わかる政治経済シリーズ 第28回

「請求権(受益権)」とは何か? – 国や地方公共団体に人権を実現させるための権利

参政権・請求権(受益権)シリーズ第2回目は、「参政権・請求権(受益権)」の中の「参請求権(受益権)」について説明します。


「請求権(受益権)」とは何か?

「請求権」とは、「基本的人権」が現実的に守られるため、国や地方公共団体に人権を実現させるための権利のことです。「受益権」とも呼ばれます。

日本国憲法で保障された「基本的人権」が侵害されたとき、国の積極的な対応を要求することのできる権利で、「参政権」と並んで能動的な性質を持つ権利です。

それでは「請求権」には具体的にどのようなものがあるのでしょうか?

日本では憲法32条で「裁判を受ける権利」を保証しています。また、国や地方公共団体に人権侵害に対する苦情の表明やその是正などを求める「請願権」や、公務員によって権利を侵害されたときの「国家賠償請求権」、国家権力によって抑留(一時的な身体の自由の拘束)や拘禁(継続的な自由の拘束)を受けたものが無罪になったときの「刑事補償請求権」が保証されています。

以下でそれぞれについて詳しく説明していきます。

「請求権(受益権)」の中の「裁判を受ける権利」とは?

「裁判を受ける権利」とは、その名の通り、国民に法律上のなんらかのトラブルがあったときに、裁判所で裁判を受けて裁判によってそのトラブルを解決することができる権利のことを言います。

「裁判を受ける権利」は憲法第32条で次のように規定されています。

何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。(引用:憲法第32条)

「裁判を受ける権利を奪はれない」というのは、国民が裁判を求めたとき裁判所は拒むことができないということです。

「民事事件」において争いが起こった時、国民は裁判によって解決を求めることができます。また、「刑事事件」においては、裁判所の裁判なしで刑罰を受けることはありません。

「請求権(受益権)」の中の「請願権」とは?

「請願権」とは国民が国や地方自治体に対して請願、つまり様々な希望・要望を出すことができる権利のことを言います。


「請願権」は憲法第16条で次のように規定されています。

何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。(引用:憲法第16条)

「請願権」では災害や事故などによる損害の救済、法律などの制定や廃止、公務員の罷免(やめさせること)など様々なことについて要望を出すことが認められています。

また、このような要望を出したことによって処罰を受けたり、なんらかの不利益を被るなどの差別的な扱いを受けることはないので自由に自分の意見を述べることができるように保証されています。

「請願権」は、日本に居住している人であれば日本国籍を持っていない外国人にも平等に認められています。

「請求権(受益権)」の中の「国家賠償請求権」とは?

「国家賠償請求権」とは、国民が公務員の不法行為によってなんらかの損害を受けたときに、国や地方公共団体にその賠償を求めることができる権利のことを言います。

「国家賠償請求権」は憲法第17条の中で次のように規定されています。

何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。(引用:憲法第17条)

「国家賠償請求権」の具体的な内容は、「国家賠償法」という法律の中で定められています。

それでは次に、「国家賠償請求権」が行使された具体的な例を3つ挙げて説明していきます。

「国家賠償請求訴訟」の具体例その1 「薬害エイズ訴訟」について

「国家賠償請求訴訟」の具体例の1つ目は「薬害エイズ訴訟」です。

1980年代、厚生省が認可した非加熱血液製剤にHIVウイルスが混入していたことが原因で、これを治療に用いた血友病患者約1400人がHIVに感染してしまうという事件がありました。

そこで、1989年被害者とその遺族は、東京と大阪の地方裁判所に非加熱血液製剤の危険性を認識していたにも関わらず認可した厚生省と販売した製薬会社に対して損害賠償訴訟を起こしました。

1996年に被告である厚労省と製薬会社が責任を全面的に認め、和解が成立しました。国は被害者救済のため各種の対策を実現することを約束しました。

「国家賠償請求訴訟」の具体例その2 「ハンセン病訴訟」について

「国家賠償請求訴訟」の具体例の二つめは「ハンセン病訴訟」です。


1998年、ハンセン病患者を隔離することを認めた「らい予防法」は憲法に違反するとして療養所に入所していたハンセン病患者が「国家賠償請求訴訟」を起こしました。

この訴訟の背景として、ハンセン病は感染症ではありますがその感染力は極めて低く、大人同士の伝染はほとんど見られないにもかかわらず、患者は差別的な目で見られ、隔離されるなどの措置が行われていたという事実があります。

日本では1931年から1996年まで「らい予防法」という法律によってハンセン病患者を強制的に隔離するという政策が行われ、ハンセン病患者は差別的な偏見の目に晒され、子どもを持つことを禁じられるなどの人権侵害を受けました。

1996年にこの「らい予防法」は廃止されました。しかし、国が隔離政策の過ちを認め、これまで人権侵害を受けてきたハンセン病患者に対して社会復帰のための措置、差別の解消に向けた施策などに取り組むことはありませんでした。

そこで、1998年に療養所に入所していたハンセン病患者13人が、人間としての尊厳を取り戻すために国を相手取って「国家賠償請求訴訟」を起こしたのが「ハンセン病訴訟」です。

2001年、熊本地裁で国の隔離政策は誤りであったと判決が下され、原告は全面的な勝訴となりました。

しかし現在でも根強く残る偏見や療養所でで生活する人など、問題が完全に解決したわけではありません。

「国家賠償請求権」の具体例その3 「郵便法損害賠償免責規定違憲判決」について

「国家賠償請求訴訟」の具体例の三つめは、「郵便法損害賠償免責規定違憲判決」です。

これは、「郵便法」の特別送達郵便物に対して国の「国家賠償責任」を免除、制限している部分が憲法第17条の「国家賠償請求権」に反しており、違憲であると判断された判例です。

1998(平成10)年、債権者Xは、支払いの滞っていた債務者Aの銀行預金を差し押さえをするように神戸地裁に申し立てました。神戸地裁はこれを受け、差押命令を「特別送達」(郵便局の局員が手渡しで配達する)の方法でAの勤務先とAの預金口座があるB銀行に送付しました。

ところが、郵便局員は手渡しではなくB銀行の私書箱に投函するという方法で配達してしまいました。そのため差押命令が銀行の手元に届くのが一日遅れ、その間に債務者Aは預金全額を引き出してしまっていたので、差し押さえをすることができませんでした。

この件について、債権者Aは差し押さえができなかったのは郵便局員が「特別送達」の郵便物を誤って私書箱に投函したことに責任があるとして、「国家賠償法」に基づき「損害賠償」を請求しました。(1998年当時、日本郵政は民営化されておらず、国営の団体でした。)

しかし、当時の「郵便法」の規定では、このような事例に対して国に「損害賠償責任」があるとは規定していませんでした。そのため、債権者Xは郵便局の過失に対して国に「損害賠償」を求めることができませんでした。つまり泣き寝入りしなければならないということです。

そこで、「郵便法」で規定される国の「損害賠償責任」の範囲の制限は憲法第17条の「国家賠償請求権」に違反しているのではないかということで裁判で争われることになりました。

結果として、「郵便法」の内容そのものは違憲ではないが、ごく限られた場合にしか「損害賠償責任」を負わないというのは違憲であるという結果になりました。

「請求権(受益権)」の中の「刑事補償請求権」とは?

最後に、「請求権」の中の「刑事補償請求権」について説明します。

「刑事補償請求権」とは、逮捕されて抑留・拘禁されていた人が無罪の判決を受けた際に保証を受ける権利のことです。

憲法第40条は「刑事補償請求権」を次のように規定しています。

何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の判決を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。(引用:憲法第40条)


犯罪の疑いをかけられ、抑留・拘禁された場合、たとえその後で無罪の判決を受けて刑罰などを受けなかったとしても、犯罪の疑いをかけられたり抑留・拘禁されるということ自体が当事者にとって大変苦痛なことです。

そのため、そのような扱いを受けた人に対して保障することが定められています。「刑事補償請求権」は「刑事補償法」の中で具体的に規定されています。

まとめ

以上、参政権・請求権(受益権)シリーズ第2回目「参政権・請求権(受益権)」の中の「請求権」について説明しました。

本記事は、2023年2月8日時点調査または公開された情報です。
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