いまアメリカで注目されている「セクション230」とは?

アメリカには「セクション230」と呼ばれる法律があります。この法律は、インターネット企業やテック企業を保護し、「表現の自由」を守るためのものです。しかしこの法律には、責任の所在などの問題をはらんでいます。

本記事では、いまアメリカで注目されている「セクション230」について、アメリカ在住の日本人にレポートいただきました。

はじめに

2020年10月28日、アメリカ上院議会はアメリカを代表するテック企業であるFacebook、Google、TwitterのCEOに対してオンラインで公聴会を実施しました。

議会主催の公聴会は、名目上は質疑応答という位置付けですが、実質的には全国民が視聴できる裁判のような雰囲気です。参加したCEOの発言はすべて記録され、後に裁判まで進展した場合には「あの時はこう説明した」などと追及される可能性もあります。

アメリカのテック企業トップが一同に揃ってそれほどまでに厳しい質疑応答を受けた理由が「セクション230」と呼ばれる法律です。

今回はアメリカで連日のように報道されている「セクション230」とはいったい何なのか、影響や目的などを含めて解説します。

アメリカの法律「セクション230」とは?

今回の公聴会でテーマとなったセクション230とは、1996年にアメリカで成立した「the Communications Decency Act(CDA)」の第230条のことです。

日本語では「通信品位法230条」となりますが、条文はたったの26語で構成されています。この条文は「インターネットを生んだ26語」や「インターネット上の言論を保護する最も重要な法律」などとされており、アメリカにおけるインターネットの成長の基礎と言われてきました。

この条文で定められていることを要約すると「インターネット企業は、第三者によって提供されたコンテンツに対して、一部の例外を除いて法的責任は生じない」ということです。

分かりやすく言うと、Facebook、Google、Twitterなどの企業は、ユーザーが投稿した内容に対して責任を負う必要はないことを意味します。

例えば、Yelpなどの口コミサイト上で、ユーザーが特定のレストランに対して誹謗中傷をした場合、レストランはユーザーを訴えられても、サービス提供者であるYelpを訴えられません。

他にも、Facebook上で悪意のある情報を発信しているユーザーがいて、そのユーザーが犯罪行為を犯したとしても、Facebookはその責任を負わされることはありません。

つまり、セクション230によって多くのテック企業が保護されている状態ということです。この法律があるからこそインターネット上で「表現の自由」が成立している訳ですが、好ましくないコンテンツを生み出したり、その責任が曖昧になることが問題視されています。

アメリカ上院議会主催の公聴会が開催された背景

今回公聴会が開催された背景には「トランプ大統領」と「ウィリアム・バー司法長官」の意向があります。

トランプ大統領は2020年5月に自身のツイッター上で郵便投票を巡るツイートを投稿しました。この投稿内容についてTwitter社は「事実確認ラベル(警告)」を貼ったことで、トランプ大統領は「選挙への干渉だ」として怒ってしまいました。

この結果、トランプ大統領はソーシャルメディア事業者を保護しているセクション230を廃止するための大統領令に署名し、圧力をかけました。

この圧力に加勢したのがウィリアム・バー司法長官です。バー司法長官を支持する共和党員らは結束し、米連邦通信委員会を巻き込むようにして今回の公聴会を実施しました。

トランプ大統領をはじめとする共和党は、FacebookやTwitterなどが(共和党にとって不利な)政治的検閲を実施していると見ています。共和党からしてみれば、主要テック企業への公聴会実施や政治的な圧力は、これに対する仕返しのような側面もあると言えるでしょう。

一方で、民主党はセクション230の改正には積極的ではないものの、インターネット上の暴力や卑猥な不正コンテンツを野放しにしていることを追及する形をとりました。大統領選直前の公聴会ということもあり、両党は絶好のアピールの場と考えたようです。

アメリカ上院議会主催の公聴会の内容

今回の公聴会はおおよそ4時間にわたってセクション230を巡る議論が交わされました。公聴会での主な発言をまとめました。

Facebookの発言

FacebookのCEOであるザッカーバーグ氏は「インターネット市場は絶えず進化しているため、セクション230が当初意図したように機能するための法律のアップデートが必要」としました。

法改正に対する具体的な内容こそ避けたものの、フェイスブックが実施している不正行為の取り締まり(年間数十億ドルの投資と35,000人を導入している)や、規約に基づくコンテンツ削除などの取り組みに理解を求めました。

また、インターネット上の表現の自由と安全性のバランスについては「民間企業が多くの決定をすべきでない」と述べています。

ザッカーバーグ氏の発言で印象的だったのは「セクション230がなければフェイスブックは起業できなかった」というもので、今後もスタートアップ企業が事業を始める際に不利がないようにすることこそが重要としました。

ザッカーバーグ氏は法改正の必要性を認める一方で、セクション230の存在によってインターネット事業の成長が促進されるという考えを持っています。

Googleの発言

GoogleのCEOピチャイ氏は冒頭の証言で「インターネットは世界で最も重要なイコライザー(平等)だ」としたうえで、情報の自由な発信ができる場所であることを強調しました。

一方で、「インターネットは障壁が低いが故に悪意のある人物が危害を加えることもある」とし、Googleは明確なガイドラインを設けて対応していると述べています。

セクション230については「テック部門における最大の指導力の基礎」とし「法改正が企業やユーザーに影響を与えることを念頭に置くべき」と慎重な意見です。

公聴会の中盤では議員らによる「的外れ」な質問が相次ぎ、「Googleは新聞やテレビから広告を奪っている」や「Googleが作成したコンテンツに対して責任を持つのか」などが聞かれました。

Googleは司法省から「反トラスト法(独占禁止法)」で訴えられていることから、これに関連する内容と見られます。

なお、アメリカの反トラスト法(独占禁止法)に関しては以下の記事も併せてご参照ください。

》アメリカ司法省とGoogleの対立は何が問題なのか?

2020年10月20日、アメリカ司法省がGoogleを提訴しました。提訴の理由は「反トラスト法(日本で言うところの独占禁止法)」の違反です。今回は、アメリカ司法省とGoogleの対立とその問題点について、アメリカ在住の日本人にレポートいただきました。

Twitterの発言

今回の公聴会で最も注目されたのがTwitterのドーシーCEOです。トランプ大統領を怒らせた元凶ともされているTwitterがどのような証言をするか注目が集まりました。

ドーシーCEOは冒頭に「我々が誠意を持って行動していることを信じていない人がおり、それこそが問題だ」と述べた上で、信頼性向上のためにより透明性がある対策を講じると述べました。

トランプ大統領の投稿に対して事実確認ラベルを貼ったことについては「ユーザーがより多くの情報を得られるようにするため」と説明し、共和党のブラックバーン上院議員による65回も大統領の投稿を検閲したとの指摘に対しては、語気を強めて「はっきりさせたい。大統領の検閲はしていない」と否定しました。

一方で、民主党議員からは新型コロナウイルスに関する誤った情報の拡散を防ぐのに(Twitterの取り組みが)役立っており、感謝を伝えられる場面もありました。

ドーシーCEOは一貫して中立性を持って対応しており、大統領を含む特定の人物だけを厳しくチェックしているようなことはないと強調しました。皮肉にも、公聴会の最中にトランプ大統領は「セクション230を撤廃しろ!」とTwitterに投稿しています。

Facebook・Google・Twitter、3社共通の見解

公聴会では3社共通の見解も聞かれました。

共和党のスーン上院議員から「政治的な言論を審判するのは企業か?」と尋ねられた際には3社とも「私たちではない」と回答しています。また、「投稿を削除されたユーザーは説明を受ける権利はあるか?」との問いには「適正な法的手続きを保障すべき」としました。

投稿を監視する人物の政治的な信条が投稿の削除やブロックに関係しているのではないかという疑いも出ました。監視スタッフのなかに共和党支持者がいるかという質問に対してTwitterのドーシー氏は「(スタッフの)政治的な信条は問わない」、Googleのピチャイ氏は「アメリカで雇用しているのだから、いるだろう」、ザッカーバーグ氏は「(聞いていないが)いるだろう」と回答しています。

民主党議員からは「バイデン氏の投稿とトランプ氏の投稿は同じチェックレベルか?」と質問され「誰に対しても中立だ」としています。ザッカーバーグ氏は「全員に同じ規約を適用し、バイデン氏の投稿にもラベルを付けた」と説明しました。

公聴会に出席した3社とも「セクション230で保護されているものの、それぞれ独自のガイドラインを設けて中立性を持った対応をしている」と主張しています。今後、この点をどこまで考慮して法改正に踏み込むか否かが課題になるでしょう。

アメリカ上院議会主催の公聴会の問題点

今回の公聴会は多くのメディアが「収穫なし」と冷たい報道です。

ニューヨーク・タイムズ紙は「セクション230を巡る議論のはずが、企業の責任や改正点について話がされなかった」と報じ、CNBCは「政治的な停滞がセクション230を通じてテック企業に利益をもたらしている」と指摘し、公聴会が建設的でなかった理由として共和党と民主党の対立があるとしました。

事実、公聴会において共和党と民主党の主張は異なっています。共和党は「共和党に不利な政治的検閲に対する締め付け」を目的にし、民主党は「外国政府による選挙介入」や「児童ポルノやヘイトスピーチの責任」を目的にしています。

つまり、公聴会において統制が取れていない訳です。共和党と民主党それぞれが自分たちの主張や質問をしたためセクション230の具体的な話にはならなかったのです。結局は、議員らが大統領選を見据えて有権者にアピールするための時間だったと言えるでしょう。

Facebook、Google、Twitterからしてみれば公聴会で追及が進まなかったことは良かったとも言えます。公聴会翌日には、参加した3社すべてが7-9月期の決算が増収だったことを発表し、アメリカのテック企業は絶好調であることを見せつけました。

まとめ

以上、「いまアメリカで注目されている「セクション230」とは?」でした。

今回の公聴会では、セクション230について具体的な話はありませんでしたが、トランプ大統領をはじめとする共和党はテック企業に厳しい姿勢を向けていることが分かりました。大統領選でトランプ陣営が再選すればこの話題は本格的に進む可能性があります。

当面の間は「セクション230」という言葉を頻繁に耳にすることになると思うので、今後も注目しておいてください。

参考資料サイト

セクション230
https://uscode.house.gov/view.xhtml?req=(title:47%20section:230%20edition:prelim)

本記事は、2020年11月4日時点調査または公開された情報です。
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