【捜査経験が無い方が有利?】「警察官」の出世事情について

社会の治安と安全を守る「警察」は、常に犯罪のリスクと向き合わなければなりません。人・金・情報を握るセクションに権力が集まり、権力を握った人間が出世していくのは世の常ですが、「警察官」はどのように出世していくのでしょうか?

このページでは、警察官の出世コースについて、解説していきたいと思います。


はじめに

この話は、私が某大手企業の総務・渉外を担当していた頃、F県警の方から聞いたエピソードも加味しています。

警察の出世競争といえば、「踊る大捜査線」の柳葉敏郎(室井警視監役)、真矢みき(沖田警視正役)、筧利夫(新城警視監)などを思い出す方も多いでしょう(古いですか?)。

今回のお話は、こうした一握りのエリート官僚(警察職員500人に1人)が主役ではありません。

警察職員26万人の大部分を占める、ノンキャリアと呼ばれる警察官も、激しい出世競争を繰り広げているのです。むしろ、出世のキャリアパスがごくごく限られているので、競争はより熾烈かもしれません。

階級がすべての警察社会

年収が出世の動機ではない

昔の刑事ドラマでは、安月給の刑事さんがすり減らした靴を履き続ける、なんてシーンも登場しますが、これは明らかに事実と違います。

社会秩序を守るべき警察官に対しては一般の地方公務員より高い俸給が保証され、退官後も警務課が再就職先を斡旋してくれます。つまり経済的な理由が出世欲というわけではなさそうです。

では、警察官はなぜ出世にこだわるのでしょうか。

徹頭徹尾の縦社会

出世がモノをいうのは、民間企業でも変わりません。それでも部長・課長といった役職は、与えられた役割に過ぎません。

最近は指揮・命令といったマネジメント的な役割よりも、部下の能力を伸ばし、やる気を引き出すといったリーダーシップ的なセンスが求められます。管理職にも、多様な能力が求められる時代です。

警察社会は、そうした社会のトレンドとは異質です。「社会の治安と安全を守る」警察は、常に犯罪のリスクと向き合わなければなりません。

予測不能の危険とも隣り合わせで、判断の遅れ・ミスが重大な結果を招きかねません。自ずと組織は上意下達にならざるを得ず、下位者は上位者への絶対服従が求められます。


逆に言えば、偉くなりさえすれば、裁量や権限といったポジションパワーがグッと拡がります。

階級章を肌身離さず身に付ける

シンボル的な存在が「階級章」です。警察の階級は巡査から始まり、巡査部長、警部補、警部、警視、警視正、警視長、警視監、そして警視総監までの8階級です。

階級章はどれも、短冊状のプレートに日章と桜葉をかたどっています。そして階級によってプレートの地色、桜葉の色、プレート左右のバーの数が微妙に異なっているのです。階級が上がるにつれ、派手で金ぴかになっていきます。

階級章を四六時中身に付けている警察官は、より一層、階級と階級が生み出す序列や権限を意識せざるを得ません。特に、官舎暮らしともなると、職場の上下関係が家族にまで持ち込まれます

関連記事:警察官の階級の説明と階級ごとの役割・仕事内容に…

警察官出世スゴロクの上がりは?

交番巡査より警察官人生がスタート

警察官は、高校や大学を卒業後、まず初任課と呼ばれる各都道府県警察学校での厳しい研修生活(高卒で10か月・大卒で6か月)を経て、卒業後は警察署の地域課と呼ばれる交番に配置されます(これが俗にいう「卒配」です)。警察人生がここからスタートです。

この先、どのくらいのスピードで出世していくのでしょう?長野県警の採用ホームページでは、キャリアアップのモデルがいくつか紹介されています。大卒の1ケースを取り上げると、こんな感じです。

22歳:採用・警察学校卒業後にA警察署地域課の警ら隊員に配属
26歳:B警察署の刑事課に栄転
28歳:県警本部の刑事部機動捜査隊に選ばれる、同時に巡査部長昇格
30歳:C警察署刑事課の主任を拝命
32歳:警部補に昇格
39歳:D警察署刑事課係長を拝命

概ね30代のうちに、7割前後の警察官が警部補までは昇格できると言われています。ちなみに警察職員全体に占める警部補以上の割合は約4割ですから、「7割昇格」との話もあながちウソではなさそうです。

採用ホームページでは、この他3つのキャリアパスを取りあげていますが、いずれも30代警部補までで終わっており、その先のキャリアは紹介されていません。つまり「その先は狭き門だよ」と、暗にメッセージを発しているのです。

警部以上は狭き門

その先には、いくつぐらいで昇格できるのでしょう?地方新聞には署長さんの略歴が掲載されていますが、警部昇格は34歳から40歳、警視が45歳から50歳、警視正ともなると50代半ばといった感じです。もちろん署長は出世コースなので、昇格年齢も普通の警察官よりは早いですが。

次のステップである警部には、早ければ30代後半で昇格します。警察職員全体に占める警部以上の定員割合は約1割です。昇格できるのは4人に1人と推定されます。警部になれば、警察署の課長、県警本部なら係長クラスを拝命します。

警視以上ともなると、職員全体に占める割合は僅か3%、昇格できるのは10人に1人です。警視は県警本部の課長クラス、さらに規模の小さい警察署の署長クラスにも手が届きます。

その上の警視正クラスとなると0.5%ですから、昇格できるのは30人に1人といったところです。ここまでくると、県警本部の部長クラスまで手が届きます。

都道府県にもよりますが、警備・警務といった組織の要となる部長ポストはキャリア、生活安全・刑事・交通といった部長ポストはノンキャリアと色分けしているケースが多いようです。


その他、警視庁や大阪・愛知といった都市圏を除き、署長ポストもノンキャリアの指定席です。

ちなみに、「踊る大捜査線」で滑稽な組織人として描かれている神田署長は警視正、秋山副署長は警視ですから、まさに選ばれしエリートなのです。

警察官の出世コースとは

県警本部経験は必須

では、どうすれば警視正まで上り詰めることができるのでしょうか。地域課のおまわりさんは皆刑事拝命を夢見ると言われてきました。

第一線で難事件に挑み、本部長賞を何度も撮る敏腕刑事さん、確かにかっこいいです。それとも、憧れの白バイ警官でしょうか?

もちろん、現場で活躍して出世するというコースを選ぶ警察官も大勢います。同時に所轄だけでの経験では、がんばっても警部どまりです。刑事・警備・交通などさまざまなキャリアを選ぶにしても、警視以上をめざすなら県警本部経験は必須です。

組織を統括する警務部

そんな中でも、公安(警備部)と双璧で出世が早いのが、一般市民にはほとんど存在を知られていない警務部です。警察幹部の略歴は一般的には公表されていませんが、地方新聞に掲載されている「新署長インタビュー」では、経歴の中に警務部経験がちょくちょく登場します。

警務部は、一体何をするところでしょうか?警察官といっても、拳銃や警棒を携帯する事も、犯罪者と対峙することもありません。対峙するのは、本来仲間である警察官です。

警察の採用ホームページを見ると、「警察の仕事」の一つとして警務部が紹介されています。ミッションは組織の運営や統括といった黒子役であり、業務としては人事・企画・広報・装備施設管理・秘書等を所管します。

こうした内部管理組織に所属していた方が、第一線の警察官よりはるかに出世が早いのです。サラリーマン社会にも同じことは言えますが、組織としての統率が何よりも優先される警察では、その傾向がより一層顕著です。

県警部長職や大規模の警察署長は、警務部出身者が幅を利かしています。ノンキャリアの指定席である刑事部長といったポストですら、刑事経験が殆どない警務部出身のエリートが拝命することも珍しくありません。

警務部経験者はなぜ出世するのか

警察官の人生を握る警務課

某県警のホームページに、警務部警務課の女性巡査が紹介されていました。「私たちの役割は警察官が職務に専心できるように、支援することにあります。最近ではワークライフバランスや女性活躍支援に力を入れてます」

このコメントがウソだとは言いませんが、警察官の異動希望先でトップを争う警務課の魅力(魔力?)は別のところにあります。

警務課職員は、警察官の昇格・異動・ポスト任用の原案を企画・提案します。例えば大阪府警なら、2万人以上いる警察官の生殺与奪を、わずか数名の警務課員が握っているだけに責任は重大です。警視正への昇格事案も、警視クラスの警務課調査官が調整するのです。

異動・昇格の調整作業は、煩雑を極めます。例えば警部に昇格させる場合は、すぐにではないにしても、過去の経歴・適性・上司の意見を見極めた上でポストを用意しなければなりません。本人には能力があっても、警部補なのに所轄の主任で燻っているなんて音になりかねないのです。

しかも対象者は1人ではありません、2万人いるのです。本部各部長、署長といった幹部の意向を踏まえるのはもちろん、本部の課長クラスや総括といった懐刀とも情報交換しながらパズルを組み立てていくのです。時には、貸し借りといった関係も生じます

こうしたやり取りを通じ、やがて組織内に太いパイプが出来ていきます。このパイプこそが、仕事の上でも出世の上でも強い武器となっていくのです。

ちなみに警務課長は、警視長を除けばノンキャリアが一般的です。警務課長に一番求められているスキルは、「事情通」であることです。全国の転勤を繰り返すキャリアは適任ではありません。

ちなみに警務部長自身はキャリアですが、警務・秘書・会計といった課長クラスは一時的な腰掛が就く場合(陰で「ぼくちゃん」と呼ばれたりします)を除き全員がノンキャリアです。

人・金・情報が権力を生む

秘書課は、本部長の秘書業務の他、公安委員会事務局として、知事部局との調整や議会対策を所管するので、おのずとコンフィデンシャルでセンシティブな情報に触れる機会も多くなります。


会計課は、何千億円にもおよぶ年間予算の策定と執行管理を所管します。

監査官室は「警察官の警察官」と呼ばれ、警官の不祥事や過剰操作等に対する懲戒処分を掌ります。逃走犯を追跡中のパトカーが死亡事故を起こしたとき、警察の広報が「パトカーに問題はなかった」とコメントを出したりしますが、実はひっそりと交通機動隊から内勤に異動していたなんてことがたまにあると聞きます。これも、監察官が一枚かんでます。

このように、人・金・情報を握るセクションに権力が集まり、権力を握った人間が出世していくのは世の常です。然し世の中、出世だけがすべてではありません。警察の中でやりたい仕事があるのなら、それを押し殺すのは賢い選択肢といえるでしょうか。

警務部で働きたいとしても、「出世したいから」では話になりません。警務部で何を成し遂げたいのか、警察組織のため・警察官のために何が貢献できるのかをまず考えてみることが大切です。

本記事は、2018年5月2日時点調査または公開された情報です。
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