MENU

アメリカは、女性たちは住んでいる場所によって中絶が出来るか否かが変わる事態に直面(在米日本人レポート)

【速報】アメリカで中絶の権利を覆す最高裁判決!背景や問題点、今後の展開も(2022年6月26日)

当ページのリンクには広告が含まれています。


目次

【背景】アメリカの最高裁が中絶は憲法の権利ではない?⇒何が起きた?

今回の背景には「妊娠15週以降の人工妊娠中絶を原則禁止するミシシッピ州の州法が憲法違反に該当するか否か」が最高裁で争われたことがあります。

この争いに対して、最高裁は主文で「憲法は中絶の権利を与えていない」としたうえで「中絶の権限は市民やその代表者に返すべき(州政府が自由に規制できるようにすべき)」と述べました。

中絶は憲法で認められた権利かどうかが争点だった訳ですが、最終的に最高裁は「認められない」と、49年前に出した自らの判決を覆した訳です。これにより、中絶は各州政府が定めた州法に従って対応することになります。

つまり、ある州では中絶禁止、別の州では中絶容認といったように対応が分かれるため、女性たちは住んでいる場所によって中絶が出来るか否かが変わる事態に直面します。(全米で3,600万人の女性が影響を受けるとされる)

アメリカ全土でこの判決に対する注目が集まった理由が「最高裁から判決内容を示唆する文章が事前に流出した」ことにあります。(詳しくはアメリカ最高裁の中絶制限文書の漏洩問題とは?

皮肉にも流出文章に書かれていた内容通りの判決になった訳です。

アメリカでは、中絶をめぐる問題は長らく議論の的になってきました。しかし、1973年に「中絶を著しく制限することは違憲」という判決(ロー対ウェード裁判)以降、49年間にわたって「中絶容認」の風潮が続いていました。(1973年、最高裁は憲法修正第14条のプライバシー権に中絶の権利を含める解釈をした)

しかし、今回の判決はそれを覆す結果になったことから、アメリカ全土に衝撃が走ったのです。おおよそ50年続いてきた「中絶容認」の流れが「中絶制限」に変わったことは、アメリカの歴史が動いたと言えるでしょう。それ故に、アメリカ全体が揺れ動いているような雰囲気に包まれています。(どのニュースメディアもトップニュースで報道中)

ちなみに、アメリカのシンクタンクであるPew Research Centerの最新版調査結果によると、中絶はすべてまたはほとんどのケースで合法にすべきと回答した人は61%、すべてまたはほとんどのケースで違法にすべきと回答した人は38%だったとあります。つまり、調査結果では「中絶容認」の人が大多数という訳です。

【ポイント】この問題で理解しておきたいこと

今回の最高裁判決は「中絶は憲法で認められていない」と明言したものの「州政府の判断に委ねられるべき」としました。

アメリカ全土で中絶が即時禁止される訳ではありません。中絶を禁止または制限するのは、全50州のうちおおよそ半分にあたる26州になるとされています。その他の州では、州の方針が変わらない限り合法的に中絶を受けられます。


▼参考URL:各州の中絶対応状況

具体的には、南部や中西部のテキサス州、アラバマ州、ルイジアナ州、テネシー州などは中絶を禁止します。なかでも、ルイジアナ州は非常に厳しい制限を設けており、中絶を実施した人(医師や病院長)に対して罰金100,000ドル(約1,350万円)や禁固10年の罰則があります。さらには、レイプや家庭内性暴力などの性的暴行の被害で妊娠した場合でも例外はないとしています。

対照的に、カリフォルニア州やニューヨーク州、オレゴン州などは中絶を容認しています。このことから、中絶が禁止されているテキサス州の女性が、中絶のためにカリフォルニア州へ出向くといったケースも起こります。(一部企業では旅費を援助する中絶旅費制度などもある)

これらの州では、越境して中絶する場合の受け入れを保護したり、中絶に関する保険適応範囲を拡大するとしており、中絶を望む女性に応える対策を進めています。(バイデン大統領は、州を変えての中絶の権利は守ると述べた)

このように、今回の最高裁判決は、アメリカ全土で即時適用される訳ではなく、各州によって対応が分かれるということを理解するのがポイントです。

さらに別のポイントとして、中絶を禁止する州と容認する州で政治的な対立が起きて、アメリカを二分する要因になっていることも併せて理解すると良いでしょう。

アメリカでは、中絶を禁止する州は「保守派」として共和党の支持基盤が中心になっています。一方で、中絶を容認する州は「リベラル派」として民主党基盤の州が中心です。政治的な対立構図としてこの点を理解すると分かりやすくなります。

このことから、中絶をめぐる問題については、女性の権利や生命の尊重といった問題以外にも、アメリカを二分する政治的な懸念が大きいことを理解しておきましょう。

政界の反応

今回の最高裁判決はアメリカの政治にも影響を与えています。現職大統領と元大統領が即座にコメントを発表しました。

バイデン大統領の反応

バイデン大統領は最高裁判決についてホワイトハウスで演説し「悲しい日」や「極端な思想が具体化し、最高裁による悲劇的な誤り」と述べました。さらに「最高裁は国民から憲法上の権利を奪った」と述べ、最高裁の判決を批判しています。

同演説のなかでバイデン大統領は「大統領権限で中絶の権利を取り戻すことはできない」と述べ、(中絶容認に向けて)中間選挙で民主党候補者を選ぶよう訴えました。同時に、政治的な対立がきっかけとなり、過激な抗議活動や暴力的なデモなどを起こさないように釘をさしています。

バイデン大統領は「中絶容認」の立場として知られていますが、2022年11月に控えている中間選挙への影響が懸念されます。バイデン大統領に失望した人たちの期待を取り戻せるかがポイントになりそうです。

トランプ元大統領の反応

今回の最高裁判決を受けて悲しむ人とは対照的に喜ぶ人もいます。その筆頭格と言えるのがトランプ元大統領です。

トランプ氏は判決後に声明を発表し、その中で「命のための最大の勝利だ」と述べています。また、今回の判決を下した最高裁9名の判事のうち、3名の保守派判事を任命したのは自分であることを強調しました。

今回の判決は5対4で決着しています。現在の最高裁は9名の判事のうち6名が保守派、3名がリベラル派です。6名の保守派判事のうち5名が中絶禁止寄り、1名が中絶容認の立場をとったことになります。


アメリカの最高裁は9名の判事が「保守派」か「リベラル派」かで、判決だけでなく世論にも大きな影響を及ぼします。トランプ氏は大統領だった頃からこの仕組みを使って、保守派または共和党に優位になるよう下準備を続けていました。

トランプ氏や共和党からすれば、今回の判決は政権奪取に向けた第一歩と言えるでしょう。全国各地ですでに始まっている中間選挙予備選挙において、トランプ氏が支持している候補者が続々と当選している結果にさらなる弾みをつけそうです。

アメリカのの世間の反応 ⇒全土で反応が起こる

今回の判決は全米で様々な反応を引き起こしました。

ワシントンD.C.にある最高裁判所の前には容認派と反対派が500名ほど集まりました。大きな混乱はなかったとされていますが、主張が異なる人たちによる口論が起きています。

筆者が暮らすアリゾナ州では中絶手術を実施しているクリニックの駐車場や、交通量が多い道路に中絶容認派、反対派それぞれが集まって主張を訴えていました。両者とも「中間選挙で投票しよう」という点で共通していますが、自由を奪われた!や、中絶は殺人!と過激なプラカードが散見されます。(週末にはさらなるデモが呼びかけられている)

平和的なデモはアメリカ各地で起きていますが、なかには保守系判事(中絶反対派)の自宅周辺に集まった抗議者たちが銃を保持していたことから、身柄を一時拘束される事態なども起きています。

ここまで全米各地で反応が起きることは珍しく、2020年5月にミネソタ州で起きたジョージ・フロイド窒息死事件(白人警察官が取り押さえた黒人男性を殺害し「Black Lives Matter」運動にまで発展した)を彷彿させました。

「ジョージ・フロイド窒息死事件」に関しては、詳しくは以下の記事をご参照ください。

[sitecard subtitle=あわせて読みたい url=https://koumu.in/articles/200601b target=]

[sitecard subtitle=あわせて読みたい url=https://koumu.in/articles/201009 target=]

昨今の民主党寄りメディア(主要メディアはすべて民主党寄り)がこの問題についてどれくらいの期間にわたって、どのように報道するかが見ものです。(批判一色になれば民主党にとって追い風になる)今回の問題は、女性や政治だけにとどまらず、国全体で反応が起きていることから、アメリカ国内での注目度は非常に高いと言えます。

アメリカの中絶禁止の問題、考えられる今後の展開

今後、バイデン大統領や民主党としては「中絶を容認する連邦法を成立させる」ための動きを強めると見られます。民主党で下院議長を務めるナンシー・ペロシ氏は記者会見の中で「下院では(中絶の権利を保護する)法案は可決されている」と強調し、さらに民主党が議席を増やすことで法案が成立しやすくなると、中間選挙を意識した発言をしています。

一方で、保守派が多い共和党としては、民主党の法案に反対することで最高裁の判決を支持する見込みです。そして、中間選挙で議席数を増やすために、保守層へのアピールを強めるでしょう。これを機会に、2024年の大統領選に向けてトランプ氏を担ぎ上げるかどうかは不透明です。

さっそく、一般人にも影響が出始めています。今回の判決を受けて、ミシシッピ州で唯一中絶を提供していたクリニックは、州外への移転を決定しました。同様に、アーカンソー州のクリニックは、判決が公表された直後に閉鎖し、患者に予約の取り消しを伝えるための電話作業に業務を切り替えたとしています。

テキサス州では2022年7月24日から全面的に中絶が禁止され、中絶を提供した医師は終身刑になる可能性があります。遅くとも判決から30日内に26州が中絶を禁止または制限することになります。

中絶をめぐる今後の展開は、各州の対応だけでなく、アメリカ全体の政治に影響することから、政治的にも大きな展開があるでしょう。

まとめ

49年前の最高裁判決を覆すことになった今回の判決は、アメリカ全土で中絶をめぐる論争に火をつける結果になりました。

女性の権利か生命の尊重か、いずれも判断が難しい問題です。さらに政治的な対立も絡みあうことから、中間選挙への影響は避けられないでしょう。アメリカを分断する問題として、今後の動向に注目しましょう。

本記事は、2022年6月28日時点調査または公開された情報です。
記事内容の実施は、ご自身の責任のもと、安全性・有用性を考慮の上、ご利用ください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

公務員総研の編集部です。公務員の方、公務員を目指す方、公務員を応援する方のチカラになれるよう活動してまいります。

コメント

コメントする

目次