教育実習とは
教員免許を取得するためには避けられない道
教育実習についてはもうみなさんご存知かもしれませんが、はじめに少し復習しておきましょう。
各校種の教員免許を取得するために決められた科目を学ぶ必要がありますが、その中に教育実習が含まれており、2~4週間、一般の教員に混じって生徒と一緒に生活することになります。ただ一緒にいればいいのではなく、授業や学級指導を任されたり、休み時間を生徒と過ごしたり、時には実習先の行事に参加する場合もあります。
当然ながらそのひとつひとつが評価の対象であり、ほかの先生方も実習生の様子をしっかり観察しています。プレッシャーもあり、気が抜けない日々を数週間過ごすことになるので、ある意味では教員になってからよりも大変な期間かもしれません。
私が教育実習に行ったとき
自分の母校である公立の高等学校に、2週間の予定で実習に行きました。地方出身の友人などは学校から紹介を受け、自宅から通いやすい範囲で実習校が決められていたように思います。私が在籍していた高校はいわゆる進学校で、生徒のほとんどが進学するような学校です。私は1年生のクラスを担当することになりました。指導教諭はベテランの英語教諭で、その先生の担任クラスです。
はじめの数日は英語科の授業を中心に参観させてもらいました。英語科には4名の先生がおり、それぞれの授業に特徴があって興味深かったです。3日目くらいから授業を実際に行います。当たり前のことですが、間違ったことを教えるわけにはいきません。それは英語の知識だけではなく、教科書にある英文の題材にまつわること(歴史や風土、民族のことなど)にもある程度の知識を持って授業に臨む必要があります。したがって授業の前の準備にまず気を遣います。授業や板書の計画を練り、調べ物をしていると時間はあっという間に過ぎていきました。
初めて教壇に立った時のことは今でも忘れられません。事前準備をしてきたにも関わらず頭は真っ白。なにせ40人分の目がこちらをじっと見つめているのです。どうにか授業を終えることができましたが、その後も授業の準備は自転車操業状態で、結局2週間では自分らしさを出すことができなかったように思います。
また当時から生徒の中に混ざるのが苦手で、教員になりたくて実習に行っているくせになかなか近づけずにいました。高校生くらいになると察しもいいですから、こちらの緊張感が伝わってうまく距離を縮めることができなかったのでしょう。少しでも距離を縮めたくて休日に行われていた合唱祭の練習にまで参加し、実習の最後には生徒から手紙やプレゼントももらいある程度は慕ってくれたようですが、自分としては不完全な印象で終わりました。
教育実習生を受け入れる
経緯と心構え
そんな私が教員になって3年目、ちょうど中学1年生の担任を初めて任されたところでした。ありがたいことに初めて受け持ったクラスは、私のことを考慮して安定感のある落ち着いた生徒を多く配置してくれました。担任の仕事に少し慣れてきたかなという頃、英語科に教育実習生が来るという知らせが入りました。教科会議で話し合った結果、1年生が適当だろうということに決まり、私が指導教諭としてつくことになりました。
おそらく学年全体の雰囲気や、授業のやりやすさなどを考慮してのことだったと思います。正直言って3年目の自分が指導教諭をするなんて思ってもいませんでしたので焦りましたし、本当にできるのか不安でいっぱいでした。しかしせっかく教員になりたくて来てくれるのだから、しっかり生徒と触れ合えるような環境を作ってあげようと思いました。
受け入れから授業をお願いするまで
忙しい日々を過ごしているうちに、あっという間に実習生を受け入れる期間に突入しました。はじめはとても緊張されているようでしたが、授業計画や板書予定などを見せてもらうと丁寧な文字が並んでおり、まじめな人柄がうかがえるようでした。その実習生(A先生とします)は地元の出身で、なじみのある土地で実習がしたかったと話していました。
2週間の予定でしたので、初日は授業の見学に充ててもらいました。私の授業やほかの英語科の授業はもちろん、他教科でも生徒に好評な授業を見て、A先生がやりたい授業に近づけてもらうのです。英語科の授業ではよく簡単な英語の歌を教材として、表現や言い回しの学習に使うことがあります。私もほぼ毎時間生徒に英語の歌を聴かせ、発音の指導を交えながら一緒に歌っていました。しかしこれは教員になってから始めたことで、自分が実習生だった時には思いもしなかったことでした。
A先生には私のクラスに入ってもらい、担任の業務もお願いすることになっていました。そのため帰りの学級活動や清掃活動にも初日から参加してもらいました。生徒には事前にA先生が来る旨を伝えてありましたし、若い男性の先生でしたので特に男子生徒が喜んでいました。私も当時20代でしたので十分若かったのですが、やはり兄弟のような感覚で付き合えるのがうれしいようでした。
初日を終えて反省会というか、意見を交換し合う場を設けました。これは実習期間が終わるまで毎日続きました。見学した授業の内容や反省点、改善点などを話すのですが、私自身もまだまだ勉強中の身でしたのでお互いに気づいた点をざっくばらんに話し合っているような感じでした。そこでA先生は「自分も歌を取り入れたい」という提案をしてきました。A先生はもともと歌が好きな上、私の授業で影響を受けたのかもしれません。もしかするとそのような授業は邪道と言われてしまうかもしれませんが、やりたいことはやったほうがいいと思い、了承しました。もちろんどのような観点で選曲しているか(英語なら何でもいいというわけではないので)を伝え、それに沿うようなものでという条件をつけました。
次の日A先生の指導案を見たら歌の時間がきちんととられていて、マザーグースから引用した韻がおもしろい歌も用意していました。思ったことをすぐに実行する力があり、高い能力を感じました。私は当時6クラス×3時間の授業を担当していましたので、3日目くらいから実際に教壇に立ってもらうことを伝え、授業に備えてもらうようにしました。授業見学や学級活動への参加は並行して行っていましたので、学校で準備する時間はあまりなかったのかもしれません。授業の内容はどのクラスも同じですが、雰囲気はまったく違います。反応のありなし、落ち着き、授業を受ける心構えなどの個性がクラスごとにありますので、全クラスの授業を一通りお願いしたように記憶しています。実際に授業をしてみると「このクラスは○○」といったような特徴がつかみやすいからです。
授業を通して気付くこと
A先生が授業をしている間、指導教員である私は常に帯同して内容をチェックします。中学校の英語という教科はなかなか教えるのが難しく、生徒の出身小学校によって進度や内容が違い知識の個人差が大きいので、どのレベルを基準にするかということを念頭に置いておかなければなりません。私自身は中学で1からという気持ちでずっと教えてきました。
ある日A先生の授業を見ていると、なんの説明もなしにI(「私は、私が」の意)を文中で使い始めたのです。教育実習期間は5月ごろで、生徒は大文字小文字の使い分けがやっとできるようになったころ。英語学習者なら常識である「自分を表すIは常に大文字を使用する」という大事なルールを素通りしてしまったのです。これは大きなミス。でも私たち教員や教員を目指す人にとっては当たり前なことであり、特に意識しない部分です。きっとどの教科でも同じようなことがあると思うのですが、授業の進度や理解度をしっかり確認してから進めていくといいのでしょう。また指導教員になっても授業を実習生に任せきりで見に行かない教員もいるようですが、それは怠慢だと思いますし、こういった授業を通して初めて気づくこともあるので、必ずチェックするようにしたいものです。
もちろんその部分については、あとで生徒にきちんと補足の説明を加えておきました。A先生もまったく頭になかったとのことでした。それからは私たちにとっては当然のことも必ず確認するようになりました。
いよいよ研究授業へ
事前準備をする
実習期間も後半になると、研究授業が待っています。単位取得に大いにかかわるだけでなく、受け入れ校の先生方にも広く見学してもらう貴重な場です。実習生にとってはとても大きなハードルと言えるでしょう。
まずは授業の計画を立てます。今までの経験を活かして、時間配分や指導内容にも注意を払って指導案を作成します。同時に授業をするクラスを決めます。前述したとおりクラスによって雰囲気が違いますから、自分の雰囲気に合うクラスを選ぶことになります。多くは受け持ちクラスにするようですね。やはり自分が多く関わっているクラスは安心感があるようです。研究授業をすることになったクラスには、事前にアナウンスしておくとより安心です。生徒もしっかりわかってくれ、協力体制ができることでしょう。
研究授業には管理職、実習生の所属する学校の教員(大学教授など)、受け入れ校の教員など多くの人が見学にきます。できれば事前に指導案を準備し、各教員に渡しておきたいところです。教室の入り口に残部を置いておくとより親切でしょう。多くの人が見学するということは、実習生だけでなく生徒も緊張しています。指導教諭は授業が始まる前に、少し緊張をほぐすような声掛けができればベストだと思います。
研究授業を終えて
授業が終わるとすぐに反省会を設けます。実習生自身が反省点を述べたり、見学者が改善できそうな点を述べたりする場です。実習生の所属先の教員とはそこでしか会えませんので、指導教諭としてはそれまでの過程を含めて客観的に話す必要があるでしょう。そのためには日頃のコミュニケーションと、きめ細かい指導が重要だと感じました。
2週間という実習期間はあっという間で、生徒と過ごす時間が濃厚なほど別れがつらく感じるものでしょう。私が担当したA先生は熱意がありましたし、生徒とも密に接してくれていたので、サプライズ的にお別れ会を催しました。とても充実した時間を過ごされたようで、その後無事に教員になったと聞きうれしく感じたのを覚えています。
まとめ
私の場合は実習生が熱意と能力を持ち合わせた素晴らしい人材でしたので、特に心配するようなことはありませんでしたが、中には教員免許のためだけに仕方なく実習に参加する人もいるでしょう。実習生の多くは生徒と年齢が近くそれだけで慕われる傾向にありますが、実習期間が短いため適当にやろうと思えばできてしまうかもしれません。しかし実習生であっても生徒に接するときには責任を持ってほしい。社会人としての常識ですよね。もし目に余るような実習生だったら、厳しく指摘することも必要なのだと思います。
これから実習に行く予定の方、また受け入れる予定の先生は、生徒の様子もよく見ながら充実した実習期間を協力して作っていってほしいと思います。
コメント
コメント一覧 (1件)
教育実習生と生徒たちの相性を考えて配置されるクラスが決まることは知りませんでした。
先生と実習生の二人での意見交換は、お互いの考え方を知ることが出来るのでいいと思いました。
研究授業についての説明が欲しかったです。