皇居を護る国家公務員専門職「皇宮護衛官」になる方法

皇室行事などのニュースで、儀礼服に身を纏い、サイドカーや白バイ、時には騎馬隊が天皇皇后両陛下や皇族各殿下、国賓の護衛を行っているのを見たことがあると思います。彼らは「皇宮護衛官」と呼ばれる国家公務員です。本ページでは、その「皇宮護衛官」になる方法を解説します。


皇宮護衛官を押さえる4つのポイント

1)皇宮護衛官は、国家公務員専門職です
2)皇宮警察本部に所属する「特別司法警察職」で警察官ではない!
3)大学卒業程度と高校卒業程度と武道有段者、社会人の4区分の採用試験があります
4)勤務地は主に東京!だけど、関西では、京都、奈良などもあります(1都1府4県)

国家専門職「皇宮護衛官」になるには?

皇宮護衛官 試験の流れ イメージ画像
公務員総研作成

皇宮護衛官とは?

「皇宮護衛官」は雨の日も雪の日も皇居や御所などを護り、天皇皇后両陛下や皇族各殿下の身の安全を確保することを任務とする国家公務員です。

「皇宮護衛官」は警察庁にある付属機関のうちのひとつで、海上保安官などと同じ位置づけの「特別司法警察職員」にあたります。警察本部には行事や式典などで演奏を披露する音楽隊がありますが、これは皇宮護衛官がそれぞれの部署に所属しながら兼務という形で活動をしています。

国家専門職「皇宮護衛官」に就職するには?

「皇宮護衛官」として働きたい場合には、人事院・皇宮警察本部が行う国家公務員試験の専門職試験である「皇宮護衛官選考採用試験」に合格して採用される必要があります。平姓29年度の採用予定数は約20名と狭き門でした。

選考採用試験には「大学卒業程度試験」と「高校卒業程度試験」、「武道有段者試験」があり、それぞれに受験資格が異なります。「護衛官(社会人)」もありますが、平成28年度の採用試験は行われませんでした(社会人は年齢40歳未満が対象)。試験には男女の区分はなく、男性も女性も同等に試験を行います。

皇宮護衛官の仕事内容

仕事内容

皇宮護衛官は天皇皇后両陛下や皇族各殿下の護衛、皇居や御所、御用邸などの警備をするのが主な仕事内容です。皇室行事などが執り行われる際には、当日の警護はもちろん、事前から計画的に警備を進めます。行事の際には儀礼服を着用することもあります。白バイによる護衛も行います。また、音楽隊が編成され演奏も行います。

皇族に随行して護衛する皇宮護衛官(SP)は側衛官と呼ばれます。側衛官には、警護技術だけではなく、さまざまな文化教養も求められます。馬術は必須で、茶道や華道、和歌などもできることが条件です。

皇宮護衛官の仕事内容には防火・消防活動もあり、警防車と呼ばれる消防車も所有しています。

勤務地

皇居及び赤坂御用地が皇宮護衛官の主な勤務地ですが、その他に京都市の御所や神奈川県葉山市などにある御用邸などでも職務にあたります。

天皇皇后両陛下・皇族各殿下の護衛を担当する側衛官は、国内・国外問わず訪問先に同行します。

主な勤務地の近くには、皇宮護衛官の独身宿舎・家族宿舎が設けられています。


・主な勤務地
東京都 皇居、赤坂御用地、常盤松御用邸
京都市 京都御所、大宮仙洞御所、桂離宮、修学院離宮
奈良市 正倉院
栃木県 那須御用邸、御料牧場
神奈川県 葉山御用邸
静岡県 須崎御用邸

皇宮警察本部の組織構成 3つの部門

皇宮護衛官は警察庁の3つある付属機関のうちのひとつです。警察庁に付属していますが、一般の警察とは違い特別司法警察職員となります。特別司法警察職員には、必要な時に警察の権限が与えられます。

皇宮警察本部

皇宮警察本部の庁舎は平成25年に改修工事が行われた枢密院にあります。本部は2つの部署(警備部・護衛部)と4つの署(護衛署)、皇宮警察学校から成ります。護衛署は皇居内の坂下護衛所と吹上護衛所、他に赤坂護衛所と京都護衛所の4か所です。

皇宮警察本部は国家公務員の「皇宮護衛官」、「警察庁事務官」「警察庁技官」からなります。皇宮護衛官の定員は921人で警察庁の定員に関する訓令により定められています。

仕事の主となる3つの部門

皇宮警察本部の仕事は主に「警備部門」「護衛部門」「警務部門」に分類されます。

警備部門

「警備部門」を担うのは「警備部」で、皇居、赤坂御用地、御用邸などを警備しています。警備は雨や雪などの悪天候であっても一時も休むことなく行われます。行事の際には必要な警備計画を立て、各都道府県の警察との打合せなども行います。行事では儀礼服を着用し警備にあたることもあります。また、有事にも備え特別警備隊が置かれており、日ごろから訓練を行っています。

警備部は木造の建物も多い管轄地内の防火・消防にも務めます。そのため、警防車も持ち合わせています。

護衛部門

「護衛部門」を担う「護衛部」では、皇居、御所、訪問先のすべてで天皇皇后両陛下や皇族各殿下の身の安全を守ります。海外より大使が訪れたときなども護衛を行います。行事の際には、騎馬やサイドカーで護衛にあたることもあります。
護衛部の側衛官は一番近くで護衛にたります。側衛官には護衛だけでなくさまざまな教養も求められます。また、乗馬やスキー、テニスなどもできなければならず、外国語も必要なため、そのための研修や訓練を受けています。

警備部門

警務部門には警務課、会計課などがあり、予算の管理や組織の運営を行います。人事・採用・勤務・厚生・教養などを担当し、働きやすい環境を整えています。音楽隊があるのも警務課です。

狭き門「皇宮護衛官」の受験資格と採用試験の倍率

皇宮護衛官として働きたい場合には、人事院が行う国家公務員試験の専門職試験である「皇宮護衛官選考採用試験」に合格して採用された後、皇宮警察学校にて研修を行う必要があります。

選考採用試験の区分には「大学卒業程度試験」と「高校卒業程度試験」、「武道有段者試験」「社会人試験」があり、それぞれに受験資格が異なります。

「大学卒業程度採用試験」の受験資格

採用年度の4月1日現在、年齢21 歳以上30歳未満、大学を卒業した者及び採用年度の翌年3月までに大学を卒業する見込みの者、または、短期大学、高等専門学校を卒業した者及び採用年度の翌年3月までに短期大学又は高等専門学校を卒業する見込みの者、人事院がこれらの者と同等の資格があると認める者です。(21歳未満の場合でも、大学卒業(及び卒業見込み)・短大卒業(及び卒業見込み)は受験できます。)

「高校卒業程度採用試験」の受験資格

試験年度の4月1日において高等学校または中等教育学校を卒業した日の翌日から起算して5年を経過していないもの、または、試験年度翌年3月までに卒業見込みの者です。

「武道有段者採用試験」の受験資格

試験年度の4月1日において、高等学校または中等教育学校を卒業している者のうち、柔道2段、剣道3段以上、過去5年間に全日本柔道・剣道連盟が主催または共催などの全国規模学生大会に出場したもの(団体戦の登録を含む)

2次試験では、身体検査・身体測定・体力検査があります。

また、二次試験では、護衛艦として職務を全うするための一定の身体的基準や検査が設定されています。


採用試験の倍率について

皇宮護衛官選考採用試験は採用予定人数が少ないため、非常に狭き門の難しい試験です。一次試験、二次試験ともに倍率の高い難関な試験となります。

一次試験の作文試験は、筆記試験の合格者を対象に評定されるため、なんとしても一次の筆記試験で合格点を取る必要があります。二次試験も対策が必要といえます。

「大卒程度試験」の過去3年間の合格者数( )は女性

「大卒程度試験」の過去3年間の合格者数

皇宮護衛官の年収や勤務について

国家公務員である皇宮護衛官の給与には、公安職棒給表(一)が適用されます。公安職の給与は一般の国家公務員に比べ高くなっています。皇宮護衛官は、一般企業のように景気に左右されず、公安職俸給表(勤続年数、階級など)により昇給します。

初任給について

(大卒程度)初任給は235,410円
(高卒程度)初任給は193,284円~223,964円
(いずれも平成27年12月現在)
初任給は採用区分による違いがあります。

この他に手当の支給があります。手当には、扶養手当、住居手当、通勤手当、超過勤務・深夜手当等があります。ボーナスに当たる期末・勤勉手当は年2回支給されます。

年収について

皇宮護衛官全体の大卒平均給料は37万円程、職種平均年収は大卒初年度で300万円程、高卒260~270万円程、職種平均700万円となります(推定)。

勤務時間

皇宮護衛官の勤務形態は8時から17時15分の日勤、または、4交替のシフト勤務になります。

[4交代のシフトの場合(勤務例)](夜勤の場合には仮眠があります)

勤務時間

休暇・休日など

皇宮護衛官は週休2日制となっています。交替勤務の場合には4週間に8日の休日となります。
他に特別休暇(夏季・結婚・忌引・ボランティア等)の他に、有給休暇が付与されます。有給休暇は年20日付与され、前年度分を繰越した場合には最大40日受取れます。ただし、皇室の行事スケジュールによっては休みの調整が必要となることもあります。

勤務地

主な勤務地は、東京都(皇居、赤坂御用地、常盤松御用邸)、京都市(京都御所、大宮仙洞御所、桂離宮、修学院離宮)、奈良市(正倉院)、神奈川県・栃木県・静岡県の御用邸等です。
勤務地の近隣に皇宮護衛官の宿舎(独身・家族)が設けられています。

活躍する女性の皇宮護衛官は1割以上

皇宮護衛官選考採用試験には男女の区分がないため、成績上位者から順番に採用となります。そのため採用者数の男女の割合は年度によって異なります。例年、女性の採用者があります。男性だから、または、女性だからといって優遇されることはありませんが、女性の活躍の場は大いにあります。

平成26年度には女性の皇宮護衛官が全体の1割を超えたというニュースがありました。性別に関わらず基礎体力・護衛のスキルは必要ですが、柔らかい丁寧な身のこなし、女性ならではの視点が役に立つこともあるようです。皇宮警察本部としても職場環境を整え、女性の数を確保していきたいとしています。

他の警察組織に比べて女性の割合が多い皇宮護衛官。警察組織の中では、女性の活躍の場が開かれているといえます。

「大卒程度試験」の過去3年間の採用者数

「大卒程度試験」の過去3年間の採用者数

「皇宮護衛官採用試験」の内容

皇宮護衛官選考採用試験では、一次試験に合格したものが二次試験を受けられ、最終合格は採用後に研修・訓練を受けることになります。

皇宮護衛官は専門性の高い職種のため警察官とは別の試験になります。区分には「大学卒業程度試験」と「高校卒業程度試験」、「武道有段者試験」、「護衛官(社会人)」がありますが、男女の区別はありません。

受付・申込み

「武道有段者試験」以外は人事院の採用案内インターネット申込み後に、受験票をダウンロードします。

「武道有段者試験」は試験申込書を皇宮警察本部警務課人事第二係に請求をし、受付は特定記録郵便での郵送となります。

大卒程度4月頃、高卒程度7月頃、武道有段者4月頃と試験区分により受付の時期も違います。詳しくは人事院のホームページで確認ができます。

第一次試験について

◎ 大学卒業程度試験 高卒程度試験
【試験科目】
・基礎能力試験(多肢選択式)出題数40題…知能分野(文章理解、課題処理、数的処理、資料解釈)/知識分野(自然科学、人文科学、社会科学)
・課題論文試験(文章による表現力、課題に対する理解力など)


◎ 武道有段者試験
【試験科目】
・論文試験…文章による表現力、課題に関する知識・理解など
・実技試験…柔道または剣道の習熟度、技量の試験

第二次試験について

・大学卒業程度試験 高卒程度試験
人物試験 人柄、対人能力などについての個別面談(性格検査)
身体検査 胸部疾患、血圧、尿、その他一般内科検査
身体測定 身長、体重、視力、色覚についての測定
体力検査 状態起こし、立ち幅跳び、反復横跳びによる筋持久力等の検査
基準に達しないものが一つでもあれば不合格(※1)

(※1)体力検査基準
状態起こし:30秒間のうち男子21回以上、女子13回以上
立ち幅跳び:男子205cm以上、女子147cm以上
反復横跳び:男子44回以上、女子37回以上

・武道有段者試験
身体測定 身長、体重、視力、色覚についての測定
基準に達しないものが一つでもあれば不合格(※2)
身体検査 胸部疾患、血圧、尿、その他一般内科検査
人物試験 人柄、対人能力などについての個別面談(性格検査)

(※2)不合格基準
身長 男子160cm、女子148cmに満たない者
体重 男子48kg、女子41kgに満たない者
色覚 職務遂行に支障のある異常がある者
視力 裸眼または矯正でどちらか一眼でも0.5に満たない者
両眼で0.8に満たないもの
四肢の運動機能に異常のあるもの

試験を受ける場合には、一次試験はもちろんのこと、面接試験でも宮内庁と間違えのないよう正しく理解し回答ができること、人物像でも求められる人財であることをアピールできるよう対策が必要といえます。

○身辺調査
公務員公安職の場合、一次試験合格者は身辺調査が行われると聞きますが、公に情報はでていないので具体的にどのような内容かは分かりません。一般的に身辺調査というと、本人または身内、結婚相手の犯罪歴、反政府支持などの思想、反社会的勢力との関係の有無などが調べられると思っていればよいのではないでしょうか。
このような調査で知りえた情報を、採否の決定材料にしてはならないとされています。

皇宮護衛官の階級について

皇宮警察本部には階級があります。皇宮護衛官の階級は警察官と同様に警察法に定められていますが、皇宮護衛官の階級の呼称には「皇宮」がつくのが特徴です。但し、警察手帳の所属本部名は皇宮警察本部ではなく警察庁と明記されています。

皇宮護衛官の警棒や拳銃などの扱いや制服に関しても警察官に準じますが、皇宮護衛官の制服の両襟には皇宮護衛官の章がつき、警笛のひもはえんじ色をしています。

階級について

皇宮巡査に就任後、学歴や性別に関係なく昇任試験に合格することで上位の階級へ上がることができます。警察官も皇宮護衛官も階級により階級章が変わります。

皇宮巡査

皇宮巡査部長(大卒:採用後2年、
│ 短大、専門卒:採用後3年、
│ 高卒:採用後4年6ケ月)

皇宮警部補(大卒:査部長実務1年6ケ月
│ 短大、専門卒:巡査部長実務3年
│ 高卒:巡査部長実務3年)

皇宮警部(警部補実務4年)

皇宮警視 (選考)

皇宮警視正 (選考)

皇宮警視長 (選考)

皇宮警視監 (皇宮警察本部長)

皇宮警察学校について

皇宮護衛官に採用されると皇宮巡査に任命をされ、その後、皇宮警察学校での研修や現場実習を受けます。皇宮警察学校は皇居内にあり全寮制です。研修期間は学歴によって異なり、初めの研修期間は、大卒で6ケ月間、それ以外では10ケ月間となります。

皇宮護衛官の研修・訓練

研修では皇宮護衛官として必要な法学(憲法・刑法・刑事訴訟法)、警戒警備、警防(消防)などのさまざまな知識を学びます。

また、逮捕術、けん銃操法などの各種訓練、教練、柔道・剣道、合気道(女性のみ)の訓練もあります。

その他に英会話、短歌、書道、華道、茶道、馬術等など広い分野の文化・教養を身につけます。

警察学校卒業後は皇居・御所等の警備を担当する護衛署に3ケ月間勤務(実習)をします。
3ケ月の勤務(実習)の後、再び皇宮警察学校でより実践的な訓練(補修)を行います。この補修は大卒2ケ月間、それ以外は3ケ月間となっています。

そして、再び大卒4ケ月、それ以外は5ケ月の勤務(実習)を行うと各部署への配属となります。

その後も皇宮護衛官にはさまざまな研修や、訓練を受けるチャンスがあります。
海外で語学を学ぶ研修制度(選抜)や側衛官を養成する訓練、白バイや乗馬などの訓練などもあります。

皇宮護衛官(高卒)の採用の流れ

皇宮護衛官(高卒) 試験の流れ イメージ画像
公務員総研作成

皇宮護衛官には、高卒程度試験もあり、高校または中等教育学校を卒業する見込みの、もしくは高校または中等教育学校を卒業した日の翌日から起算して5年以内であれば受験することができます。

まとめ 皇宮護衛官のキャリアアップ

国家公務員の公安職で皇宮護衛官という仕事。一般の警察官とは違う、皇居や天皇皇后両陛下、皇族各殿下、国賓の護衛をするという特殊な仕事内容に憧れる人も多く、試験は倍率のとても高い難関試験であることがわかりました。しかし、その狭き門を突破すると、計画的で充実した研修や訓練が整備された魅力的な職業です。就任後も学歴や性別に関係なくキャリアを積むことができ、努力次第で上の階級への道も開けてきます。白バイやサイドカーでの護衛、騎馬隊へのキャリアアップも努力次第です。


皇宮護衛官を目指す場合は、夢を実現するために、倍率の高い試験であること、男女の区別はなく成績上位順に採用が決められることをしっかりと意識して、一次試験、二次試験ともに対策をたて望みましょう。

本記事は、2017年4月12日時点調査または公開された情報です。
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