「嘘」をついたことがない人は、多分、いないと思います。
だからと言って、嘘は良いものとはされませんが、大人になったら多かれ少なかれ、嘘をつくことは生きていく上で必要なことだと思います。
それは、周りの人間のためを思ってのことだったり、人間関係を円滑にするものだったりと、嘘は良くないことでありながら、人の気持ちを守るための武器になるからだと思います。
しかし、子供が嘘をつく時には、大人のような使い方をすることは難しいのが現実です。
子供はたくさんの嘘をつきます。しかし、その嘘から学び取ることはとても多く、指導の仕方によって子供が成長する大きなチャンスとなります。
そこで今回は、ただ、「嘘は良くない」と指導するのではなく、子供が嘘をつく背景や、今後の子供の成長に繋がる指導方法についてご紹介したいと思います。
子供が嘘をつく理由について
大人が嘘をつく理由は、先述した通りだと思います。
ただし、中には人を傷つけたり、保身に走るためだったりと、ネガティブな理由で嘘をつく人もいます。
そして残念ながら、子供が嘘をつく理由も、この二つの理由が圧倒的に多いです。
しかし、子供が嘘をつく時と大人が嘘をつくときの背景は大きく違うと思います。
その背景を踏まえて、それぞれ嘘をつく理由と指導方法を併せて詳しくご紹介したいと思います。
嘘をつく理由と指導その1:人を傷つけるため
私が経験した具体的な場面として、例えばある女の子、〇〇さんがついた嘘のお話です。
その内容は、「Aさんが、クラスみんなの悪口を言っていたよ」というものでした。
実際にAさんは悪口など言っていないのに、さらに子供は言われたことを鵜呑みしやすいので、知らないところでAさんが悪口を言ったという根も葉もない噂が広がりました。
その噂のせいでAさんの風当たりが強くなって、とても傷ついていました。
クラスの子供たちに聞き取りを行い、噂の根元であるのが〇〇さんとわかった時、どうしてこんな嘘をついたのかと理由を尋ねると、
「Aさんのことが嫌いだから、それでもやもやしていてスッキリしたかったから」
と言っていました。
本来なら、事実無根のことで人を傷つけたのですから、厳しく指導したい衝動が起きましたが、グッと堪えました。何故なら、ここで厳しく叱責しても、〇〇さんの気持ちは晴れず、指導が入らず、今後も同じようなことが繰り返されるからと思ったからです。
そこで、〇〇さんに「どうしてAのことが嫌いなの?」と尋ねてみたところ、一緒に遊んでもノリが悪くて楽しくないとか、好きな人の話を打ち明けたのに、Aさんは同じように打ち明けてくれないから、と言った内容でした。
大人だったら、会社や周りで嫌いな人や苦手な人がいても、上手に距離を取ることができます。
そして何より、大人は「自分に合わない人」がいることを知っており、それを認め、受け入れることができます。
しかし、子供の世界では、「嫌い」という感情は悪に捉えられがちです。
嫌いだから距離を取るという行動が難しく、どうしても攻撃や恨みの対象になってしまいがちです。
そこで、私も〇〇に対して「〇〇がAのことを嫌いなことは、先生は全然悪いことだと思わないし、嫌いのままでも良いと思う。先生だって、苦手な人もたくさんいるよ。でも、だからって、Aを傷つけて良い理由にはならないし、そもそも人を傷つけて良い理由なんてない。Aのことを考えないのが一番だけど、どうしても頭に浮かんでもやもやしまうなら、先生がいくらでも話聞くから、吐き出し!」という指導をしました。
嫌ってもいい、ということが目から鱗だったようで、話終わった後にはスッキリした顔をしていました。
その後、〇〇はAに嘘をついたことを謝罪し、クラス内での誤解を解くために学級会も開いて、一件落着となりました。
事件後の〇〇というと、Aとは休み時間などでは関わりが見られませんでしたが、授業などで同じ班になった時は、トラブルを起こすことなく、やるべきことを一緒に行い、クラスメイトとして関わっていました。
私が小さい頃は、「みんなで仲良く!」「喧嘩をしない!」というスローガンがクラスに掲げられていましたが、私はそう思いません。
苦手だな、合わないな、という感覚を持つことは悪いことではないと思いますし、そこで我慢する方が、今後の人間関係を構築していく上で、自分の振る舞い方が分らなくなり、混乱してしまうと思います。
合わないからといって、相手を攻撃することが良くないのであり、その攻撃のために嘘が使われるのはもっと良くないことだと思います。
嘘を使った攻撃は、相手の心に深く傷を残します。
嘘をついてしまうような境地に追いやられている子供の気持ちや背景を理解することで、子供が嘘を武器として使うことを減らしていけると思います。
嘘をつく理由と指導その2:自分の保身のため
良くある保身のための嘘として、例えば、
「宿題、お母さんがやらなくて良いと言ったから、やらなかった。僕は悪くない」
「みんながやろうって言ったから、私はやりたくなかった」
「〇〇ちゃんが先に叩いてきた。私は何にもしていない」
などが挙げられます。その嘘にも共通しているのは、「自分は悪くない」ことを主張していることです。
大人にとっては、何か過失があると責任を感じることができ、謝罪することができますが、子供にとって「責任」とは、抱えきれないとてもストレスフルなものだと思います。
だからこそ、無意識に避けるために、悪気がなく嘘をついてしまいます。
そのため、保身のための嘘をついた時は、「責任逃れ」をしたことに対して怒るのではなく、嘘をついたことによって周りの状況がどのように変わるかを一緒に考えるようにしています。
例えば先述した一つ目の嘘については、以下のようなやりとりがありました。
「お母さんが、どうして宿題をやらなくても良いって言ったか知りたいから、電話で聞いてみてもいい?」
「…お母さんはそんなこと言ってません」
「そうなの?じゃあ、もしお母さんがこのことを知ったら、どんな気持ちになると思う?」
「悲しいし、がっかりすると思う。」
「そうだね、じゃあ、宿題ができなかった理由は何?」
「自分が忘れていたから…」
「なるほど、その理由を最初に言えなかったのは、どうしてだと思う?」
「先生に、怒られると思ったから」
「確かに、宿題を忘れるのは良いことではないけど、忘れることは誰にでもあるからね。だから、忘れました。と言うだけじゃなくて、『忘れたからこうします』っていう風に今度から言えたら良いと思うな」
という風に指導しました。
私が指導で意識したことは、嘘をつくことによって周りの人間がどのような気持ちになるかということ、過失があった時には嘘をついて責任逃れをするのではなく、その後の対処を考えて実行すれば良いか考えることが大切ということです。
子供は、責任から逃れるために嘘をつくので、その時には周りの気持ちを慮る余裕などありません。
だからこそ、教師が一緒に立ち止まり、その責任の重さを一緒に背負って周りに視野を広げる手助けをすることが大切だと思います。
また、過失の後の対処法の提案については、大人になっても必要不可欠な能力だと思います。
(締切が過ぎてしまった時に、だんまりや嘘をつくのではなく、早急な謝罪といつまでに提出しますと言った提案をするなど…)
しかし、子供にとっては提案が浮かばない場合も多いので、その時は正直に、
「どうすれば良いかわかりません。一緒に考えてください」と相談しにおいでと言っています。
このようなやりとりを練習することで、大人になっても、失敗した時に嘘をつくのではなく、その後の対応を考え、また、分らない時には周りに助けを求める力を養うことができると思います。
大切なのは、失敗したことが悪いのではなく、失敗を嘘で隠そうとすることです。
嘘で隠したくなる気持ちに十分に寄り添いつつ、失敗に対するアプローチを指導することが良いと思います。
まとめ
今回は子供が嘘をつく背景や、今後の子供の成長に繋がる指導方法についてご紹介しました。
このようにつらつらと書き連ねた私も、教師なりたての頃、
「嘘は完全な悪!絶対に許さない!」
といった、勧善懲悪なヒーロー気取りで指導をしており、子供の心に寄り添えなかったのは大きな反省です…。
そもそも、子供が嘘をついた時には、こちらが厳しく指導をしなくても、心は罪悪感でいっぱいになり、苦しんでいます。
子供は、心では嘘をつくことは悪いと分かっている、そのことに気がついたのは教師をしてからしばらくのことでした。
子供が嘘をついた時は、怒りたい気持ちをひとまず置いて、その背景に寄り添った指導を行うことが大切だと思います。
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