在米日本人レポート

アメリカのインフレはなぜ起きた?どんな様子?アメリカ在住の日本人がわかりやすく解説(2022年7月記事)

いまアメリカでは空前の物価高が起きており、国民の間では最大の関心事になっています。

市場観測では2022年3月もしくは4月頃には収束すると見られていましたが、その過熱ぶりは収まる様子はなく、様々な場面でアメリカ国民の生活に影響が出始めました。

この記事では、実際にアメリカで生活している筆者目線で、インフレの現状、原因、そして今後はどうなるのかを解説します。


アメリカのインフレの様子

2022年5月時点のアメリカの消費者物価指数は8.6%です。

これは過去40年で最も高い数値で、1年前と比較すると3.6%も上昇したことになります。コロナ騒動が始まる前の2020年1月時点では2.5%だったことから、現在がどれほど高いかが分かると思います。

価格の変動率が高い食品やエネルギーを除いたとしても5.5%と高水準であり、すべての物価やサービス価格が上がっている状態と言えます。ちなみに、最も高かったのは1980年の13.5%です。これは1979年に起きたイラン革命(王政から共和制に変えた民衆による革命)を発端とする第二次オイルショックが原因とされています。

2000年以降、アメリカの消費者物価指数は1%から2%台で推移してきましたが、コロナ騒動が終息し始めた2021年4月頃から4%台に突入し、現在の8.6%に至ります。

アメリカのインフレは、2022年11月に控えている中間選挙における最大の争点とされており、中絶制限や銃規制よりも高い関心を集めています。

実際のアメリカの物価やサービス価格はどんな感じ?

アメリカのインフレが具体的にどのような状態なのかご紹介します。

ただし、アメリカは州や都市によって物価が大きく異なるため、あくまでも参考程度にしてください。また、現在は極端な円安であることも考慮しましょう。(以下すべて1ドル=135円計算)

ガソリン代

恐らくすべてのアメリカ人が値上げを実感し、影響を受けているのがガソリン代です。

2022年6月14日、アメリカ全土のガソリン平均価格が史上初めて1ガロンあたり5ドル(約675円)を上回りました。1ガロンは約3.8リットルなので、1リットルあたりに換算すると約177円です。日本から見ると高く感じないかもしれませんが、1年前は112円、2年前は77円だったと考えると、いかに高くなったかが分かります。

筆者が暮らすアリゾナ州は、原油貯蔵タンクがあるテキサス州(メキシコ湾沿い)から比較的近いことから、全米平均よりもわずかに安く済んでいます。(4.49ドル/ガロン)

一方で、ロサンゼルスやサンフランシスコなどの大都市があるカリフォルニア州は、全米平均価格よりもさらに高く、カリフォルニア州の平均価格は6.241ドル/ガロンです。(SNSではガソリンスタンドの価格表をアップするのが流行っている)


アメリカの標準家庭では毎月90ガロン(340リットル)消費すると言われており、1年前と比較すすると毎月168ドル(22,798円)負担が増える計算です。2年前と比べると257ドル(34,773円)になります。

American Community Survey Reportsによると、アメリカ人の84.8%が通勤時に単独または相乗りで車を利用するとしています。(公共交通機関を利用するのはわずか5%)おおよそ1億3千万人が通勤に車を利用していることから、ガソリン代の高騰は大多数のアメリカ人に影響を与えています。(高校生や大学生も車を利用するので実際はさらに多い)

電気代

次にアメリカで高インフレを実感するのが電気代です。

筆者のアパートは2022年4月に毎月15ドルほど値上がりしました。これまで毎月55ドルの固定レートだったのですが、毎月70ドルになりました。電気会社の説明によると燃料費高騰に対する措置とのことで、価格は年に1回見直されます。

筆者が暮らすアリゾナ州では全家庭平均で毎月12.68ドル(1,711円)の値上げになりました。電力会社の要請を受けた議会はあっさり容認し、翌週から値上げが実施される「アメリカの即断即決のスピード感」は皮肉にも感心させられます。

一方で、コロナの影響を受けて収入が減少した賃貸住宅に住む家庭(年収54,700ドル以下)に対しては電気代が割り引かれる州政府の救済制度(Federal Assistance)がありました。(家主の場合は年収102,200ドル以下)筆者はそれを申請し、2020年末から半年間は毎月20ドル程度の減額が受けられました。

電気代については、州や都市、さらには所得によって影響が異なります。救済措置の恩恵を受けられる家庭は良いものの、中間層以上の負担だけが増えているのも問題になりそうです。

マクドナルド

アメリカのビックマック単体の平均価格は5.81ドル(784円)です。

アリゾナ州ではビックマックミールと呼ばれるセット(ポテトと飲み放題のジュース付)になると10.50ドル(1,417円)なので、日本のバリューセット690円と比較すると2倍の価格になります。

アメリカではマクドナルドをはじめとするファストフードがたくさんありますが、いずれもセットを注文すると10ドル程度します。昨今、日本人に人気のIn-N-Out Burgerの定番メニューDouble-Double Burger Combosは6.70ドル(904円)なので、マクドナルドよりも割安です。マクドナルドは高級ファストフードになりつつあります。

外食(レストラン)

外食も値上がりが続いています。

よく知られた話ですが、ニューヨークではベーグルとコーヒーがセットで20ドル(2,700円)ほどし、これにチップが20%程度(540円)加わります。ちょっとした朝食やランチに3,000円くらいかかる計算です。

筆者がよく行くイタリアンレストランでは、2年前に11ドルだったラザニアがいまでは16.75ドルです。別のギリシャ料理屋では2年前までは3ドルだったスープがいまでは5ドルします。

知人が経営する日本食レストランも値上がりしました。ラーメン(味噌、醤油、豚骨)は12ドルが13ドル、カツカレー12.95ドルは13.95ドルに1ドルずつ上がっています。オーナーいわく、全商品が毎年1ドル上がっているとのことでした。

対照的に、唯一価格が変わらないのはスターバックスコーヒーのレギュラーコーヒー(トールサイズ)で、1.85ドル(日本よりも安い!249円)です。今となっては、アメリカで価格据え置きのレストランやコーヒーショップを探すのは難しいかもしれません。


外食で値上げを実感するもう一つのポイントがチップです。アメリカではレストランに行くと必ずチップを支払わなければいけません。そのチップの相場も値上がりしました。例えば、先述のイタリアンレストランでは、レシートに記載されている参考チップ価格が最低15%・20%・25%の3つだったものが、20%・25%・28%の3つに変わりました。

利用者としては、これまでと同じ料理で同じサービスしか受けられないのに支払う金額が上がったので、少し納得いかないところです。筆者の周辺では外食の機会が減ったという人が増えました。

中古車

アメリカで必需品と言える車の価格も上昇しています。とりわけ、中古車価格は2年で10,000ドル超(1,350,000円超)上昇しました。

アメリカの自動車価格調査を実施しているCarGurus(https://www.cargurus.com/Cars/price-trends/)によると、全米の中古車平均価格は2021年7月時点で28,570ドルだったものが、2022年7月には30,831ドルに上昇しています。コロナ騒動が始まる前の2020年1月時点では21,189ドルだったので、2年で10,000ドル以上も上昇したことになります。

アメリカで人気の電気自動車テスラは、2年前に購入した価格よりも、現在売却する時の価格の方が高い逆転現象が起きています。テスラ社は高需要と低供給により、2022年3月に車体基本価格を約2,500ドル引き上げ、さらに同年6月には最大で6,000ドルの値上げに踏み切りました。

この結果、自動車ディーラーや中古車販売業者から車を買う人が減り、個人売買が活発になっています。アメリカで運転していると、車に「For Sale」と書いた紙を貼って走っている人をよく見かけます。知人も含め、インフレが始まって以降、車を手放す人が増えた印象があります。

住宅

アメリカ人にとって衣食住の中で最も重要な「住」も価格が高騰しています。

連邦準備銀行のひとつであるFederal Reserve Bank of St. Louis(セントルイス連邦準備銀行)の調査結果によると、2022年第一期のアメリカの平均住宅販売価格は428,700ドル(57,874,500円)とあります。

1年前の2021年第一期は369,800ドル(49,923,000円)、コロナ騒動が始まる前の2020年第一期は329,000ドル(44,415,000円)ですから、2年で1,300万円超値上がりしたことになります。

賃貸住宅も家賃上昇が続いています。様々なサービス価格を集計しているstatista.comによると、全米の平均賃貸価格(1ベッドルーム)は1,129ドル(152,415円)です。

1年前の2021年は928ドル(125,280円)、2年前は969ドル(130,815円)で、とりわけ2021年から2022年にかけて急激な上昇が見られました。

筆者が住んでいるアパートの家賃もパンデミック後から急上昇し、2016年には535ドルだったものが、毎年値上がりが続き2022年には2倍超の1,177ドルになってしまいました。アリゾナ州はアメリカの中では物価が安い方なので、すべてが高いカリフォルニア州などから人が移住してきています。

食料品

食料品も値上がりしています。とくに肉類や加工食品が高くなった印象です。

筆者がよく行くスーパーマーケットでは、これまで4.99ドル程度だった鶏肉がいまでは7.99ドル程度します。比較的安かったアボカドは1個1ドル程度だったものが、いまでは2ドルになりました。牛乳や卵は50セントから1ドル程度高くなりました。

アリゾナ州では食料品に消費税がかかりません。さらに、セール品やクーポンを活用することで、これまで通りの価格帯に抑えられます。食料品については高くなったものの、工夫することで節約できるようです。(工夫しないと高くついてしまう)

アメリカのインフレはなぜ起きたのか?ふたつの原因

今回のインフレは様々な要因が絡み合って起きたとされていますが、2つの原因を理解するとわかりやすくなります。

パンデミックにより需要と供給のバランスが崩れた

最も大きな原因とされているのが「需要と供給のバランス崩壊」です。そもそも、高インフレ状態は需要と供給のバランスが崩れて物やサービスの価格が吊り上がった結果で、今回もそれが起きています。

いまアメリカでは「コロナ明け」の需要が高まった一方で、商品やサービスを提供する供給が追い付いていません。「需要側」であるアメリカ国民は、政府による現金給付(合計3,200ドル/人)を受け取ったものの、外出規制による支出機会の減少が続いていました。その人たちの消費行動がパンデミック前の姿に戻った訳です。

しかし「供給側」はパンデミック以前から続いていた人手不足が深刻化しており、工場、倉庫、物流、小売店などのあらゆるサプライチェーンがこれまでのように稼働できません。この結果、需要と供給のバランスが崩れたのです。


このような背景で需要と供給のバランスが崩れたため、様々な商品やサービスの価格が吊り上がり、高インフレ状態になったという訳です。

ロシアのウクライナ侵攻

ロシアがウクライナに侵攻したことで、これまで両国から輸出されていた小麦や金属などが流通しなくなり、アメリカで高インフレを招いています。

とくに小麦の価格上昇が顕著で47.2%も値上がりしました。加えて、鶏肉41.8%増、大麦33%増、油脂29.8%増、大豆20%増になっています。先述したベーグルの価格が高騰しているのは、これが影響しています。

また、食料品だけでなく、肥料や金属、鉱物などの原材料も輸出が止まっており、農業や建設業にも影響を及ぼしています。なかでも肥料の価格は2022年内に69%上昇すると予想されており、2023年以降に世界中の農業で収穫が減り、食料品価格の高値が長期化する原因になると言われています。

アメリカのインフレはいつまで続く?

アメリカのインフレは少なくとも2022年いっぱい続くと見られています。その理由として挙げられるのが「人手不足が解消しない」こと、そして「ロシアのウクライナ侵攻が収束しそうにない」ことのふたつです。

まず、いまのアメリカでは労働者が雇用主よりも強気な状態になっています。雇用主が人手不足を解消するために高賃金を提示しても、労働者はより好条件の職が見つかる可能性が高いため簡単には働かないのです。人手不足が解消しない限り、高インフレ状態が続くと考えられています。

そして、ロシアがウクライナに侵攻して以降、解決するための具体的な案が一向に出ていないことも、高インフレが長引く原因です。アメリカをはじめとするヨーロッパ諸国は武器や資金の援助を続けていますが、解決策については進捗がありません。仮に、すぐに停戦しても両国が国際社会に正常復帰するには時間がかかります。

ウクライナとロシアの両国が正常に戻るまではアメリカに限らずインフレ状態が続くと見られています。

アメリカのインフレは今後どうなる?

アメリカのインフレの行方は、アメリカの金融政策が大きく影響します。

アメリカの中央銀行にあたるFRBは2022年内に政策金利を3.4%まで段階的に引き上げることを決定しています。金利が上がると銀行や企業は借り入れコストが上昇するため、経済が冷え込んでインフレが抑制される仕組みです。

今後はこの金利引き上げによってインフレが抑制されるかがポイントです。つまり、今回のインフレは2022年末まで時間をかけて判断する必要があると言えます。

2022年内に予定されている政策金利決定会合(FOMC)は以下のスケジュールなので、このスケジュールに合わせて市場の反応を確認すると良いでしょう。

  • 07月26日‐07月27日
  • 09月20日‐09月21日
  • 11月01日‐11月02日
  • 12月13日‐12月14日

人手不足、ウクライナ情勢、そして金融政策いずれも短期間で解決できるものではありません。アメリカのインフレの今後については、金融政策の効果を注視しつつ、人手不足とウクライナ情勢が解消されるのを待つ必要があります。

まとめ

アメリカで起きているインフレは様々な物やサービスの価格を上昇させています。高インフレ状態はすぐに解消されるものではないため、しばらくはこの状態が続きそうです。

2022年内に実施される利上げの効果が吉と出るか凶と出るか、そして11月の中間選挙までに抑制の兆しが見られるかに注目です。

本記事は、2022年7月7日時点調査または公開された情報です。
記事内容の実施は、ご自身の責任のもと、安全性・有用性を考慮の上、ご利用ください。

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