【役所の仕事】税金滞納整理担当の仕事内容と大変なこと

市町村職員の仕事シリーズ、税金滞納者への対応を担当する「税金滞納整理担当」の仕事内容や大変なことについて解説します。税金滞納者への督促や財産調査や徴収の任まで行う「徴税吏員」(ちょうぜいりいん)についてご説明します。


まず一言に「公務員」といってもその職種、所属、業務内容、勤務形態、勤務地も様々です。例えていうなら「公務員」という言葉は「ラーメン」というのと同じです。

どういうことかといいますと、いろいろな職業が世の中にはあり、その中の一つに「公務員」という職業があります。同じように世の中にはいろいろな食べ物があり、その中の一つに「ラーメン」という食べ物があります。

「ラーメン」と一言にいっても、とんこつラーメンや味噌ラーメン、冷やしラーメンや汁無しラーメンなど作り方も味も具材もスープの温度も量も様々で言い出したらきりがないくらいの「ラーメン」が世の中には存在していますよね。「ラーメン食べたいなー。」と一言に言っても食べたいものの詳細まではっきりわからないといっても過言じゃないですよね。

それと同じことが「公務員」にも言えて、「将来の目標は公務員です」という人がいますがそれではいったい何になりたいのかわかりませんよね。それくらい「公務員」には多種多様な職務があります。その中で、普通に生活していればあまりお目にかかることのない業務の税金滞納整理を担当する市町村職員の現実について解説いたします。

そもそも、市町村職員が扱う主な「税金」って何?

日本の税金は大きく分けて国税と地方税に分かれます。さらに地方税は都道府県が取り扱う税金と、市町村が取り扱う税金に分かれます。その市町村が取り扱う税金で現在課税が行われている主な税金は次のとおりです。

市町村民税

いわゆる住民税と呼ばれる税金で、前年の所得に応じて課される税金で、個人と法人に課せられます。

固定資産税

個人や法人が所有する土地や家屋等の不動産と事業用の設備等償却資産に課せられます。不動産の場合はその不動産の評価価格に応じて課せられます。

軽自動車税

軽自動車や原付バイク、フォークリフトやミニカー等を所有している場合に課せられます。

国民健康保険税

主に社会保険に加入していない人が利用する国民健康保険に加入している人がいる世帯の世帯主に課せられます。自治体によっては国民健康保険料と呼ばれる場合もありますが、基本的な本質は変わりません。しかし決定的に違うのは、滞納した場合時効までの期間が国民健康保険料の方が短いです。よって、国民健康保険税の方が徴収する役所側には有利といえます。

その他

鉱産税、特別土地保有税、事業所税、都市計画税、水利地益税、共同施設税、宅地開発税、地方たばこ税、入湯税等があります。その他その市町村独自で条例等で定めた税金があります。

「滞納整理担当職員」の仕事内容

そもそも「税金を滞納している」というのはどんな状態であるかご存知でしょうか。


各税金には必ず納期限があります。納期限とは字のとおり税金を納める期限です。これを経過しても納付がなされていない場合「税金を滞納している」という状態になります。これら税金を滞納している人に対し、督促状の発送、納付相談等により滞納者と納付折衝、滞納者の財産調査、財産の差押えの強制執行等を行うことを業務としています。

いかがでしょう、読者の方々が想像する「公務員像」からは少し違った職種のように思えませんでしょうか。

市町村役所の業務の中でダーティーな職種といったイメージを持たれがちな職種でもあります。ちなみに基本的に市町村の一般行政職員であれば人事異動で誰でも担当する可能性のある業務ですので、どの職員も決して他人事ではない話なのです。また、これら税金を徴収する業務に当たる職員のことを「徴税吏員(ちょうぜいりいん)」といいます。

督促状の発送

納期限を過ぎても納付していない滞納者に対し、納期限が過ぎてから発送される書類です。内容としては「収めるべき税金の納期限が過ぎているから早急に納めてくださいね」といった案内の文書です。一見ライトな文書に見えがちですが、法的には大きな意味を持つ文書になります。地方税の徴収は基本的に国税徴収法に沿う形で行われます。その国税徴収法では、役所が督促状を発送してから10日を経過しても納付されない場合は、滞納者の財産を差押さえしなければならない旨記載されています。え?と思う方も多いかと思いますが、督促状が役所から発送されてたったの10日後には財産を差押えられることになります。しかも、差押え「しなければならない」という規定です。実情はここまで厳しい運営はされていませんが、督促状の発送業務は決してライトな業務ではないのです。

納付相談等納付折衝

どうしても即座の納付が困難な滞納者に対し、滞納解消に向けての相談を受け付ける業務です。滞納者の現状や生活状況等を聞き取り、滞納金額や期間に応じて、法令に沿う方法で応じることとなります。相談といいながらも、自らの意に沿わない納付方法を提案された滞納者から理不尽な罵声を浴びることもしばしば起こりえますし、中には暴力を受けるような状況にもなりかねません。なので、この業務は原則として担当職員が2名以上で対応することが常となっています。万一そのような状況になっても、冷静沈着に毅然とした態度で対応します。

滞納者の財産調査

預金、給与、年金、報酬等の収入や不動産、生命保険、車両等の財産で、滞納している税金に充てる価値があるものを調査する行為です。これは次に説明する財産の差押えの準備段階の業務といえます。預金であれば各銀行に口座情報を、給与であれば滞納者の勤務先(役所は住民税を課税する資料として住民の勤務先を把握しています。)に給与支払い状況を、年金であれば日本年金機構等に需給状況を、不動産であれば法務局で登記簿を、生命保険であれば保険会社に契約内容の開示を、車両であれば県税事務所等へ登録状況等を照会し、調査します。

財産の差押え

読者の皆様は「家宅捜索」という言葉を聞いて何を思い浮かべるでしょうか。一般的に「家宅捜索」というと、警察が疑わしい者の住居等に捜索差押え令状を裁判所から発布してもらって行う行為とお考えでないでしょうか。これを徴税吏員も行います。具体的にどんなことかというと、滞納者宅に出向いて宅内外でお金に換えて滞納金に充当できる価値があると判断した物品等を差押えしていきます。これは捜索による差押えという業務です。これ以外にも、先ほど述べたような方法で調査した財産に対して差押えを執行していきます。基本的には数枚の書類を送付することで差押えができます。

徴税吏員(ちょうぜいりいん)が持つ強い権限「自力執行権」

ただでさえ、国税徴収法や地方税法に基づいて財産調査等をできてしまう上に、徴税吏員には非常に強い権限が与えられています。

端的に言うと、かなり簡単に重い業務を遂行できてしまいます。この権限は徴税吏員が自らの責任と裁量により税金を徴収することができるというもので、「自力執行権」と呼ばれる権限です。

例えば財産の差押えに関していいますと、税金以外にも財産の差押えは行われており、主な事案では借金等の私債権による差押えですが、これを執行するためには必ず裁判所の命令がない限り行うことができません。

具体的には、裁判所に訴えてその訴えが裁判所執行官に認めれられた場合にのみできます。お金を貸した側は裁判所の力を借りなければ強制的に債権を回収することはできないのです。しかし、公租公課(主に税)の場合は徴税吏員が自らの「自力執行権」により、裁判所の力を借りなくともいきなり差押えすることができるのです。

例えば滞納者の預金調査をして、銀行に預金があった場合にはすぐさま書類を作成して銀行に提出すれば差押えができますし、突然滞納者宅に押しかけて捜索したところ高価な壁画があった場合その場でいきなり差押えすることもできます。

ちなみに警察が捜索業務を行うには裁判所から捜索差押え令状というものをとらなければ行うことができませんが、徴税吏員の場合はこれを行わずして捜索業務並びに差押え業務が執行できます。

いわば捜索や差押えに際して警察組織よりも強い権限を与えられているといっても過言ではありません。

人間なネガティブな部分に関わるつらい職務

少し難しいというか、頑なな話が先行しましたが、それを踏まえてお読みいただければと思います。まず、この業務を担当していて言えることは、基本的にというか原則として地域住民から恨まれることはあっても感謝されることはまず無いということです。公務員の中で、市町村役所の事務職員は比較的地域住民との距離が近い職務でありますが、意外と住民から感謝される仕事が少ないです。


その中でもこの滞納整理の担当者は特にこれが顕著です。督促状を発送すると、翌日から1週間程度はそれに反応した滞納者からの半ば不当要求に近いような電話や抗議がありますし、財産調査や財産の差押えを執行したものならかなりの高確率で怒りの電話があったり、直接役所に来庁してひたすら文句を言われ続けたりします。

何か徴税吏員がいけないことをしたかのようにも思えてくるほどですが、あくまで職務上必要なことを各法令に基づいて執行した結果ですが、これらのことが原因で担当職員が精神的に病んでしまうなんてこともたびたび起こります。

また、市町村役所の職員ということから、勤め先の市町村に住居しているという職員も多くいます。これは実際にあった事例なのですが、滞納整理担当者の住居のすぐ隣のお宅が相当額の税金を滞納しており、その担当者が日頃付き合いのあるご近所さんの財産を差し押えました。当然その担当者も人間ですから感情がはたらきますが、職務ですのでいたし方ありません。

その後はというと、その担当職員の住居やお庭に悪戯や嫌がらせを何者かがしたということが起きました。この犯人は誰なのか、はっきりとはわからなかったようですが、実際問題こういった職務外への影響も心配な業務です。これは滞納整理担当に限った話ではなく、市町村役所の職員であれば住民との距離が近いがゆえ、正当な職務の執行がプライベートに影響するなんてこともよくあります。

他にも、とある滞納者の給与を差押えすることとなり、実際に執行したところ、その執行から数日後に滞納者が自殺してしまったなどというケースです。給与の差押えは、滞納者の勤める職場とのやりとりの中で執行します。滞納者にとっては職場の上司に叱責されたりと名誉が傷つくわけですから、滞納者の精神的ダメージもあることでしょう。しかし法令に基づいてなんら落ち度なく職務を執行した担当職員の精神的ダメージは計り知れません。

まとめ

基本的にはうれしいことや楽しいことより、つらいことの方が多い業務です。でもそればかりでは本当に精神的に病んでしますので、何かやりがいやおもしろみを見出しながらでないとなかなか大変です。

これらの観点から考えますと、自力執行権という重い権力を与えられての業務であるがゆえ、一般住民として普通に生活していては見ることのできない世界や情報に触れることができます。

例えば税金を滞納している企業の情報を調べている中で、その企業の取引先や従業員への給与、保有している固定資産や経営状況等を知ることになります。もちろんのことながら、これらのことを外部に漏らすことは法令で禁止されていますし、もしそんなことをすれば重い罰が与えられますし、業務外でこれらの情報を使用するなんてことは厳禁です。言うまでもありません。

しかし、徴税吏員自らの裁量によってこれらのことをも知りえることができるという貴重な体験ができているのも確かです。地域住民のために働き、好感を得られているというイメージが先行しがちの市町村役所の職員ですが、実際のところこのようにあまり好感をえられたり、感謝されたりしない業務も多くあるということをお伝えしました。

本記事は、2017年4月22日時点調査または公開された情報です。
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