はじめに - トランプ市の支持率が上昇中
2020年9月、党大会前の評判では「トランプ劣勢」と囁かれていましたが、党大会を境目にして徐々にトランプ陣営の支持率が盛り返しつつあります。
激戦州のひとつであり、共和党のお膝元とされているテキサス州では共和党が民主党を逆転したとの報道もあり、事態はますます読めない展開になっています。
そこで今回は、大統領選まで2ヶ月を切ったアメリカはどのような状況になっているのか、両陣営の動きなどをご紹介します。
支持率の推移
はじめに、直近6ヶ月分のトランプ(共和党)とバイデン(民主党)の支持率推移を見てみましょう。
ここでは、アメリカの政治ニュースサイトで、様々な世論調査データを収集している「RealClearPlitics」が公表しているデータを参考にご紹介します。同社のデータはNHKも参考にしており、信頼性が高いことで知られています。
・2020年03月01日
バイデン:49.8%
トランプ:44.4%
差5.4%
・2020年04月01日
バイデン:49.9%
トランプ:44.0%
差5.9%
・2020年05月01日
バイデン:47.7%
トランプ:42.4%
差5.3%
・2020年06月01日
バイデン:49.0%
トランプ:41.5%
差7.5%
・2020年07月01日
バイデン:49.3%
トランプ:40.0%
差9.3%
・2020年08月01日
バイデン:49.4%
トランプ:42.0%
差7.4%
・2020年08月31日
バイデン:49.0%
トランプ:43.0%
差6.0%
このように、終始民主党のバイデン氏が優勢であることが分かります。また、新型コロナウイルスによる非常事態宣言が発令された3月以降、トランプ政権は大きく支持率を落としていることも分かります。
一方で、7月以降のトランプ陣営は支持率を回復させつつあり、新型コロナウイルスの影響を受ける前の水準にまで戻ってきています。
常に49%代を維持する民主党のバイデン氏と、一度下落してしまった支持率を回復させ、選挙本番に向けて勢い付けたいトランプ陣営の動向は対照的と言えるでしょう。
変化しつつある大統領選の争点
劣勢とされてきたトランプ陣営が盛り返している背景には、大統領選の争点が変化したことがあります。
コロナ対策から人種差別問題へ
今回の大統領選は「新型コロナウイルス対策」が最大の争点になると見られてきました。しかし、5月末以降、全米で白人警察官による黒人殺害や銃撃事件が相次ぎ、これに抗議する人たちが暴徒化する事態が続いています。
いま、アメリカではいたるところで人種差別問題や警察改革を訴える抗議デモが実施されており、この問題は多くのアメリカ人にとって「非常に身近な問題」になりました。
事実、筆者が住むアリゾナ州では、ひとたび車を走らせればどこかで大小問わず、デモやプラカードを掲げる人たちを見かけます。
コロナウイルスとの共存に慣れつつあるいま、抗議デモや暴徒化の方が目立つようになってきたのです。
両陣営の取り組み
次に両陣営がどのような動きを見せているかをご紹介します。
喫緊の問題への対応
トランプ大統領とバイデン氏では、人種差別問題や警察改革に対する取り組みが異なります。
トランプ大統領は、人種差別問題は受け入れられないこととしつつも、暴徒化する人たちを「法と秩序」によって抑制しようとします。対照的に、バイデン氏はこのような問題が発生しないような「社会的構造」を正すべきと主張しています。
多くのアメリカ人にとって、暴徒化する人たちが増えていることは喫緊の問題であり、トランプ大統領とバイデン氏のどちらがこの問題に対処しているかは明白なのです。
事実、アメリカでは銃や催涙スプレーなどの護身用グッズの需要が急増しています。アメリカのセキュリティー会社Mace Securityは、新型コロナウイルスによる物流の滞りがあったにもかかわらず2020年第2四半期の純売上高が16%増、別の報告では3月から6月だけでおおよそ300万丁以上の銃が売れたとあります。(Brookings)
つまり、アメリカ人はコロナウイルス感染よりも暴徒やデモによる恐怖に備えるようになり、不安定な治安状況を憂慮している現れと言えるでしょう。
この点において、トランプ大統領の方が実行力とリーダーシップを発揮していると映っていることから、同陣営の支持率回復に繋がっていると見られます。
対照的に、バイデン氏は何もしていないと映っています。しかし、トランプ大統領と違って与党ではないため、できることに限界があることは考慮しなければいけません。
割れる民主党
民主党は共和党に比べると「党内の結束力」に不安が残ります。
これまで民主党は国民皆保険や弱者優遇の政策に取り組んできたことから、新型コロナウイルスによるパンデミック下においては「自分たちは間違っていなかった」という、党内の共通意識がありました。
多くの失業者を生み、格差を拡大させたトランプ政権の失態も重なり、民主党の結束力は強固なものに見えました。
しかし、国民の関心事が新型コロナウイルスから人種差別問題や警察改革などに変わってからは、民主党内の穏健派から急進左派の党内派閥によって、警察改革を巡る考え方が違うことが浮き彫りになったのです。
民主党の大統領候補バイデン氏と副大統領候補のハリス氏は、出来るだけ大きな社会的変動を避ける中道派です。一方で、党内にはバーニー・サンダース氏のように大きな変革を持ってして社会を変えようとする急進左派も存在しており、党内がまとまりきれていません。
バイデン氏は8月の民主党大会で「結束」という単語を頻発しており、民主党支持者だけでなく党内関係者にも結束を呼びかけています。また、政策綱領案においては、自身の政策にはなかった「大学無償化」などを取り入れており、急進左派を意識した内容にしました。
つまり、バイデン氏はアメリカ国民だけでなく、足元の民主党内にも配慮した政策を打ち出したことで「まとまっていない」印象を与えてしまった訳です。この点が、トランプ陣営の支持率上昇の一因になっていると見られます。
実績強調の遊説
トランプ大統領は積極的に遊説に出かけ、1期目での実績を強調しています。
9月3日、激戦州のひとつになるとされているペンシルベニア州を訪れたトランプ大統領は、バイデン氏を「暴力的な抗議者たちを支持する人物だ」と批判し、国内テロリストに譲歩する計画だとこき下ろしました。
また、着実に回復傾向にある失業率や、記録的な数字を更新しているマーケットなど、これまでの経済政策の実績を強調することで「経済に強いトランプ政権」を印象付けています。
同州はラストベルト(さびた工業地帯)と呼ばれる一帯で、雇用対策が鍵を握る重要州です。トランプ大統領は2週間前にも同州を訪れており、製造業の国内回帰や税制優遇など共和党の経済政策をアピールして支持者を集めています。
一方で、バイデン氏も同州で選挙集会を開催する予定ですが、出遅れている印象は否めません。これまで、新型コロナウイルス感染に配慮し、オンライン選挙活動に専念してきた同氏ですが、戦略転換の時を迎えています。選挙活動における「一貫性のなさ」が有権者にどのように響くかも気になるところです。
まとめ
以上、「トランプ陣営が優勢に!?アメリカ大統領選まであと2ヶ月」でした。
11月3日の投票日まで2ヶ月を切ったいま、アメリカでは新型コロナウイルスよりも人種差別問題に関連した治安問題の方が身近な問題になりつつあります。両陣営の過激な支持者による衝突も起きており、アメリカ国内の治安対策はこれまでよりも重視されるでしょう。
「法と秩序」を重視するトランプ大統領の方針は単純明快で分かりやすく、国民からも受け入れられやすい反面、抗議者たちからの反発を買い、国民の分断を深めます。
対照的に、「問題の根幹」から解決しようとするバイデン氏には大きな期待が寄せられていますが、アメリカ人がこの複雑な取り組みを理解して共感できるかは疑問です。
アメリカが直面している喫緊の問題に対する分かりやすい対応や説明、銃や護身用グッズを買い求める人たちの反応を見ると、トランプ陣営の支持率が上がっているのも納得です。
参考資料サイト
Real Clear Plitics
https://www.realclearpolitics.com/
セキュリティー会社Mace Security
http://corp.mace.com/2020/07/mace-security-international-reports-second-quarter-2020-financial-results/
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