ついにトランプ大統領が譲歩?!政権移行を容認した意味と狙い

2020年11月上旬に行われたアメリカ大統領選、バイデン氏は勝利演説をしたものの、いまだに正式な決着はついていません。そんな中、連邦政府共通役務庁は政権移行業務を開始する手続きに入ったことを公表しました。

今回は、トランプ氏が政権移行を容認した意味や狙いについて、アメリカ在住の日本人にレポートいただきました。


はじめに - トランプ氏の思惑は?

アメリカ大統領選から3週間が経過しましたが、いまだに正式な決着はついておらず、トランプ大統領は依然として敗北を認めていません。

そんな政治的な空白状態にあるアメリカで、民主党のバイデン氏は政権移行が円滑に出来ずにいます。トランプ陣営はウィスコンシン州やペンシルベニア州などの激戦州で訴訟を起こしている他、政権移行に関わる予算を管理する連邦政府共通役務庁に手続きを進めないように根回しするなど事態は泥沼化していました。

しかし、11月23日、同庁は政権移行業務を開始する手続きに入ったことを公表し、バイデン氏はようやく本格的な政権移行業務に着手できることになったのです。

これは実質的な「トランプ大統領による敗北容認」とされており、今回の大統領選は大きな転換期を迎えています。

今回は、政権移行を容認した意味や狙いについて、そしてトランプ大統領の次なる作戦について解説します。

アメリカの政権移行を巡る流れ

今回明らかになったことは、アメリカの安全保障や外交問題、機密情報などを現政権から次期政権に引き継ぐ「政権移行」が正式に認められたことです。

この政権移行には、民主党のバイデン氏による国家機密情報へのアクセス、各国首脳との公式会談調整、現政権が取り組むあらゆる政策へのアクセス権譲渡などが含まれています。

例えば、トランプ大統領が取り組んだ北朝鮮問題では、アメリカが保有する北朝鮮内部に関する軍事情報や人事などの機密情報をバイデン氏や関係者に渡すことになります。また、諸外国との外交調整にかかる予算確保など、多岐に及びます。

アメリカ政府はこの政権移行に対して630万ドル(約6億3,000万円)を確保しており、それを管理しているのが、通称GSAと呼ばれる連邦政府共通役務庁(General Services Administration)です。

GSAは、政権移行に関する予算やバイデン陣営のスタッフが仕事をする施設の手配など、一切を取り仕切っており、GSAが承認しなければバイデン陣営は実質的に何も出来ない状態になります。

GSAのトップであるマーフィー局長(Emily Murphy)は、トランプ大統領から指名された人物で、これまで大統領選の結果を見極めることを理由に、政権移行に関する書類手続きを保留してきました。(民主党は意図的であると批判し、訴訟を計画していた)


一方で、マーフィー局長や同氏の家族は政権移行を急ぐ民主党支持者から脅迫や圧力、嫌がらせを受けていたことも発覚しており、トランプ大統領はツイッター上でこれらの事実に触れたうえで、GSAやトランプ大統領のチームに政権移行の初期手続きに入るよう伝えたとしました。

このことは、トランプ大統領がバイデン氏に協力することを意味します。実際に、バイデン氏の選挙陣営は「安全保障や新型コロナウイルス対策について、数日以内に政府当局者と協議を始める」と発表しており、ついに両陣営による政権移行が動き始めたことになります。

トランプ陣営の敗北なのか?

今回、政権移行が正式に承認されたことはトランプ陣営が敗北を認めた訳ではありません。

トランプ大統領は政権移行に着手するよう認めたものの、あくまでも「大統領選の結果が正式になった場合に備えたもの」という位置付けです。

今回の決定は自身が負けたためではなく、12月14日の選挙人投票においてバイデン氏の勝利が確定した場合、出来るだけ円滑に政権移行が済むように配慮したものと見られています。

実際に、トランプ大統領はツイッターで「私たちの勝利を確信している」と投稿しており、あいかわらず敗北を認めていません。また、トランプ大統領の選挙陣営も「国全体の不正選挙を撲滅する」としたうえで、法廷闘争を続ける構えを崩していません。

トランプ陣営の次なる手

トランプ大統領は負けを認めずに次なるシナリオを考えているようです。

厳しい状況にあるトランプ陣営

トランプ陣営はこれまでのところ、ジョージア州やアリゾナ州、ミシガン州など、僅差で敗れた州を中心にして再集計の要求や不正行為に関する「法廷闘争」を続けています。しかし、いずれの州もトランプ陣営の訴えを退け、バイデン氏の勝利が確定しています。

「法廷闘争」がうまく機能していないトランプ陣営としては、次なる手段として「下院議会による選出」に持ち込みたいと考えています。

下院議会による選出

大統領選に関してアメリカの憲法では「選挙人投票で決まらなければ下院議会で選出する」と定められており、12月8日までに各州が選挙人を確定できない、または選挙人投票で決着しない事態になれば、1月6日から1月20日までの間に議会が大統領および副大統領を選出することになります。

この場合、鍵を握るのは改選後の下院議会ですが、大統領選と同時に実施された下院議員選(定数435名)では、11月23日現在、民主党が222席、共和党が205席と民主党が優勢です。すなわち、下院議会による選出は民主党のバイデン氏が有利と言えます。

しかし、下院議会による選出(投票制度)には、トランプ陣営が挽回できる余地が残されています。

下院議会による投票は、全50州に対して1票ずつ与えられ、過半数である26票以上を獲得した方が勝利します。各州は「議員団」が1票を持つことになり、各州の下院議員による多数決によって支持政党(支持者)が決まります。

各州における下院議員の構成図に目を向けると、民主党優勢が24州、共和党優勢が25州、同数1州のため、ほぼ互角です。トランプ陣営としては、州議会に働きかけることで、下院議会による投票を共和党にとって有利に進められる可能性があるという訳です。

民主党が優勢の下院議会による選出はトランプ陣営にとっては不利と見られますが、各州の下院議会の勢力図は共和党優勢のため、トランプ大統領が再選する可能性は残されています。


また、トランプ陣営はこの点を見据えた動きを続けており、11月19日にはミシガン州の議会トップらをホワイトハウスに招いて会談を実施しています。

トランプ大統領は法廷闘争を続けることで激戦州の選挙人確定を遅らせる、または確定させずに「議会による選出」に持ち込もうとしている訳です。議会による選出になれば、11月の選挙結果とは関係なく、共和党が勝利する可能性もあります。

まとめ

以上、「ついにトランプ大統領が譲歩?!政権移行を容認した意味と狙い」でした。

これまで一貫して敗北を認めてこなかったトランプ大統領ですが、ここにきて政権移行を認める事態になりました。態度を軟化させたことでバイデン陣営をはじめ、民主党支持者は安堵していますが、トランプ大統領は決して負けを認めた訳ではありません。

法廷闘争を通じて、各州の選挙人確定をズレ込ませることで「議会による選出」へ持ち込もうとしているようです。また、議会による選出で有利に動くように根回しを進めており、まだまだ決着はつきそうにありません。

ひとまず、12月8日の選挙人確定期日までの動きに注視しましょう。そして同月14日の選挙人投票で決着するかどうかが焦点です。

本記事は、2020年11月30日時点調査または公開された情報です。
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