Googleの次はFacebook!アメリカの独占禁止法について

2020年12月10日、アメリカ合衆国カリフォルニア州メンローパークに本社を置くFacebook(フェイスブック)が、「反トラスト法(独占禁止法)違反の疑い」で提訴されました。

今回は、アメリカの「チップ文化」について、アメリカ在住の日本人にレポートいただきました。


はじめに

2020年12月10日、アメリカの連邦取引委員会(以下、FTC/The Federal Trade Commission)と、45州の司法長官らはFacebook(フェイスブック)を「反トラスト法(独占禁止法)違反の疑い」でワシントンD.C.の連邦地裁に提訴しました。

同年10月にはGoogleが同様の「反トラスト法違反」で提訴されており、わずか2ヶ月の間にアメリカを代表するIT企業2社が提訴される異常事態になっています。

かねてから「大きくなりすぎたIT企業」として、GAFA(Google・Apple・Facebook・Amazon)は槍玉として挙げられてきましたが、司法当局による「企業分割」や「事業解体」を巡る動きがいよいよ本格的になってきました。

今回は、日本で言うところの独占禁止法にあたる「反トラスト法」を巡って、アメリカ政府とフェイスブックの間で何が起きているのか解説します。

Facebook(フェイスブック)提訴問題の概要

今回フェイスブックに対して起きた提訴の概要を見てみましょう。

インスタグラムやワッツアップ買収による市場独占

フェイスブックはこれまでに、欧米で主流の対話アプリ「ワッツアップ」や、画像共有アプリ「インスタグラム」を買収してきました。ワッツアップは2014年2月におおよそ190億ドル、インスタグラムは2012年4月に約7.5億ドルで買収しています。

FTCはフェイスブックによるこれらの買収行為によって「同社は競争力を違法に維持している」と判断し、資産の売却や事業の売却を求める訴えを起こしました。ごく簡単に言うと、競合他社のサービスを圧倒的な立場を利用して買収することで独占的な市場を築いているということです。

これと同様に2020年10月には、Googleが提訴されています。その際の理由は「Googleは、検索エンジンやインターネット広告市場において独占的な支配力を使い、競合他社の成長や参入を妨げている」という内容ですので、フェイスブックとほとんど同じ主旨と言えるでしょう。

FTCは、フェイスブックが買収という方法によって競合サービスやアプリ開発者を抑制し、さらに買収したサービスを通じてEC決済を強化して事業を拡大していると見ていますが、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは買収による競合潰しや、市場の独占を否定しています。

Facebook(フェイスブック)提訴の目的

FTCのイアン・コナー局長は「フェイスブックの反競争的な行為をやめさせて市場の競争状態を回復させる」と述べ、同社の資産売却や事業売却を通じて独占状態を解消させることを目的にしています。

一方、同時に訴えを起こした45州の司法長官らは「インスタグラムやワッツアップ買収の違法認定」を要求しており、フェイスブックの事業解体を狙っています。


いずれも、公正な競争を取り戻すために「フェイスブックの事業分割」を目的にしていると言えるでしょう。

Facebook(フェイスブック)提訴の問題点

今回の提訴にはフェイスブックにとって有利になる可能性がある「矛盾点」があります。

それは2014年にワッツアップを買収する際、認可したのがFTCであることです。アメリカでは企業間の巨額買収は認可制のため、買収前に当局による審査が実施されます。

フェイスブックはこの審査に通過したからこそワッツアップを買収できた訳ですが、ここにきてFTCは自らの判断を覆すような行為に出ているのです。

フェイスブックの副社長であるジェニファー・ニューステッドはこの点を指摘しており「FTCが過去の判断を覆すことになると、すべての企業にとって企業買収がいつまでも成立しない」と述べ、企業活動の悪い前例になりかねないと警鐘を鳴らしています。

FTCは矛盾を抱えつつもフェイスブックの独占を批判していますが、同社から反撃される余地を残していることも事実です。

アメリカにおける反トラスト法の争点

次に、フェイスブックに対する反トラスト法違反の争点について見てみましょう。

買収で済ませる方針

FTCはフェイスブックがライバル企業に対して「買収もしくは葬る」という立場をとっていたと主張しています。

これを決定付ける証拠として、2008年にマーク・ザッカーバーグCEOが残したメールに「競争よりも買収のほうがいい」と書いてあると述べています。

つまり、フェイスブックは「単なる買収」として違法性はないことを主張していますが、ザッカーバーグCEOが述べたように、競争ではなく買収で済ませる基本的な考えがあることを問題視しているのです。

消費者利益を阻害しているか?

これまでアメリカではIBMやマイクロソフトなどの大企業が反トラスト法違反で司法当局と対峙してきた歴史があります。この際に争点となったのが「消費者利益の阻害」でした。

FTCは今回の提訴において「フェイスブックは技術や品質改善を停滞させ、消費者の選択肢の幅を狭めた」と指摘しています。これに対してフェイスブックは「買収によって消費者の利便性を高めた」と反論しており、消費者の損害を証明することは難しい様相です。

また、同社やGoogleは、サービスを無料で提供し広告収入を得ているため消費者利益の阻害はないとする声もあります。

FTCは消費者利益の阻害だけを争点にすると不利になる可能性があるため「新規参入企業の阻害」や「競争過程の保護」といった、これまでとは異なる大枠で争うとみられています。

Facebook(フェイスブック)提訴問題における、今後の展開

今回の提訴は巨大IT企業を巡る大型訴訟のため10年規模の争いになると見られます。先に提訴されたGoogleの件も同様で、長期化することは確実です。


また、反トラスト法違反を巡る訴訟問題は「企業側に有利な判決で決着」することが多く、フェイスブックやGoogleの事業分割は現実的ではないと見られます。

FTCは、企業に対して厳しい姿勢を取る民主党主導の組織です。バイデン新政権誕生を控えているなか、民主党としては存在感をアピールする狙いもあります。また、バイデン政権がIT企業に対してどこまで厳しく接するかも裁判の結果に大きく影響するでしょう。

仮に、バイデン政権が強硬姿勢を取るとなると、アップルやアマゾンにも反トラスト法違反の疑いがかけられる可能性があります。

フェイスブックやGoogleの訴訟の行方に注目するのと同時に、バイデン新政権が巨大IT企業をどう扱うかにも注目です。

まとめ

以上、「Googleの次はFacebook!アメリカの独占禁止法について」でした。

Googleに続きフェイスブックも反トラスト法違反で提訴される事態になりました。一方で、FTCの矛盾や消費者が不利益を被っていないことなど、反撃を受ける余地が大きい提訴であることも事実です。

FTCとIT企業の主張は平行線を辿ると見られますが、バイデン新政権誕生によって潮目が大きく変わる可能性があるので、バイデン新政権の動向を見る指標として今回の提訴の行方に注目しましょう。

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本記事は、2020年12月22日時点調査または公開された情報です。
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