救急車の要請が必要なケガの事例:運動会の練習中に高所から落下した子どもが解放骨折
今回の事例では、中学2年生の子どもが、運動会の練習中に高所から落下して地面に手をついた際に右腕を解放骨折した際、救急車到着までに保健室の先生が行った対応について紹介します。
救急車到着までの保健室の先生の対応1:事故の状況と原因を把握する
まず保健室の先生は、事故の状況や原因の見落としがないように、ケガをした子どもや付き添いの先生から事故が起きた際の状況を問診します。
今回の事例では、ケガをした子どもは解放骨折の痛みでパニックだったため、運んできてくれた担任の先生に話を聞き、運動会の練習中に高所から落下して、地面に手をついた際に右腕を負傷したと把握しました。
救急車到着までの保健室の先生の対応2:子どものケガの状況を把握
保健室の先生は、ケガをした子どもや付き添いの先生に問診をしながら、子どものケガが救急車の要請が必要なほど重傷か判断するために、視診や触診、バイタルサインなどで子どもの全身の様子をチェックしていきます。
今回の事例では、一目で右腕の解放骨折が重傷だとわかりましたが、足や頭部など他の部位にケガがないかチェックしてから緊急性が高いケガは解放骨折のみと判断し、さらに子どもに意識の混濁や血圧の低下などのショック症状もみられたため、今すぐ救急車を呼ばないと命に係わる非常に危険な状況だと認識しました。
救急車到着までの保健室の先生の対応3:救急車の要請をする
保健室の先生による問診・視診・触診などで、子どもの命に係わる緊急性の高いケガだと判断した場合は、ケガの応急処置と並行して管理職の先生に救急車を呼ぶ許可を得る必要があります。
救急車を呼ぶ判断は保健室の先生でも、救急車を呼ぶ決断は管理職の先生が行う必要があるため、電話の内線などを利用して管理職の先生にすぐに保健室に駆けつけてもらい、許可が下りたらすぐに救急車を要請します。
さらに救急車を要請したあとは、手の空いている先生に救急車を誘導してもらえるよう依頼し、担任の先生たちには子どもたちが保健室や救急車に近づかないよう指導を頼むなどして、救急車が到着した際に、救急隊がロスタイムなしで子どものケガの処置が進められるような環境を整えておくのが大切です。
救急車到着までの保健室の先生の対応4:患部に応急処置を施す
救急車が到着するまで、保健室の先生は子どものケガの悪化を防ぐために応急処置を施します。
とくに今回の事例である解放骨折は、通常の骨折と異なり、骨が皮膚を突き破って外部に露出してしまっているため感染症を引き起こしやすく、対応を誤ると大きな後遺症が残ったり命を落としたりしてしまう重篤なケガなので、迅速で適切な処置が求められました。
今回の事例では解放骨折した患部が汚れていたため、感染を防ぐために水で汚れを落とし、清潔な布で優しく覆いました。本来、出血を伴うケガをした際は、患部を包帯などで強く縛ることで固定や止血をしますが、解放骨折の場合は、露出した骨に触れるとさらに深刻なダメージを与えてしまうため優しく被せる程度にし、前腕よりも心臓に近い上腕動脈を圧迫したり、患部を心臓よりも高くしたりするなどして、できるかぎり出血を抑えられるよう配慮しました。
救急車到着までの保健室の先生の対応5:常に子どものバイタルサインをチェックする
解放骨折のような重傷の際、ケガをした箇所の応急処置も重要ですが、ケガをした子どものバイタルサインも常に気をつけなくてはいけません。
今回の事例では、解放骨折による痛みとショッキングな見た目、そして出血により、子どもがショック症状に陥り、血圧が下がって意識が混濁してしまったため、付き添っていた担任の先生に、子どもへの声掛けや体を擦るなどの対応をお願いしました。
救急車到着までの保健室の先生の対応6:ケガをした子どもの保護者に連絡を入れる
子どもが救急車を呼ぶほどのケガをした際は、出来るだけ早く、ケガをした子どもの保護者にも早く救急車で搬送されることを報告し、病院に向かう準備をしてもらいます。
そして学校に救急車が到着し、ケガをした子どもの搬送先が決まったら、もう一度保護者に連絡を入れ、搬送先の病院で落ち合う約束を取り付けます。
救急車が到着後の保健室の先生の対応
学校に救急車が到着したら救急隊員に状況説明をし、搬送が必要だと判断してもらったら、子どもを救急車に運んでもらいます。
救急車で子どもを搬送してもらう際は、事故の状況がよくわかっているものが同乗する必要があるため、保健室の先生が子どもの緊急連絡カードや保健個票、お金などを持って乗り込みます。
ケガをした子どもと共に搬送先の病院についたら、ケガをした子どもの保護者と落ち合って状況報告し、治療内容などを確認してから学校に戻ります。
子どものケガで救急車を要請した後の学校の対応
子どもが救急車を呼ばなくてはいけないほどのケガをした場合、二度とこのような事故が起きないよう、事故の原因について早急に対応することが重要です。
そのため保健室の先生は、搬送先から学校に戻ってきたらすぐに管理職の先生たちと話し合いの場を設け、学校の安全面に問題がある場合は迅速に改善し、担任の先生たちにも事故があったことを説明して、今後このような事故が起きないよう情報共有を行います。
子どものケガで救急車を要請した後の子どもたちへのアフターケア
子どもが救急車で運ばれるような重傷を負った際、学校全体でケガをしてしまった子どもへのアフターケアをするのは当然ですが、友達が酷いケガをした瞬間を見てショックを受けている子どもに対しても気を配るのが大切です。
ケガをした子どもや、友達がケガをする瞬間を目撃した子どもに専門的な心のケアが必要だと感じた場合は、スクールカウンセラーにも協力を仰ぎましょう。
誰でも緊急時に救急車を要請できるような体制づくりをしておく
今回は保健室の先生が保健室に在室していたので、救急車を呼ぶ判断や応急処置ができましたが、保健室の先生が研修などで学校にいないときに大きな事故が起きる場合もあるため、どの先生でも緊急時の応急処置や救急車の要請ができる体制を整えておくのが重要です。
また緊急時の体制を整えておくと、保健室の先生が在室している場合でも、救急車の要請や保護者への電話対応などを他の先生に任せやすくなるので、保健室の先生が子どものケガの応急処置に集中しやすくなる利点もあります。
また保健室の先生でも、子どもが大きなケガをするとパニックになる可能性があるので、頭がフル回転しない状況でもすぐに目につく場所に緊急時のマニュアルが掲示されていると安心です。
私の保健室には、壁に救急車を呼ぶ条件や救急車の要請方法を書いた大きな掲示物を作成して貼っておき、誰でもすぐに目につく状況を用意していたため、救急車を要請する際にも他の先生方に協力を頼みやすく、大活躍しました。
救急車を呼ぶべきか悩んだ時は?
今回の事例の解放骨折のように、必ず救急車を要請すべきケガもありますが、見た目だけでは重傷かわからず、救急車を要請すべきか悩むケガも多く存在します。
基本的に救急車要請の判断は、そのケガが子どもの命に係わるかどうかですが、保健室の先生が見ただけで判断できないケガもあるので、困ったときは一人で抱え込まず管理職の先生に相談するのがベストです。
救急車を要請するべきか判断するのは保健室の先生ですが、最終的に決断するのは管理職の先生なので、救急車を要請すべきか悩んだ時は一人で判断せず、管理職の先生の決断を仰ぎましょう。
保健室の先生自身の心のケアも忘れずに
保健室の先生は、子どもの命を脅かすようなケガの対応をしている最中は子どもの命を預かっているという緊張感と責任感で職務を全うできても、対応が終わった後心身共に酷く疲労する方が多いです。
私も解放骨折の対応をした後は、昼間見たショッキングなケガと強い緊張感を思い出して夜に眠れないなど、自分が思っているよりもストレスを受けていたことに気づきました。
保健の先生という職業柄、どのような緊急時でも子どもたちの前では強い心を保たなくてはいけませんが、休みの日などは思いっきり気を抜くなどして、自身の心や体を癒すことも大切にしてください。
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