はじめに - 敗北宣言をしないトランプ陣営
2020年11月7日、民主党のジョー・バイデンおよびカマラ・ハリス両氏は大統領選における勝利宣言演説を行いました。
民主党による勝利宣言は、混乱が続いた大統領選に決着をつけたかのように思われていますが、肝心のトランプ陣営が敗北を宣言しておらず、法廷闘争や政権移行を巡る抵抗を続けており、このままでは「政治空白」が生じる懸念が出てきました。
この間もトランプ大統領は様々な行動に出ており、この行動がさらに事態を混乱させています。今回は、大統領選後のトランプ大統領やその周辺の動きについてご紹介します。
アメリカ大統領選挙後のあるべき姿
はじめに、大統領選が決着してから新大統領の就任式までにどのようなことが行われなければいけないのか「あるべき姿」を理解しましょう。
トランプ大統領がやるべきこと
大統領選は民主党のバイデン氏による勝利が決定的になりましたが、トランプ大統領の任期は2021年1月20日正午まで続きます。
現職大統領にとって残りの2ヶ月間で最も重要な仕事とされるのが「政権移行」です。今回の場合、共和党のトランプ大統領から民主党のバイデン氏に対して、アメリカが抱える外交や内政問題などの引き継ぎが行われます。
とくに引き継ぎを入念にしなければいけないのが「北朝鮮問題」や「対中政策」そして「対ロシア政策」です。これらの国が大統領選後の混乱を狙った挑発行為を実施する可能性は否定できず、安全保障の面からも円滑な政権移行は重要な意味を持っています。
他にも、新大統領のバイデン氏はホワイトハウスのスタッフをはじめ、閣僚、次官、次官補といった政権スタッフ約4,000名の人選をしなければいけません。さらに、予算の基本方針、選挙公約を具体的な政策にまとめるなど、やることは山積みです。
これらの重要で膨大な量の仕事を円滑に実施するためにも、現職大統領からの政権移行は滞りなく進めなければいけません。つまり、平和的な政権移行はトランプ大統領がやるべき最後の大仕事と言えるでしょう。
アメリカにおけるこれまでの政権移行
これまで、今回のように政権移行で混乱したことは例がなく、円滑な政権移行はアメリカ政治における伝統行事とされてきました。
事実、1980年には民主党のジミー・カーター大統領から共和党のレーガン氏に円滑な政権移行が行われ、レーガン大統領は当時最大の外交問題だった「イランのアメリカ大使館人質事件」を就任当日に解決してみせました。
また、2016年にはオバマ大統領からトランプ氏へ引き継ぎがおこなわれた際には、天敵とさえ言われた両者が会談し「円滑な政権移行」で意見を一致させており、トランプ氏は「移民問題、医療保険改革、雇用の創出」をオバマ政権から引き継ぎ、優先的に取り組むことを約束しました。
歴史上、政党が変わる際でも新政権に協力することが慣例ですが、今回の政権移行は極めて異例の事態になっていると言えます。
トランプ大統領と周辺の動き
次に、トランプ大統領と周辺の動きを見てみましょう。
トランプ大統領の動き
トランプ大統領は、バイデン陣営による勝利宣言後も敗北を認めず、9日にはペンシルベニア州で郵便投票による不正や再集計を巡る新たな訴訟を起こしています。
一方で、トランプ大統領は自身のTwitterで「エスパー国防長官を解任した」ことを発表しました。政権移行時期における閣僚解雇は異例で、ただでさえ政治的に不安定な時期に国防長官を解雇したことは、安全保障にも影響を及ぼすと大きな波紋を呼びました。
解任されたエスパー国防長官は、全米に広がった人種差別に対する抗議デモの沈静化を巡ってトランプ大統領と対立していました。しかし、8月にハワイ沖で実施された軍事演習を視察した際には「中国を抑止できないなら、いつでも戦って打ち負かさなければいけない」と発言し、トランプ大統領に同調する姿勢を見せています。
そんなエスパー国防長官がこのタイミングで解任されたことは、あえてトランプ大統領の存在感を示す計画があったと見られています。また、混乱の状況下においても人事権を発動させることで2期目に向けた意欲を示す狙いもあるとされます。
トランプ大統領による人事権発動は続く可能性があります。次に解任されると噂されるのはFBIのレイ長官(Christopher Wray)、CIAのハスペル長官(Gina Haspel)と見られており、いずれもバイデン陣営が不利になるような捜査をしなかったことが理由になるでしょう。
また、ホワイトハウスは各省庁に対して「政権移行に協力しないように」という通達を出したとされています。政権移行の予算管理や手続きを担当する連邦政府共通役務庁(General Services Administration)のマーフィー局長(Emily Murphy)は、政権移行を始める書類への署名を保留しています。(同氏はトランプ大統領に使命されている)
連邦政府共通役務庁による許可がなければ、バイデン陣営は630万ドル(約6億3,000万円)の予算確保をはじめ、機密情報へのアクセス、各国首脳との会談の設定、作業スペースの確保がままなりません。つまり、バイデン陣営は何も出来ないことを意味します。
同庁の対応を巡っては、バイデン陣営の弁護団が訴訟を起こす可能性を示唆しており、同庁がいつどのようにして政権移行に関する手続きを認可するかが焦点です。
このように、トランプ大統領は選挙後の動きとして、訴訟を継続しつつ、政権移行に必要な手続きが進まないようにしています。また、人事権を発動し続けることで「まだ終わっていない」ことを強調しているのです。
トランプ大統領周辺の動き
今回の大統領選で敗北を認めないのはトランプ大統領だけではありません。
トランプ政権の中枢とされる、ポンペオ国務長官(Mike Pompeo)、バー司法長官(William Barr)、そして共和党上院トップのマコネル氏(Mitchell McConnell)などが、大統領選を巡る訴訟問題や抵抗の継続を支持しています。
なかでも、ポンペオ国務長官とバー司法長官のふたりは「トランプ大統領の最側近」ともされており、非常に強い権力を持った人物です。
ポンペオ国務長官は11月10日の記者会見において「すべての票を数えないといけない」としたうえで、バイデン氏の勝利を認めない姿勢を見せています。さらに、「トランプ政権2期目に向けて円滑に移行する」とし、トランプ大統領の続投を示唆しました。
これに先立ち、9日、バー司法長官は全米の検察官に対して「大統領選の不正疑惑に関する捜査」を促す内容の書簡を送付しています。これについて同氏は「大半の不正疑惑は結果に影響を及ぼさない程度」としたうえで「すべてがそうとは限らない」と、不正疑惑の存在を強調しました。
また、各州の選挙結果が確定する12月8日まで「不正疑惑に関する追及を認める」とし、裁判所ではなく検察が積極的に関与するように促しています。この背景には、トランプ陣営による訴訟が早い段階で退けられている事態があり、アプローチを検察に切り替える狙いがあるとされています。
これまで、バー司法長官は「ロシアゲート」でトランプ大統領を推定無罪にしたり、FacebookやTwitterなどのSNS運営企業に圧力をかけた「セクション230」を巡る公聴会などで関与していると見られ、トランプ大統領寄りの人物として知られています。
共和党上院議員トップを務めるミッチェル・マコネル氏は、トランプ陣営による訴訟問題について支持する考えを示しました。
同氏は「大統領には不正疑惑を調査して法的手段を検討する権利がある」とし、他の共和党上院議員53名に対して圧力をかけたと言えます。一方で、共和党上院議員の4名はバイデン氏に祝意を伝えたとされています。
トランプ政権の中心人物がこぞってトランプ大統領の抵抗を支持していることがポイントと言えるでしょう。トランプ大統領だけでなく、これらの人物の動向にも注目が集まります。
まとめ
以上、「敗北宣言しないトランプ大統領は何をしているの?」でした。
トランプ大統領はバイデン陣営の勝利宣言後も変わらず、訴訟を起こしたり政権移行手続きの停止など様々な手段で抵抗を続けています。
再集計を巡る裁判は現実的ではないとする声が多いものの、バー司法長官による検察の捜査指示など、これまでとは手法を変えてきました。各州が結果を確定させる12月8日までは、あらゆる方法で勝利への道を探ると見られます。
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