の国産化」を阻止するためのものと見られます。アメリカ製のハイテク製品をはじめ、アメリカで開発された半導体技術が、中国企業に渡ることを防ぐことが狙いです。

今回の措置に対して商務省は「(SMICと)中国の軍事企業との関係が発覚したため」と述べており、アメリカの半導体技術が中国軍に利用されることは許されないとしています。

また、アメリカ政府は「安全保障上問題があり信用できない企業」として、SMICを「Entity List(エンティティー・リスト)」に追加登録することを発表しました。同リストにはこれまでに「華為技術(Huawei)」や「WeChat」、「TikTok」などが登録されています。

中国の習近平国家主席は、長期化している米中対立に備えるために半導体の国内生産を目指していると見られますが、アメリカは軍事利用を理由にこれを阻止する動きです。

政策その3:ドローン最大手のDJIへの禁輸措置

SMICへの禁輸措置が発表されたのと同時に「中国のドローン最大手企業DJIにも事実上の禁輸措置」を取ることが発表されました。

DJIは世界のドローン市場の7割を占めている世界的大企業ですが、アメリカ製の半導体技術を搭載しています。アメリカ商務省は「(DJIのドローンは)ハイテク監視、遺伝子収集、そして他国政府に輸出されて国民弾圧に加担している」と説明しました。

かねてからトランプ政権は同社のドローンを使ったスパイ活動を問題視してきましたが、ここにきて制裁に踏み切った形です。また、人権問題や民族弾圧に厳しい姿勢をとるバイデン氏もドローンを使った監視に反対的な立場を取ると見られ、ドローンを巡る措置は長期化する公算が大きいとされています。

アメリカの半導体技術を使った生産が難しくなれば、ドローンの供給が難しくなる可能性があります。この結果、インフラ管理や災害対策などでドローンを多用する日本も影響を受けるかもしれません。

DJIはSMICと同様に「エンティティー・リスト」に登録されたため、中国政府からの反発は避けられないでしょう。

政策その4:アメリカで上場する中国企業への監視強化

12月18日、トランプ大統領は「アメリカに上場する中国企業の監視を強化する法案(外国企業説明責任法)に署名」したことを発表しました。

この措置により、これまでのように中国企業がアメリカで上場し活動することが難しくなるため、実質的な排他措置と言えます。中国企業はアメリカ当局による会計監査を義務付けられ、不備があれば上場廃止という厳しい措置が待っています。

これまではアメリカに上場している中国の企業に対しては、中国の監査法人による会計監査が行われてきました。そんな中国の監査法人はアメリカ当局による検査を拒否してきた経緯があります。(それでも上場は認められていた)しかし、今回の措置により3年以内にアメリカ当局による検査が義務付けられたため、不正防止や透明性の確保が実現します。

この措置の影響を受けるのは上場を目指す中国企業だけではありません。217社、時価総額230兆円規模に及ぶ中国企業に投資する投資家たちも影響を受けます。中国企業への投資を控えるようになればアメリカ経済への影響も免れないでしょう。

また、アメリカに上場している中国企業への投資が、中国共産党や中国軍への支援につながるという見方をする人も多いため、投資家たちはこれまで以上に躊躇する可能性があります。

11月にはアメリカ人投資家が中国人民解放軍の関連企業の株式を購入できないようにする措置がすでに取られており、トランプ政権による対中強硬路線は株式市場にまで影響を及ぼしています。


政策その5:Zoom社の中国人元幹部を訴追

12月18日、アメリカ司法省はZoom社の中国人元幹部を「天安門事件に関するビデオ会議を検閲し、開催できないよう妨害した」として刑事訴追したことを発表しました。(男性は解雇済み)

司法省によると、元幹部の男性は中国当局と連携し、アメリカ国内で開催されようとしていた天安門事件に関する4つのミーティングを事前に検閲して、強制的に終了させるなどの妨害をしたとされています。

また、ミーティング主催者の個人情報を中国当局に提供していたことも発覚しています。この結果、中国当局による主催者や家族への嫌がらせ、主催者の拘束、言論に対する圧力などにつながったと見られます。

トランプ政権が対中強硬政策を強めているなかでの今回の事件の発覚は、中国共産党とアメリカ政府の間に一層深い溝を作る結果になりました。

トランプ政権の狙い

なぜトランプ政権はここにきて矢継ぎ早に対中政策を強めているのでしょうか?

トランプ大統領の政治遺産

トランプ大統領は大統領選の再戦が難しくなってきたことから「政治遺産」を残すことに注力していると見られます。

アメリカに限らず、退陣前の政権が大きな政策を実施することはよくあることです。例えば、前大統領のオバマ氏は退陣直前に「キューバ国交正常化」や「広島訪問」を実現しており、歴史に名を残すことをしています。

トランプ政権としては「史上最高に中国へ圧力をかけた大統領」として政治的遺産を残そうとしていると見られます。同時に、反中感情が高まるアメリカで「対中強硬路線を貫いた大統領」としての印象を強めたい思惑も透けて見えます。

バイデン政権へのアピール

トランプ政権としてはバイデン氏への政権移行で「バイデン政権に対中強硬路線を引き継いでほしい」狙いがあると見られます。

バイデン氏は国際協調路線をアピールしており、親中派としても知られています。また、息子のハンター氏が中国政府と親しい関係ということもあり、トランプ大統領のように中国政府へ厳しい姿勢を見せられないことが懸念されています。

しかし、トランプ大統領が退陣前に法的にも対中強硬路線を固めておくことで、次期政権のバイデン氏もこれを汲む必要性が生じます。トランプ大統領は、バイデン氏では中国に強硬路線を取れないと見ているため、退陣前に強硬策を実行したのです。

逆を言えば、バイデン氏では中国政府に強気に出られないことを意味しており、早くもバイデン政権の「対中政策の弱さ」を浮き彫りにする結果になっています。

バイデン氏の息子ハンター氏に関しては、以下の記事もあわせてご参考ください。

》バイデン氏のアキレス腱?息子ハンター氏にアメリカ当局が調査開始

2020年11月3日に行われたアメリカ大統領選挙では、バイデン氏が勝利宣言したものの、現大統領のトランプ氏が未だに敗北宣言をしていないなど、正式な決着はついていないままです。そんな中、バイデン氏の息子であるロバート・ハンター・バイデン氏に、税務問題が浮上しました。本記事では、バイデン氏の息子でるハンター氏に対して司法当局が調査を開始したことについて、アメリカ在住の日本人にレポートいただきました。

2024年大統領選への布石

トランプ大統領は2024年の大統領選に出馬することを示唆しています。4年後の2024年には中国が経済大国として台頭し、アメリカの脅威になることは明らかです。その時に中国に厳しい姿勢をとれる大統領をアメリカ人が望むことを見越しているのかもしれません。

トランプ政権の最後に対中強硬策を実施しておくことで、トランプ支持者をはじめとするアメリカ人に自身の印象を強く残しておきたい狙いがあると見られます。

いずれやってくる「中国vsアメリカ」の大国同士の対立において「頼れる存在と言えばトランプ」となるよう仕向けているのかもしれません。

まとめ

以上、「退陣が迫るトランプ政権による対中政策の狙い」でした。


大統領選での勝利が厳しい状態になったトランプ政権は、残り1ヶ月で対中政策を次々に進めています。トランプ大統領の政治遺産、次期政権も強硬路線を踏襲するための地盤固め、そして2024年の大統領選に向けた布石という思惑が見えます。

また、アメリカがいかに中国を警戒しているかもよく分かります。トランプ大統領は数年後の中国の台頭を見越したうえで強硬措置に出たと見られます。仮に、バイデン政権が対中政策に失敗すれば民主党に留まらず、アメリカという国にとって大打撃になりかねません。

トランプ大統領がここまで対中強硬路線を貫く真意を、民主党やバイデン政権がどこまで汲み取って政権運営できるかが焦点です。

本記事は、2020年12月22日時点調査または公開された情報です。
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公務員総研の編集部です。公務員の方、公務員を目指す方、公務員を応援する方のチカラになれるよう活動してまいります。

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