外交のスペシャリスト「外務省専門職員」の仕事内容

外務省職員の中には「外務省専門職員」といって、他の職員よりも担当国の言語や、担当地域の政治、経済、文化、そのほか世界の経済協力や軍縮などのそれぞれの専門分野に精通するスペシャリストが存在します。この外交の専門家の中の専門家とも言える外務省専門職員が、具体的にどのような仕事を担当するのか解説します。


はじめに

外務省は、日本と世界中の国々との良き関係を築き、経済や支援活動などにおいて様々な折衝や交流を行っていくスペシャリスト公務員です。

この外務省の職員は日本を世界に売り込むセールスマンとも言え、世界情勢や様々な言語などに精通した高い専門性を持つ人々が大きな役割を担っています。

その外務省には、東京の霞ヶ関にある外務省の本省に勤務する職員が約2,600名、その他の世界150か国にある223カ所の大使館、総領事館などの在外公館で働く職員が約3,400名、合計で6,000名の職員が勤務しています。

その約6,000名の職員のうち、「外務省専門職員」と呼ばれる職員が本省と在外公館あわせて約1,700名います。

外務省専門職員の仕事内容を簡単にまとめると、海外勤務の場合は日本の外交官の一員として相手国の政府との交渉や、現地国の政治や経済の情報収集と分析などに携わっています。外務省本省に勤務する場合は、専門職員として身につけた専門的知見を活かした外交政策の企画や立案業務に携わっています。

外務省の中でも、専門性を考慮した配属が行われる場合が多いため、語学力を活かして特定の地域に関わりたい、日本とその国を繋ぐ架け橋として貢献したいと強く希望する人には、総合職よりも専門職員の方が向いているとも言われています。

次の章ではより具体的な外務省専門職員の仕事内容について解説します。

「外務省専門職員」の仕事内容

外務省専門職員の業務を大きく分けると、国内の外務本省での仕事と、海外の在外公館での仕事に分けられます。

外務省専門職員は、国内外を問わず、高い語学力と業務に関連する国や地域の政治や経済の情勢や、基本的な文化やコミュニケーションなどについてのスペシャリスト、あるいは、世界に通じる条約、経済、経済協力や軍縮、広報文化など幅広い専門分野それぞれのスペシャリストとして活躍されることが期待されます。

それぞれの職員の語学力や専門知識など得意分野に応じて、日本国内の本省や、大使館や総領事館などの在外公館に配属されることになりますが、働くフィールドは異なっていても、高い専門性が求められているという点では共通していると言えるでしょう。

「外務省本省」で勤務する場合の仕事内容

外務省本省で勤務する場合の「外務省専門職員」の仕事内容について解説します。


外務省の本省は東京都の霞ヶ関にあり、省内には総合外交政策局や機能局、地域局など様々な特徴を持った局が設置されています。担当する分野や地域ごとに部局が分かれています。

本省での主な仕事としては、通訳業務やマルチ外交業務と呼ばれるものが挙げられます。

通訳業務について

外務省専門職員の通訳担当官には、その名の通り語学の面で非常に高い能力を認められた場合に登用されることが多く、経験を積んで更に能力を高めていけば、霞が関での海外要人との会議などにも呼ばれることがあります。

通訳担当官に任命されるには、まず他の専門職員と同じように在外公館で数年は勤務しなければなりません。その仕事ぶりや語学をどの程度マスターしているかなどをチェックされ、秀でた能力があると認められれば本省でのトップ会談や重要な会議、記者会見などの場で通訳の仕事を行うことになります。

語学の能力が非常に重要になるだけではなく、その国の情勢や文化、独特の言い回しなど様々な分野において精通していなければ通訳を務めることは難しいので、高い知識とモチベーションを常に備えておく必要があります。

マルチ外交業務について

マルチ外交業務は、主に経済局もしくは国際協力局という機関に配属される際に担当する業務です。基本的に外務省専門職員は、担当する1つの国や地域のみに関わるのですが、経済局や国際協力局では国の垣根を超えた幅広い視野で様々な企画立案が行われています。

例えば発展途上国に対するODAのように、国ではなくプロジェクトごとに仕事を行っていくことが多いようです。もちろん外交活動を行うこともありますが、どちらかと言えば通訳担当官のように表舞台に立つというよりは、裏方としてプロジェクトを支える役割が大きいと言えます。

「在外公館(大使館・総領事館等)」で勤務する場合の仕事内容

二国間外交について

外務省と言えばやはり、現地の大使館などで二国間外交の実務に当たるというイメージが一般的には強いと思います。この在外公館での勤務の場合は、まず1年間の国内研修を終えた後に、2年から3年サイクルで海外の諸外国や地域に留学するという形で行われます。

現地のスタッフや関係者とコミュニケーションを取ってその国の様々な情報分析を行ったり、日本を知ってもらうために広報・文化交流活動なども盛んに行っています。それだけでなく、海外にいる間は通訳担当官になれるレベルにまでその国の言語をマスターすることも求められます。

語学を身につけることも業務のうち

直接的な外務省の業務とは別に、その国の語学学校に通ったり家庭教師を見つけるなどして、できるだけ早く言語を完璧に使いこなせるようにすることも立派な仕事になっています。

実際に大使館などで仕事を行うまでにこのプロセスを終わらせておくケースがほとんどで、いざ大使館などに配属されれば即戦力としてODAの企画や国際会議のセッティング、情報収集などを的確に行って日本へ報告することになります。

国際会議への出席業務について

国際会議に出席するのも外務省専門職員の業務のひとつです。

国際会議の場合は日本から担当者が来るのではなく、会議開催地に勤務する外務省専門職員が出席することもあるので、公の場で適切に発言したり会議の内容を分析する能力も求められます。

邦人の保護業務について

外務省専門職員の在外公館での仕事には、担当国に滞在している邦人の保護が含まれます。

海外で邦人が関わる事故や事件が起きた場合は、邦人保護やトラブル相手との交渉など現地における警察のような役割も果たすので、非常事態にも備えた実に幅広い知識と能力が必要になります。


このように現地に配属された場合は事務だけでなく、幅広い内容の仕事を行うので、十分に勉強と研修を重ねておくことが大切です。

採用後の研修プログラム

外務省専門職員として採用されると、まずは入省前に40数ヶ国語の中から、担当する「研修言語」が割り振られます。研修言語については本人の希望や適性を考慮して決定されるようです。入省前にある程度、研修言語の語学学習を進めておくことが求められます。

入省した年の4月には「前期研修」として外務省研修所での研修が実施されます。ここでは、外務省員としての基本的な実務と教養の研修のほか、研修言語の学習が行われます。

5月から翌年の3月までは、「実務研修」と「中期研修」が続きます。研修生として本省内の各課に配属され、実務を担当しながら外務省員としての仕事を覚えていきます。それと同時に週に2回、半日を使って研修語の語学研修を受けます。

入省2年目の4月からは「集中研修」として、3ヶ月間外務省研修所で「後期研修」を受けます。ここでは外務講義や研修語の学習に集中的に取り組むことが予定されています。

こうして後期研修まで終えると、入省2年目の夏からいよいよ海外研修がスタートします。「在外研修」といって、現地の大学や語学学校などで、更に研修語のスキルアップをはかるとともに、その国の歴史や政治、経済、社会、文化などの諸事情を学ぶことが狙いです。在外研修は、アラビア語が研修語の場合は3年、それ以外の言語は2年かけて行われます。

これらの研修では、採用されたばかりの研修生が、この先外務省専門職員として勤務していく基盤を培っていけるように実施されます。このような充実した研修プログラムは、外務省専門職員としての高い専門性が身についていく出発点と言えるでしょう。

外務省専門職員と外務省総合職・一般職の違いは?

ひと口に外務省職員と言っても、職員の種別は国家総合職と国家一般職、そして外務省専門職員に分かれています。

「総合職」というのはいわゆるキャリア外交官のことで、将来的に大使や外務省幹部となる候補生たちのことを指します。まずは様々な国や地域に配属されて語学研修や実務経験を積み、情報分析能力などを磨いて総合的な能力の向上を目指します。出世していくと最終的には重要国の大使や外務省の事務次官など重要なポストを担う可能性があります。

「一般職」はノンキャリアとも呼ばれ、本省や出先機関などで定型的な事務にあたることが多いようです。一般的に、総合職に比べると出世のスピードが緩やかですが、課長クラスまで出世できると言われています。

一方の「外務省専門職員」は、培った高い語学能力を活かして担当する国や地域の経済や社会、文化などに精通した現地のスペシャリストとして活躍しています。その国に関する幅広い分野で高い知識や交渉能力、人脈などを保持することが期待され、外務省や現地の在外公館で直接的な外交領事業務などを担当します。

外務省専門職は直接現地の人々と交流や交渉を行っていく必要があるため、担当国の語学力やコミュニケーション能力においてはキャリア外交官以上の実力が求められることになります。

総合職と一般職、専門職員では、どの枠目指すかによって入省試験も異なります。総合職や一般職の場合は、人事院が行う国家公務員総合職試験、または一般職試験を受けなければなりませんが、専門職の場合は外務省が独自に作成した試験を受けます。

どの試験を受験しても入省すれば国家公務員であることに違いはありませんが、現地に思い入れが強かったり、直接その国の人と仕事をしていきたいと希望していたりする場合は、専門職の方が向いていると言えます。

外務省専門職員のキャリアパス

外務省専門職員の業務としては地域調整官や外交官補など様々なものが存在し、更にどの国を担当するかは多岐に渡ります。そのうちのどこに配属されるかは必ずしも希望通りにいかないことも多いです。世界中の在外公館がある国や地域の他、日本国内の外務省や関連機関への出向などもあります。

いずれの場合も最初は数年の在外研修などを行い、その後に正式な職員として働き始めることになります。外務省専門職員は転勤や人事異動が多いことでも知られており、一定間隔で在外勤務と日本勤務を繰り返します。在外勤務を豊富に経験することで、知見や洞察力が身についていきます。

勤務地について

外務省専門職員は一定間隔で在外勤務と、国内の外務本省や出先機関での勤務を繰り返します。おおむね5~6年ごとに国内と海外を行き来し、更に2~3年ごとに異動があります。1度の在外勤務中にも異動がある、というイメージです。様々な勤務地を経験することで、多様な視点から自身の専門性を育てたり、それまで関わりのなかった新しい専門分野の発見ができたりというメリットがあります。

勤務地は転属について職員側からも希望を出すことはできますが、基本的には本省の人事担当者によって、職員の能力や適性、勤務成績などを元に総合的に判断されるため、職員本人が望んでいない地域に配属される可能性もあります。

その場合でも、前向きに業務に取り組めるような姿勢で何でも吸収できるような人が向いていると言えますし、どの国を担当するにしても外交官としてのスキルは着実に身につけられるでしょう。希望する配属先の勉強なども欠かさずに続けていれば、数年に一度やってくる異動のタイミングでチャンスが拓けるかもしれません。


まとめ

このページでは、外務省専門職員の仕事内容についてまとめました。外交官の一員である「外務省専門職員」について、一般的には華やかなイメージを抱く人が多いと思いますが、実際の仕事内容は、地道な勉強の連続と、現地での人脈づくりやコミニュケーションの構築など、根気の要る作業の上に成り立っています。

それでも、豊富な在外勤務で得た外交に必要な専門的な知識や、担当国についての知見、幅広い人脈は、外務省専門職員一人一人の大きな財産として蓄積され、一般の人はもちろん他の外務省職員にも味わえないような専門職員ならではの経験ができると言えます。

外務省専門職員には、国内外の情勢の変化に的確に対応できるよう、今後ますます多様な分野での高いレベルの専門的知見を身につけることが求められています。

特定の言語や地域に情熱を注いでいることはもちろん、日本のために様々な課題を解決しようと努力できる人、未知の言語や文化、専門分野に対して飽くなき探究心を持てる人、時に厳しい生活環境の中でも職務を全うできるたくましさがある人が、外務省専門職員には向いていると言えるでしょう。

本記事は、2018年5月1日時点調査または公開された情報です。
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