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わかる政治経済シリーズ 第31回

「プライバシーの権利」 - 憲法13条「幸福追求権」やマイナンバー制度など3つのポイント

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目次

「プライバシーの権利」とは?

「プライバシーの権利」とは、個人のプライベートな事柄について、本人の同意なく他人に勝手に調べられたり、その情報を利用されたり第三者に開示されたりされない権利のことです。憲法13条で保障されている「幸福追求権」を根拠に主張されています。

「プライバシーの権利」は伝統的には「一人でいさせてもらう権利」と定義されてきました。19世紀以降、アメリカでマスメディアの発達に伴って、そうしたメディアによって個人が他人に知られたくない私生活についてみだりに暴露されてしまうことを防ぐために発達してきた考え方です。

さらに近年、情報化社会が進展し個人の情報をとりまく環境がますます複雑になるにつれて、「プライバシーの権利」が「自己に関する情報をコントロールする権利」であると考えられるようになってきました。

「自己に関する情報をコントロールする権利」とは、単に自分の私生活に関することを放っておいてもらうということだけでなく、取得された自分の情報を適切に扱ってもらうように求め、間違いの訂正や削除を求めることができるということです。

「プライバシーの権利」に関わる事件として、『宴のあと』事件、『石に泳ぐ魚』事件があります。以下でその2つについて説明します。

『宴のあと』事件(1964)

『宴のあと』事件とは、三島由紀夫の小説『宴のあと』をめぐって、この小説のモデルであるとされた元外務大臣の有田八郎氏が「プライバシーの侵害」を理由に謝罪と賠償を請求した事件のことです。

『宴のあと』は元々新潮社の『中央公論』という雑誌に連載されていた小説です。この連載小説を単行本として出版しようとした際、モデルとされた有田八郎氏は、自分の私生活について暴露するような小説の記述に精神的苦痛を感じ、作者である三島由紀夫と新潮社に対して謝罪広告と損害賠償を請求しました。

東京地方裁判所は、この件について「プライバシーの侵害」であることを認めました。

公開された内容が「プライバシーの侵害」であると判断されたのは、次の3つの基準を満たしていると考えられたからです。

1つは「私生活上の事実、またはそれらしく受け取られるおそれのある事柄である」こと、二つは「一般人の感受性を基準として当事者の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められるべき事柄であること」、3つは「一般の人にまだ知られていない事柄であること」であり、さらに「これらの公開によって該私人が実際に不快・不安の念を覚えたこと」です。

この事件は、日本で初めて「プライバシーの権利」を法的に認めた事件として重要であり、この判決が示した「プライバシーの侵害」の基準は、その後の「プライバシーの侵害」をめぐる裁判でも踏襲されており、日本における「プライバシーの権利」の先駆けとなっています。


『石に泳ぐ魚』事件(2002)

『石に泳ぐ魚』事件とは、柳美里の小説『石に泳ぐ魚』の主人公のモデルになった女性が「プライバシーの権利」の侵害と「名誉棄損」を理由に作者の柳を相手取って損害賠償と出版差し止めを求めた裁判のことです。

小説『石に泳ぐ魚』の中で女性は自身の国籍や出身大学だけでなく顔に腫瘍があることの詳細な表現や新興宗教に入信し知人に金の無心をしたこと、父親の逮捕歴など極めて詳細に描写されており、知っている人が読めばすぐに小説のモデルがその女性であることがわかってしまう状態でした。

最高裁は、この件を「プライバシーの権利」の侵害であると判断しました。

小説の中で女性に関わる情報について、その女性のことだとわかってしまうくらい詳細に記述されており、また女性の顔の腫瘍について過激な描写をしていることについて、公的な立場にあるわけではない女性の個人的な事柄を公開することは公共の利益とはかかわりがないこと、女性の「プライバシーの権利」や名誉感情が傷つけられ大きな精神的苦痛となるものであるため、女性の訴えは認められ、『石に泳ぐ魚』は女性のプライバシーに関わる部分を大幅に改訂しての出版となりました。

以上『宴のあと』事件、『石に泳ぐ魚』事件はいずれも小説における『プライバシーの権利』に関わる事件で、『プライバシーの権利』と『表現の自由』がぶつかった事件であると言えます。

次に、「プライバシーの権利」について理解するうえで押さえておきたい3つのポイントについて紹介します。

「個人情報保護法」とは?

「個人情報保護法」とは、どのような情報が「個人情報」にあたるのか、「個人情報」をどのように扱えばいいのかを定めた法律です。

デジタル技術の進展や社会の高度な情報化に伴って、「個人情報」の取り扱いが重大な社会的課題となる中、「個人情報保護法」は2003年に制定、2005年に施行されました。

「個人情報」とは氏名、生年月日、住所、顔写真などの個人を特定できる情報のことです。電話番号やメールアドレスなども「個人情報」に該当する場合があります。また、運転免許証番号や後述するマイナンバーも「個人情報」です。

これらの「個人情報」は行政や医療、ビジネスなど様々なサービスで活用されていますが、個人のプライバシーに関わる重要な情報であるため、慎重に取り扱う必要があります。

そのため「個人情報保護法」では、「個人情報」を取得・利用するとき、保管・管理するとき、第三者に提供するとき、開示請求に対応するとき、「個人情報」が漏洩してしまったときなどのルールについて詳しく定めています。

「個人情報」を取り扱う事業者は「個人情報保護法」で定められた様々なルールに従って「個人情報」を管理する義務があります。しかし、例外的に「個人情報保護法」が適用除外となる場合があります。それは、報道・政治・宗教団体などです。これらは「表現の自由」「政治活動の自由」「宗教活動の自由」を憲法によって保障されており、法律は憲法に違反することはできないので、初めから「個人情報保護法」の適用外と決められています。

『住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)』とは?

「住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)」とは、全国共通の本人確認ができるシステムとして居住関係を証明する「住民基本台帳」をネットワーク化したもので、2002年に稼働しました。

「住民基本台帳」には、氏名・生年月日・性別・住所が記録されています。「住基ネット」ではこれらの情報に11桁の住民票コードを割り当てることで、行政における本人確認に必要な情報を合理的にやり取りすることを目的としています。

2008年、「住基ネットシステム」が国民の「個人情報」を収集・管理することは憲法13条に保障される「個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由」を侵害するものではないため合憲であると最高裁は判断しました。


「住基ネット」の導入に伴い、2003年に「住民基本台帳カード(住基カード)」が交付されました。これは個人の住所・氏名・性別・住民票コードが記録されたICカードで、写真付きのものは身分証明書として用いることができましたが、「個人番号カード」の交付開始に伴い、2015年に交付が終了しました。

マイナンバー制度(2016)とは?

「マイナンバー制度」とは、日本に住民票を持つ人全員に12桁からなる「マイナンバー(個人番号)」を割り振り、行政機関での「個人情報」の管理や手続きをより効率的に行うための制度です。

「マイナンバー制度」は2016年に導入されました。「マイナンバー制度」導入の目的は大きく分けて3つあり、一つ目は「行政の効率化」、二つ目は「国民の利便性の向上」、三つ目は「公正・公平な社会の実現」です。

「マイナンバー制度」が導入される前までは、住民票コード、健康保険被保険者番号、基礎年金番号などはそれぞれ個別の番号で各担当の行政機関で管理されていました。そのため、それぞれの連携・照会に手間がかかり、行政機関にとっても国民にとっても無駄な時間や労力がかかっていました。

そこで「マイナンバー制度」を導入しこれらの「個人情報」を一元的に取り扱うことができるようにして、「行政の効率化」と「国民の利便性の向上」を図るという目的があります。

さらに、「マイナンバー制度」によって国民の「個人情報」を効率的に管理することができるようになると、税金や社会保障の負担を不当に逃れたり不正受給を防止したり、本当に困っている人に支援が行き届きやすくなり「公正・公平な社会の実現」を目指すことができると考えられています。

まとめ

以上、新しい人権シリーズ第2回目、「新しい人権」の中の「プライバシーの権利」について説明しました。

本記事は、2023年3月4日時点調査または公開された情報です。
記事内容の実施は、ご自身の責任のもと、安全性・有用性を考慮の上、ご利用ください。

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この記事を書いた人

2021年に公務員総合研究所に入所した新人研究員。

好きな言葉は、「つまづいたっていいじゃないか にんげんだもの」

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