はじめに
2016年11月にトランプ大統領が大統領選で勝利して以降、アメリカの株価は右肩上がりを続けてきており、連動するように日本の日経平均株価も好調な状態を続けています。アメリカ第一主義にこだわった強引な政策をとるトランプ大統領ではありますが、経済に関する実績は確実に残していると言えるでしょう。
過去最高の株価、失業率の改善、史上最長の好景気などアメリカの経済に関するニュースは良いものばかりです。アメリカの経済に大きな貢献をしているトランプ大統領ですが、2020年11月の大統領選再選に向けて「好調なアメリカ経済」を武器にして挑むつもりでした。
しかし、アメリカの経済は新型コロナウイルス感染拡大の影響をもろに受けてしまいます。
アメリカの株価は今後どのようになっていくのでしょうか?
今回はアメリカの経済や株価の見通し、今後株価に影響を与える可能性があるアメリカの経済指標などについて解説します。
2020年3月に起きたアメリカの株価暴落
2020年3月9日(月)アメリカのニューヨーク株式市場では新型コロナウイルス感染拡大を不安視する市場の動きを受けて前週末比2,013ドル安の23,851ドルになり、過去最大の下げ幅を記録しました。さらにその2日後、前日比で2,353ドル安の21,200ドルまで値を下げて、再び過去最大の下げ幅を記録する事態になります。
この下落率10%という数値は、1987年10月に起きた「ブラックマンデー」の22%に次ぐ記録で、日本も含めて世界中の経済に衝撃が走りました。感染拡大や急激な株価下落という異例の事態を受けてトランプ大統領は3月13日(金)に国家非常事態宣言を発表し、500億ドルの追加予算投入、FRBによる1兆5,000億ドルの資金供給、そして600億ドル分の国債購入を実施することを決定します。
しかし、3月16日(月)には予想に反して、史上最大の2,997ドルの急落という結果になりました。アメリカ政府による経済救済政策をかえって不安視する投資家が多かったのです。好調だったアメリカの株価はわずか1週間の間で3回も取引を一時停止する「サーキットブレーカー」が発動してしまう異常な事態になってしまいました。
アメリカの株価暴落が起きた3つの要因
2020年3月に起きたアメリカの株価暴落は主に3つの要因があると考えられています。
欧州で新型コロナウイルス感染拡大が本格化したこと
アメリカ株価暴落のひとつめの要因がヨーロッパで新型コロナウイルスの感染が本格的になったことです。イタリア、スペイン、フランスなど主要国で感染が拡大し、イタリアでは移動制限や、食料品店と薬局を除くほぼ全ての全面閉店などの措置が取られました。
また、スペインでは非常事態宣言、フランスも全面閉店や罰則付きの外出禁止令に踏み切ったことなどによる「ヨーロッパの経済活動の停止」を懸念したことが背景にあります。
アメリカ経済の中枢で感染が拡大したこと
アメリカの株価暴落の2つめの要因が、新型コロナウイルスの感染がアメリカ経済の中心地であるニューヨークで広がったことです。ニューヨーク証券取引所があるニューヨーク州では3月7日(土)に非常事態宣言を発表しており、この時点で感染者が100名を超える事態に陥っていました。
アメリカ経済の中枢であるニューヨークで感染が広がったことは、多くの投資家の不安を買ったため、株価の暴落に拍車をかけたとされています。
原油減産協議を巡ってサウジアラビアとロシアが対立したこと
アメリカの株価が暴落した3つめの要因が、暴落の前(3月6日)に開催された石油輸出国機構(OPEC)の「OPECプラス会合」において、サウジアラビアとロシアの間で原油減産協議が決裂したことが挙げられます。
会合参加国は世界経済の停滞による原油需要減少を見越して産油量の削減を協議しましたが、ロシアが反対し交渉は決裂。これに反応したサウジアラビアが4月の原油供給量を最大量の1,230万バレル/日まで引き上げる方針を表明しロシアに対抗、さらに原油市場シェアを拡大しようとする動きを見せました。
事実、株価暴落を受けてアメリカのトランプ大統領はサウジアラビアとロシアの原油を巡る対立が株価暴落の原因だとツイートしています。アメリカの市場関係者の間では、原油減産を巡る対立が株価暴落を悪化させたと見る声が多いようです。
アメリカ政府が株価回復のためにしたこと
アメリカの株価暴落を受けてアメリカ政府は様々な救済策を発表しています。これらは株価の復調にどのように繋がるのでしょうか?
非常事態宣言
トランプ大統領は新型コロナウイルス感染拡大を防ぐために非常事態宣言を発表しました。この背景にはアメリカ議会によって認められた多額の災害救済金を投入できるという狙いがあります。
これにより500億ドルもの追加予算を治療、検査、医療品の購入、隔離などに使えることになります。つまり、この予算を使って間接的に市場の混乱を防ぐ目的もあるのです。非常事態宣言は実質的には経済支援策とも言えるでしょう。
FRBによるゼロ金利政策と量的緩和
アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)は株価暴落を受けてあらゆる手を打っています。その中でも3月15日に緊急で決定されたのが「ゼロ金利政策と量的緩和」です。FRBは3月3日に続き(1.00%-1.25%に利下げ)、政策金利をさらに1%引き下げて0-0.25%という実質的なゼロ金利政策を決定します。さらに、国債などを7,000億ドル買い入れて市場に資金を投入する量的緩和にも踏み切りました。
この緊急対応は2008年のリーマンショック以降初めてで、アメリカの中小企業の資金繰りを円滑にするなど、大きな影響を与えるとされています。皮肉なことに、この発表を受けたニューヨーク市場はかえって不安が高まったとしてさらに値を下げる事態になりました。
これに先立ってFRBは短期金融市場に1兆5,000億ドル(約150兆円)の資金供給を決めるなどをしており、連日のように異例の対応が続いています。市場ではFRBの対応を評価する一方で、対策の行き詰まり感や有事の本格化などネガティブな反応が続いています。
経済支援政策
トランプ大統領は新型コロナウイルス感染拡大を受けて色々な救済策を打ち出し、議会と調整するとしています。例えば、給与税(ペイロールタックス)の減税、航空業界やホテル業界への支援、中小企業支援などを挙げていますが、議会との協議が難航すると予想されており、これらの支援政策が具現化するのには時間がかかると見られます。
このようにトランプ大統領の特権で決断できる非常事態宣言や、FRBによる金利政策などは速やかに実行されましたが、議会との調整が必要な政策については選挙中ということもあり、難航しそうです。
アメリカの株価は今後どうなる見通し?
歴史的な株価暴落を受けたアメリカの株価は今後のようになるのでしょうか?
FRBによる次なる支援策はない?
株価暴落を受けてFRBが決めた利下げ、莫大な資金投入、国債の買い入れなどは早い段階で実施されましたが、景気の押し上げ効果は先の話であり、市場ではいまはリスクを回避することの方が優先されています。つまり、効果を実感できない状態にあります。
このリスク回避の流れには「これから景気後退が本格化する」という観測を含んだ動きもあるため、FRBの支援策は中長期で見ても機能しないのではないかとされています。
また、FRBが早々に打つべき手を使い切ってしまった(これ以上は利下げできない)ことから、これ以上の期待は持てないという悲観的な観測が広まっています。仮に、景気後退が進んだ場合、その時点でFRBによる支援策は限界を迎えている可能性があるのです。
このような背景に加えて、ニューヨークで感染が止まらない事態が続いているため、今後のアメリカ経済はより一層厳しい局面を迎えると見通す人もいます。
経済政策のピークは2020年7月-9月?
トランプ政権が最も恐れていることは経済不調が11月の大統領選に悪影響を及ぼすことです。好調な経済が失速したままでは11月の大統領選に不利になることは避けられないため、それまでに是が非でも経済を立て直したいところでしょう。
そのための照準とされているのが、10月に発表される「2020年第3四半期国内総生産(GDP)の速報値」です。これは2020年7月-9月の実績が反映されるため、大統領選の直前でアメリカ経済を評価できる重要な指標なのです。
トランプ政権は7月-9月までに経済復調を実現できないと厳しい局面を迎えることになります。逆を言えば、7月-9月に向けてあらゆる手を使ってアメリカ経済を立て直しにかかるでしょう。この「テコ入れ」によって株価が回復すると見る専門家もいれば、オリンピックの延期または中止の可能性もあるためアメリカ経済は再び下落すると見る人もいます。いずれにせよ、トランプ政権にとって正念場になるでしょう。
重要視したいアメリカの経済指標
ここではアメリカ経済を理解する上で重要な経済指標をご紹介します。トランプ大統領の最大の強みである「好調な経済」を図るための重要なポイントです。
・雇用統計:毎月第1金曜日
アメリカの労働省労働統計局が、企業や政府機関を対象に失業率、非農業部門就業者数、建設業就業者数、製造業就業者数、小売業就業者数など10項目以上の調査を実施して集約したものです。毎月定期的に発表されるため、アメリカの雇用に関する現状を知るのに適した経済指標です。
・小売売上高:毎月中旬
アメリカのスーパーマーケットなど小売業やサービス業の月間売上高を集約したものです。アメリカの消費を理解するために適した経済指標で、毎月発表されており、アメリカの消費者動向の現状を知ることが可能です。
・消費者物価指数(CPI):毎月中旬
アメリカの小売業やサービス業での販売価格に関する調査結果を集約したものです。毎月公表されており、消費者が物やサービスを購入するときの価格の動きを知ることが出来る経済指標です。対照的な経済指標として「生産者物価指数(PPI)」もあります。
*CPI:Consumer Price Index
*PPI:Producer Price Index
・GDP(国内総生産):4月・7月・10月・1月
アメリカの経済成長率を示す経済指標です。消費・投資・輸出・政府の支出などで構成されており、景気の動向を知るために使われる重要な経済指標です。GDPは四半期毎に発表されますが、それぞれで速報値、改定値、確定値の3つが用いられるため、実質的には毎月発表されています。
・FOMC政策金利発表:3月17日・4月28日・6月9日・7月28日・9月15日・11月4日・12月15日(いずれも2020年内の予定日)
FRBのFOMC(連邦公開市場委員会)が政策金利について発表することです。政策金利は為替相場、短期金利、長期金利など市場に与える影響が大きく、アメリカの景気にも影響を及ぼすため非常に重要な経済指標とされています。
FOMC政策金利発表の3週間後には、会議の内容をまとめた「FOMC議事録」が公表され、内容によってはこのタイミングでも市場に影響が発生することもあります。
・FRB議長議会証言:2月・7月
FRB議会で議長が証言することですが、市場関係者からの注目度が高く、金融市場に大きな影響を与えることが多いタイミングです。アメリカの景気や株価の動向に触れる証言があると、市場は大きく動く傾向があります。FRBのトップがアメリカ経済をどのように見ているかを知ることが可能です。
このようにアメリカでは実質的に毎月のように経済を評価する「経済指標」が発表されています。なかでも、雇用統計、FOMC政策金利発表、FRB議長議会証言の3つはアメリカの将来的な景気を知る経済指標ですので覚えておくと良いでしょう。
まとめ
史上最長の好景気に湧くアメリカ経済ですが、新型コロナウイルスの感染拡大によって大混乱に陥ってしまいました。大統領選で再選を目指すトランプ大統領がどうやって株価を回復させ、景気後退を防ぐのかが注目されます。
アメリカ経済と連動している日本経済も対岸の火事ではないため、アメリカの経済指標には注目しておきましょう。
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