はじめに – 2021年1月6日上院議員選挙
2021年1月6日、アメリカのジョージア州で上院議員を選出するための決選投票が実施され、民主党議員2名が当選を確実にしました。
大統領選と同時期に開催された上院議員選でしたが、その際には決着がつかず、年明けまで持ち越されていました。今回の決選投票の結果を受け、アメリカの上下両院で民主党が多数派となり、バイデン新政権にとって強力な追い風となります。
不正選挙を理由に抵抗を続けていたトランプ大統領も注視していた今回の選挙ですが、具体的にどのような点が争点とされ、どのような影響が生じるのか解説します。
アメリカジョージア州の、決選投票の概要
はじめにジョージア州の決選投票の概要について見てみましょう。
ジョージア州決選投票のポイントについて
今回の決選投票のポイントは「アメリカ上院議会の勢力図を決定付ける」ことにあります。
今回の決選投票は2議席を巡って争われ、現職の共和党2議員と新人の民主党2議員による戦いです。多くの人は誰が勝利したかよりも、どちらの政党が勝利したかに注目しました。
アメリカ上院議会の議席は100席で、11月に実施された連邦議会選の結果「共和党50席・民主党48席」という状態でした。つまり、ジョージア州の上院議員2名が確定すれば、必然的に上院議会の勢力図が確定する訳です。
今回の決選投票で共和党が1議席でも獲得すれば「共和党優勢の上院議会」になり、反対に民主党が2議席を獲得できれば「民主党優勢の上院議会」が誕生することになります。
仮に民主党が2議席獲得した場合、上院議会の勢力図は「50対50」になりますが、副大統領(民主党のカマラ・ハリス氏)に投票権が与えられるため、実質的には民主党優勢の構図です。
次期大統領としてバイデン氏を有する民主党としては、次期政権で円滑な政権運営を進めるためにもジョージア州の決選投票で2議席を獲得することが絶対不可欠でした。
一方、ジョージア州はもともと共和党寄りの州としても知られており、民主党が2議席を獲得することは困難とされていました。トランプ大統領をはじめ共和党としては、決選投票で1議席だけでも確保できれば、民主党の政権運営に対抗可能なため、是が非でも負けられない状態でした。
両党にとって、このような予断を許さない状態の中で実施された決選投票だったことから、国内外が注目していました。
ジョージア州決選投票の背景について
今回の決選投票は、2020年11月3日に全米で実施された連邦議会選において決着がつかなかったことが背景です。
先のジョージア州上院議員選では、どの候補も当選確定の規定である「総得票数の50%以上」を獲得できなかったため、決選投票に持ち越されていました。同州では州法により、規定に達しない場合は決選投票による決着を定めていることから、今回の決選投票が行われた訳です。
同州は手続き通りに選挙を実施しただけですが、大統領選でトランプ大統領が敗北を認めないことや、同氏が2024年の大統領選を見据えて影響力を維持するために精力的に動いていたことから非常に注目される結果になりました。
ジョージア州決選投票の影響について
次に、今回の決選投票の結果がどのような影響を与えるか解説します。
バイデン政権に追い風
最も大きな影響と言えるのが「バイデン政権による円滑な政権運営の実現」です。
民主党はすでに下院議会で多数を占めており、2015年以来初となる上院議会でも多数派になることを狙っていました。また、バイデン氏は選挙公約として富裕層への増税、公的資金投入による公共事業、そして国際協調路線への回帰など、トランプ政権とは真逆の政策を掲げており、共和党(上院議会)による反対や抵抗が政権最大の懸念点とされてきました。
しかし、今回の決選投票の結果を受けて、上下両院で民主党優勢の構図になることから、実現が難しいとされてきた選挙公約も成立しやすくなります。
とくに、上院議会は予算案や法案の採決、条約の批准、そして閣僚などの人事承認権を持っているため、政権運営に非常に大きな影響を与えます。そんな上院議会を民主党が抑えたことは強力な追い風を得たと言えるでしょう。
2024年の大統領選に向けて盤石の態勢
今回の決選投票によって民主党優勢の議会が確実になります。このことはバイデン氏や民主党にとって実績を残しやすくなることを意味するため、2024年の大統領選でも民主党が優位になる可能性があります。
あらゆることに政府が介入する意味の「大きな政府」をうたう民主党にとって、上下両院が身内で固められたことはこれ以上ない最高の環境と言えるでしょう。バイデン氏、ハリス氏からすれば「目の上のたんこぶ」がなくなった状態です。
バイデン・ハリス両氏が、2022年に実施される予定の中間選挙までに選挙公約を実現できるかどうかも見ものでしょう。
トランプ大統領を追い詰める
今回の決選投票の結果は、大統領選で不正選挙があったことを訴えているトランプ陣営を追い詰めた意味もあります。
大統領選以降、これまで抵抗を続けてきたトランプ陣営ですが、ジョージア州の決選投票を受けて「共和党の影響力衰退」が現実化しました。上下両院で共和党の影響力が及ばない状況になったため、トランプ大統領としては「打つ手なし」となったのです。
トランプ大統領としては、2024年の大統領選再出馬を見越して共和党内に影響力を保持しておきたかったところですが、共和党そのものが衰退したため影響力の保持は困難と見られます。
決選投票に合わせてジョージア州に赴いたトランプ大統領でしたが、訴えもむなしく敗北する結果になりました。
民主党内の派閥争い
決選投票の結果は必ずしも民主党に有益になるとは限りません。民主党の弱点とされている「党内派閥の争い」が激化する影響もあります。
どの時代も民主党は共和党と比較して「一枚岩」になりきれないジレンマを抱えています。例えば、民主党内には革新的でリベラルな政策を推進する「左派」もあれば、穏健派の「中道派」、そして保守的な「右派」に分かれるとされています。
バイデン氏は中道派、ハリス氏は元左派で今は中道派とされていますが、民主党内には公立大学無償化や国民皆保険といった大胆な政策(お金がかかる)を訴えるバーニー・サンダース氏のような人たちも大勢います。(急進左派と呼ばれる)
バイデン氏は急進左派からの支援を受けて大統領候補になっていることから、党内派閥を無視した政策を進めることはできません。せっかく上下両院で民主党優勢になったにもかかわらず、党内派閥によって政権運営が進まないことだけは避けなければいけないでしょう。
バイデン・ハリス両氏にとって「党内派閥の取りまとめ」は苦労する可能性があります。
経済の影響
民主党優勢が確実視されたと同時にアメリカの株式市場(ダウ工業株30種平均)は過去最高値(30,829.69ドル)を記録し、経済への好影響が生じています。
バイデン氏は次期政権で追加経済対策やインフラ投資の拡大に取り組むことを強調していることから、政策の恩恵を受けやすい建機や化学などの株価が軒並み上昇しました。
また、バイデン政権では国債の発行が増加すると予想されたことを受け、2020年3月以来初となる長期金利が1.05%に上昇しています。
一方、増税の影響を受ける可能性が高いGAFAを中心とするIT企業は2%近く下落しました。バイデン政権の公約をまともに反映した市場の動きになっています。新政権の政策が市場に与える影響は大きいと見られ、ITや金融などの株価は荒れる可能性が指摘されています。
まとめ
以上、「知っておきたいジョージア州上院議員決選投票の影響」でした。
今回の決選投票によってアメリカ議会の勢力図が明確になりました。次期政権の民主党にとって理想的な状態と言え、新政権は胸をなでおろしているでしょう。一方で、党内派閥や熱狂的なトランプ支持者らをどのように取りまとめるかにも注目です。
現在のままで進むと、アメリカは当面の間「民主党の国」として歩むことになり、新政権が混乱後のアメリカをどのように修正していくのが焦点になります。
関連リンク
今回話題となった「ジョージア州」については、以下の記事をご参考ください。
》【アメリカ州制度】南北戦争の舞台となった州「ジョージア州」解説
日米安全保障条約をはじめ、日本と政治的にも、経済的にも密接な関係にあるアメリカ合衆国についての現地日本人レポートです。今回のテーマは「ジョージア州」です。ジョージア州は、南北戦争の舞台となった州ですが、特徴や歴史を通してどんなところなのか解説していきます。
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