犬のおまわりさん? 事件・事故・災害現場で活躍する警察犬・災害救助犬

ペットとしても人気で、私たち人間の生活の中でも密接な関係にある動物が犬です。家族として飼われるだけでなく、持っている能力を生かして色々な現場で活躍する犬たちも多くなりました。

ここでは事件や事故、災害現場で活躍する警察犬、災害救助犬について解説しています。


警察で活躍する「警察犬」について

警察犬には直轄犬と嘱託犬がいる

警察犬には、警視庁や各都道府県警察本部に所属し、管理や飼育、訓練もその警察本部が行う直轄犬と、一般人の元で管理、飼育、訓練が行われ、要請に応じて出動する嘱託犬の二種類がいます。

日本でおよそ1,500頭いる警察犬全体を見ると、直轄犬は10%ほど、嘱託犬は90%以上で、ほとんどの割合を嘱託犬が占めています。

日本警察犬協会では、シェパード、ドーベルマン、コリー、エアデールテリア、ラブラドールレトリバー、ボクサー、ゴールデンレトリバーの7種類が警察犬として指定されています。この中でも卓越した鋭い嗅覚と運動能力を持ち、忍耐強さや賢さも併せ持つシェパードは、最も警察犬に向いている犬種と言われています。

直轄犬について

色々な警察の任務を行う警察犬ですが、直轄犬は所属が決まっています。警視庁の警察犬は「警備第二課」、都道府県警察本部の警察犬は「警備課」、それぞれの課内の警備装備係に所属しています。

嘱託犬について

嘱託犬の場合は、普段は飼い主さんや警察犬トレーナーやブリーダーの元で生活している、非常勤の警察犬です。

元々は一般家庭の犬でも、警察犬訓練学校などで訓練を受けた後に年に1度だけ行われている各都道府県警察主催の審査会に出場し、実力が見つめられれば嘱託犬として活躍できます。また、実力を認められて日本警察犬協会が指定する7種類の犬以外の犬種(現在はミニチュア・シュナウザー、ロングコートチワワ、柴犬、トイプードル、ミニチュアダックスフンドの嘱託犬が活躍中)で嘱託犬となったケースもあります。

ただし、嘱託犬の場合は任期が1年間と決まっているので、警察犬としての活動を続けるには毎年1回必ず審査会に出場、クリアしなければいけません。

警察犬の任務について

犬は人の4~6,000倍の嗅覚を持つといわれています。この鋭い嗅覚と人間に従順な性質を生かして、警察の任務をフォローする活動を行っています。警察犬は犯人や行方不明者の追跡や、遺留物・特定の品物を捜索するなど主な任務性から鑑識を行う鑑識課で主に使用されています。

警察犬の任務その1:足跡の追跡活動

犯行現場や事故現場で人が残したものの匂いをかぎ、その匂いを元に逃走した犯人や他の遺留品、行方不明者の足取りを追いかける任務です。

警察犬の任務その2:臭気選別活動

容疑者と思しき人物が判明した場合、あらかじめ犯行現場に残されていたものや犯人の遺留品を嗅ぎ、容疑者と思しき人物の匂いと一致するかを判別する任務です。

警察犬の任務その3:捜索活動

一定の範囲内で人や物を匂いで探し出す任務です。迷子や行方不明者の捜索、遺留品、麻薬などの探知と幅広い任務を担う活動です。


他にも、麻薬だけでなく爆発物の特定ができる、後述の災害救助犬のように被災者の捜索活動も行える、などの活動ができる警察犬も存在します。

日本の警察犬の歴史について

世界で初めて警察犬が取り入れられたのが1896年にドイツのヒルデスハイム市警察です。

日本では、1912年に警視庁がイギリスから取り寄せたコリーとラブラドールレトリバーの2頭を今のような警察の任務サポートを目的としてではなく、防犯の広報活動目的で採用したのが始まりです。

1940年には警視庁で警察犬舎の設置及び警察犬の運用に伴う管理や飼育を始めましたが、戦争激化とともに一時中断となりました。戦後1952年に警察犬制度が再整備、民間の訓練士の元で訓練を受けた12頭の犬を嘱託警察犬として運用する嘱託警察犬制度が作られました。その後、1956年には警視庁で直轄警察犬制度が発足、現在に至ります。

警察、自衛隊の警備任務で活躍する「警備犬」について

警視庁、千葉県警、自衛隊にのみ配備

警察犬が犯人の追跡や遺留品の捜索を行うのに対して、爆発物の捜索やテロリストの鎮圧のサポート、災害現場における救助活動などの警備任務を担っているのが「警備犬」です。警察犬は日本全国の都道府県警察本部に配置されているのに対して、「警備犬」は警視庁、千葉県警察本部、自衛隊にのみ配置されています。

警視庁の警備犬について

警視庁の警備犬部隊は、警備部警備第二課警備装備第三係に所属し、主に国内外で災害が発生した時に派遣され、被災者の捜索など災害救助犬としての任務を担っています。

千葉県警察本部の警備犬について

千葉県警察本部の警備犬部隊は、警備部成田国際空港警備隊警備室警備第二課に所属し、主に成田空港から不審物発見の通報を受けた時に、爆発物の捜索を行う任務を担っています。

自衛隊の警備犬について

自衛隊の警備犬は元々軍務のための訓練を受けた「軍用犬」と呼ばれていましたが、現在では「警備犬」の名称で呼ばれ、自衛隊の任務のサポートを行っています。

災害現場で活躍する「災害救助犬」について

災害救助犬独自の団体が運用

前述の警視庁の警備犬と同じく、人を探す任務に特化しているのが災害救助犬です。

警察の警察犬及び警備犬は、警察本部内もしくは一般家庭や訓練所などで管理されていることが分かりましたが、災害救助犬は災害救助を担う消防組織に属しているのではなく、「NPO法人全国災害救助犬協会」を始めとした災害救助犬の活動団体が運用しています。

災害救助犬は、警察犬と違って特に犬種が定められていませんが、人体から発する匂いを辿っての捜索活動が求められますので、狩猟本能の強い犬種の方が有利とされています。現在、災害救助犬としてシェパード、ラブラドール、ゴールデンレトリバー、ボーダーコリーなどの大型犬が多くなっていますが、他にもダックスフント、ウェルシュコーギーなどの小型犬や、柴犬、甲斐犬などの日本犬も災害救助犬として活躍しています。

災害救助犬の任務について

災害救助犬の主な任務は、災害や事故現場においてがれきや雪崩、土砂や車両の下にいる人を探したり、登山中などに山中で遭難してしまった人を探したりすることです。

警察犬との違いを見てみると、警察犬は犯人や行方不明者などあらかじめ特定されている人の匂いを嗅いで、それを元に追跡するのが任務ですが、災害救助犬は元の匂いがない状態で、不特定多数の人を探し出すことを任務としています。災害救助犬は、要救助者などから発せられる皮膚のたんぱく質の匂いを感知して探し出します。

不特定多数の人の皮膚から発せられる匂いを元に、要救助者や行方不明者を探し出すので、事故や災害にあってけがをしていたり、声や音を出したりできない状態の人も探し出せるのです。なので、警察犬は匂いを元に追跡している間に、川向こうなどで匂いが途切れてしまった場合は追跡ができなくなってしまいますが、災害救助犬は風下であればどんな状況でも匂いを探し出せる特徴があります。

実際の大規模災害現場では、最小単位として災害救助犬3頭と指導手(ハンドラー)3名、隊長1名が1チームになって出動します。3頭のうち1~2頭が捜索を実施して残りの1頭は待機しておきます。この時、自分の担当の犬が捜索していないハンドラーは隊長とともに捜索中の犬の観察を行います。捜索中に、災害救助犬が行方不明者発見の反応を示したら、捜索の精度を高めるために同じ場所を他の災害救助犬に確認させます。さらに、2頭目の反応が不確実であれば3頭目に確認させ、確認を行った3頭の内2頭が同じ場所で発見の反応をしたら、その場所に行方不明者がいる確率が高いと判断し、警察や消防などの隊員に知らせ、その場所の人命救助活動に移ります。


災害救助犬の実績について

日本における災害救助犬は、阪神淡路大震災や東日本大震災、熊本大地震などの地震災害現場で特に多く活躍してきた実績があります。

災害の多発する日本では、今後も大規模な地震災害を始めとした各種災害が発生する可能性が高くなっています。また、日本の持つ救助技術の高さから海外からの災害支援要請も多いため、国内外で今後も災害救助犬の需要は高くなることが予想されています。

災害救助犬として活躍するまで

災害救助犬は、主に災害救助犬活動の団体による育成や訓練などの取り組みによって誕生します。若い内からボール投げや引っ張り合いなど、災害救助活動に必要な体力や適性を身につけるための遊びをたくさんさせ、迅速かつ的確な命令に従えるように、服従訓練も随時行います。また、がれきや雪崩、土砂など隠れている状態の人間の発する匂いだけでその人を探せる能力を養うために、かくれんぼ遊びなどもたくさんさせます。

災害救助犬としての訓練をスタートさせて、災害救助犬育成団体の行う認定試験に合格しても実際に災害救助犬として活躍できるようになるまで、最低でも一年はかかると言われています。現在は、災害発生時にはすぐに対応できるように、常に災害救助犬としての訓練を欠かさずに行っています。また、救助技術そのものを磨くだけでなく、犬と人間とのコミュニケーションも大切になりますので、近年では消防や警察、自衛隊との合同災害訓練も実施し、人間と災害救助犬が顔と顔を合わせて、信頼関係を築けるための取り組みも行われています。

▼参考URL:災害救助犬に詳しくなろう
http://rise-nippon.co.jp/report/1084/

警察犬・災害救助犬と関わる職業及びなる方法とは?

警察の鑑識官、消防の救助隊員

実際の犯行現場から犯人の足取りを辿ったり、災害現場や事故現場で要救助者や行方不明者を警察犬や警備犬、災害救助犬と一緒に行ったりするのは警察官の中でも特に鑑識官、そして消防の救助活動を担う救助隊員です。いずれも各都道府県の警察官・消防職員の地方公務員採用試験を合格するのが第一歩になります。

なお、救助隊員については以下の記事も合わせてご参照ください。

》【港町の救助隊】横浜の救助隊「横浜レンジャー」と「スーパーレンジャー」

関東地方で東京に次ぐ規模を誇る都市が、神奈川県の県庁所在地横浜です。また、日本三大港町のひとつとして、観光名所としても人気となっています。広大な横浜の消防組織で活躍する救助隊が、「横浜レンジャー」と「スーパーレンジャー」です。

警察犬・災害救助犬の訓練士

警察犬や災害救助犬の訓練やしつけは、ドッグトレーナーとも呼ばれる犬の訓練士が行っています。警察犬や災害救助犬だけでなく、盲導犬や介助犬など色々な人の役に立つための活動を行う犬の訓練やしつけを担う訓練士もいます。

警察犬の公認訓練士になるには日本警察犬協会の資格であるPD公認訓練士資格が必要です。まずスタートである三等訓練士の試験を受けるために警察犬訓練所などで見習訓練士として3~6年ほどの実務経験が必要になります。

PD公認訓練士

日本警察犬協会が発行する警察犬訓練士公認資格です。一等訓練士長、一等訓練士正、一等訓練士、二等訓練士、三等訓練士の5階級に分かれています。

三等訓練士の受験資格は、年齢18歳以上、協会の会員であること。訓練の経験と日本警察犬協会の訓練試験項目に2頭以上・5科目以上自身が訓練した犬を合格させた訓練実績があることです。この条件を満たし、筆記試験に合格すれば三等訓練士資格が得られます。まずは三等訓練士を目指して見習い訓練士として訓練所に入所し、最低3年間およそ6年間修業を積みます。

上位資格は、三等訓練士として2年以上訓練に従事して所定の条件を満たし、試験に合格すれば二等訓練士、二等訓練士として5年以上訓練に従事し日本警察犬協会の関連機関からの推薦を得られれば一等訓練士、一等訓練士としておよそ10年以上勤務し日本警察犬協会に貢献しているなどの条件を満たせば一等訓練士正、一等訓練士正としておおむね10年経過し、その間に日本警察犬協会に対する功労があり、他の訓練士の模範となる訓練士が一等訓練士長としての門戸が開かれます。

災害救助犬の訓練士になるには、特定の資格は必要ありませんが認定訓練士資格は実質必要と言っても過言ではありません。JKC公認訓練士、JSV公認訓練士の2資格が代表的な災害救助犬訓練士認定資格です。日本レスキュー協会認定の災害救助犬訓練士の勉強や資格取得ができる養成学校に通ったり、各資格公認の災害救助犬育成訓練所に入所して実務経験を積みながら資格取得を目指したりするのが近道になります。

▼参考URL:社団法人 日本警察犬協会|公認訓練士制度
http://www.policedog.or.jp/seido/kunrenshi.htm

JKC公認訓練士

一般社団法人ジャパンケネルクラブ(JKC)の発行する公認訓練士資格で、訓練準士補、訓練士補、訓練練士、訓練教士、訓練範士、訓練師範、の6種類があります。

▼参考URL:一般社団法人ジャパンケネルクラブ|訓練士について
https://www.jkc.or.jp/qualification/dog_trainer/about

JSV公認訓練士

公益社団法人日本シェパード犬登録協会が発行する公認訓練士資格です。


▼参考URL:公益社団法人日本シェパード犬登録協会|訓練試験
http://www.jsv.ne.jp/training

警察犬、警備犬、災害救助犬の今後と課題

実は今、深刻な警察犬や災害救助犬不足に悩まされています。

その原因は様々ありますが、災害大国であること、そして日本の超高齢化社会への突入が挙げられます。認知症などを患いながらもまだまだ体は元気なお年寄りの方の増加に伴い、家族が少し目を離した間に徘徊、そのまま行方不明になってしまう方も多くなりました。そして、行方不明になってしまう高齢者の方の捜索のためにも警察犬や災害救助犬の需要が高まっているのです。

しかし、警察犬や災害救助犬を育成するには時間も費用もかかります。そして、これらの犬の訓練士自体の不足も相まって、全体的な警察犬や災害救助犬の供給不足となっているのです。

この流れを受けて、現在各犬の訓練士の需要は高くなっているので、今訓練士を目指したい人はチャンスと言えます。また、警察犬や災害救助犬と一緒に活動を行うための警察官や消防職員への門戸も、より多くの若い人材のために開かれています。

まとめ

以上、「犬のおまわりさん? 事件・事故・災害現場で活躍する警察犬・災害救助犬」でした。

警察犬、警備犬、災害救助犬共に今後も多くの活躍の場が求められていることが分かりました。それに伴い、警察や消防組織と活躍する犬たちも不足しています。今後も手を取り合って私たち人間の助けとなってくれる犬たちの活躍に期待したいと思います。

(文:千谷 麻理子)

本記事は、2018年9月14日時点調査または公開された情報です。
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