はじめに – 中学校の先生によるコラム
中学校の先生という立場で、同じ「教師」という職業に就いている人間の物語を読むのはとても面白く、いろいろな発見があります。自分に当てはめてみたり、あるいは自分もまたこんな先生になりたいと思ったりと、参考になる部分も多々あります。
今回は、先生が出てくる本とテレビドラマを3つ 内容と先生ならではのレビューをまとめました。
その1:坊つちやん(夏目漱石)
作品情報
「坊つちゃん」は日本の中編小説であり、作者は、夏目漱石です。この作品は、1906年に発表されました。
あらすじ
坊っちゃんは子どもの頃から無鉄砲で、気性が荒く、喧嘩っ早い性格で、両親や兄とはうまくいっていませんでした。しかし、そんな坊っちゃんを唯一理解してくれていたのが住み込みで働いていた下女の清でした。清はこっそり物をくれたりい、坊っちゃんの性格をまっすぐでいい性格だと褒めてくれたりしました。
母が亡くなり、6年後父親も亡くなると、その相続した遺産を元手として学校に通い、卒業すると、母校の校長の紹介で四国の中学校の数学教師として赴任します。都会育ちの坊っちゃんにとっては、四国は田舎で、見るものも聞くものも会う人たちも何もかも気に入らないことばかりでした。
学校について、坊っちゃんは学校の先生たちの紹介を受けました。先生たちも個性的な人ばかりで、坊っちゃんはその様子から全員にあだ名をつけました。校長先生は「狸」、教頭先生は「赤シャツ」、英語の先生を「うらなり」、美術の先生を「のだいこ」、坊っちゃんと同じ数学の先生を「山嵐」と名付けました。皆よそ者の坊っちゃんに一線を置く感じでしたが、山嵐だけは、親切で、下宿する宿を教えてくれたり、氷水をおごってくれたりしました。
坊っちゃんは学校で教壇に立ち、教師としての生活を始めます。最初はいい顔をしていた生徒たちも、だんだん本性を現し、新米先生の坊っちゃんをからかい始めます。坊っちゃんが街中でてんぷらそばを4杯食べているのを見られると、「天麩羅先生」とあだ名をつけて笑われ、宿直で学校に泊まった時は、宿直室に大量のイナゴを入れられるといういたずらをされました。さらに、そのいたずらを生徒に問いただしても、誰も自分だと認めないところが坊っちゃんはますます許せませんでした。
ある日坊っちゃんは赤シャツとのだいこに誘われて釣りにいきました。一緒に行ったものの、2人は坊っちゃんが「天麩羅先生」と言われていたり、イナゴの件を知っていたりでこそこそ笑ったりするので、坊っちゃんは2人に嫌悪感、不信感を抱きます。
また別の日に、山嵐から紹介した下宿をすぐに出ないといけないと言われます。理由は坊っちゃんが乱暴で宿が困っているということでした。身に覚えのない坊っちゃんは赤シャツに山嵐は腹黒いと教えられていたこともあり、山嵐に対して不信感を抱きます。
そんな坊ちゃんにうらなりが下宿を紹介します。坊っちゃんはそこで、うらなりの結婚相手が赤シャツに奪われ、転勤までさせられることを知ります。さらに、それを知った山嵐が校長に抗議し、赤シャツとも仲が悪くなったことも知ります。そこで坊っちゃんは本当に悪いのは山嵐ではなく、赤シャツなのでは?と思い始めます。同じころ、赤シャツも紹介した下宿での乱暴騒ぎは、実は主人の作り話だったことを知り、坊っちゃんに謝り、仲直りをしました。
その後、生徒たちと、師範学校生のケンカを止めようと坊っちゃんと山嵐が割って入ったものの、うまく止められず、そのことで、山嵐が責任をとらされ、学校をやめることになります。赤シャツに山嵐を追い出すいい機会と利用されたのです。それなら自分もと坊っちゃんも辞職を願い出ますが、引き留められます。
しかし、納得のいかない坊っちゃんは山嵐とともに計画を練り、芸者遊びをして朝帰りする赤シャツとのだいこを待ち伏せし、こてんぱんに懲らしめ、そのまま学校もやめて東京に帰ります。
東京に戻ると、街鉄の技手となって、待ってくれていた清とともに暮らしました。
レビュー
100年前の作品ではありますが、急に先生になった坊っちゃんに対して、生徒が最初はいい顔をして授業を受けているけれども、裏ではあだ名をつけたり、いたずらをするが、名乗り出ないなど、昔も今も変わらないようなことがあるもんだなと思いました。登場人物も、ことなかれ主義な校長先生、傲慢な教頭先生、意地悪な先生や気の弱い先生などいろいろ出てきて、小説的ではありますが、現代の教育現場に通じるものもあると思います。
主人公の坊っちゃんは「自分も他人もうそをつくことを許さない。」という強い信念を持っていることと、両親には疎まれたが、清に褒められ、認められて育ったことで自尊心があることにより、何があっても揺るがないところが先生に向いているなと思いましたし、陰湿な悪さをしていた生徒にも伝わったのだなと思いました。ハチャメチャなこともするけど、筋が通っていることは大事だと思います。なかなか現場で自分以外の先生のために動いたりするということはできないかもしれませんが、参考にはなるかと思います。
とても有名な作品なので、1度原作を読んでみるのもいいと思いますし、テレビドラマ(最近だと2016年に嵐の二宮和也さん主演でフジテレビでやっていました)で見るのもわかりやすくていいと思います。
その2:図書館の神様(瀬尾まいこ)
作品情報
「図書館の神様」の作者は、瀬尾まいこであり、2013年12月に初版が発行されました。
あらすじ
主人公の早川清は田舎の高校で働く国語講師。幼いころからずっと清く正しく生きてきた。高校までずっとバレー少女で、バレーが大好きで、ずっとバレーで生きていくはずだった。しかし、高校3年生の時、バレーの試合中の自分のことばをきっかけに同級生が自殺したことで、清はバレーを捨てる。大学も体育大学に行くはずだったが、地方の大学へ進学した。しかし、少しでもバレーにかかわりたいと思い、高校で働くことにする。バレーボール部の顧問を希望していたが、国語の講師ということで部員1人の文芸部の顧問になる。清は国語の講師とは言え、もともとは体育教師になりたかったものだから、全然文学に興味がなかった。
唯一の部員垣内君は毎日本を読んで過ごしていた。バレー一筋の体育会系で育った清には垣内君の活動が理解できなかった。しかし、垣内君は文学をこよなく愛し、地道に活動を続け、清に文学の良さを教えてくれた。適当に顧問をしていた清だが、しだいに垣内君に理解を示すようになる。その関係をきっかけに、清はもともとなんとなく始めて、あまりやる気のなかった仕事にも少しずつ興味を持ち始める。そして、教員採用試験にも合格する。
高校生にしては大人なびた垣内君は実はスポーツ万能。清はなぜスポーツをしないのかと疑問に思っていたが、彼にも暗い過去があった。中学時代サッカー部の部長をしていたが、夏の部活の練習中に部員が突然倒れて、入院するという出来事がありました。そのことに責任を感じて高校ではサッカーをやらずに、文芸部にはいったのでした。
垣内君は文芸部の最後の活動として主張大会で発表をし、卒業していく。清は3通の手紙を受け取る。そのうちの1通は自殺した山本さんの親からのもので、清がずっと続けていたお墓参りへのお礼と清はもうずっと前から許されているという内容であった。それを読み、清はまた前を向いて、新しい1年をスタートさせる。
レビュー
とても適当な気持ちで主人公は先生になっていましたが、私自身も教員を熱望していたわけではなかったので、少し自分と重ねてしまうところがありました。採用試験に先生になりたくてやる気満々の同僚講師よりも、主人公の清が採用試験に合格するのも、案外あることだなと思いました。(自分もそうだったので)
清が学校の先生を初めたばかりの頃の職員室の描写や職員会議の説明などもとてもリアルなので、うんうんとうなずくことがたくさんあると思います。
清は大学を出たてで若かったため、部員の垣内君とは学生ノリな感じで話していました。また、2人は先生と生徒でありながら、文芸部での活動を通じて、同志のような感じにもなってきます。そんなのも若い先生ならではという感じがするので、若い先生は共感できるようなことではないかなと思います。
そんな清ですが、だんだん先生としてもがんばるようになってきます。文芸部が廃部にさせられそうになった時に、熱くなって抗議するところも生徒のことを考えてがんばっているなーと感心します。「人は実はいつも語りたがっている。自分の中のものを表に出す作業はきっと気持ちいいのだ。」という言葉とともに、生徒に自分のことを書かせる活動を授業でさせる場面があります。作者の瀬尾まい子さんが本当の中学校の国語の先生ということもあり、私もこの言葉をみて共感し、授業で(英語ですが)生徒に自分のことを書かせるという活動を取り入れたことを覚えています。(英語で自分のことを書くのは難しいので、あまりたくさんはさせられませんでしたが)
また、生徒のクールで大人びている垣内君が自分の過去について話す場面がありますが、本当に生徒の過去を自分も聞いているような気持ちになり、自分ならどんなことを話すかななど、疑似体験する気持ちにもなりました。
清は辛い過去があり、ずっと心の重しにしながら生きていますが、小説の中の1年を通じて、いろんな人とのかかわりの中から乗り越えることができます。不倫の恋人、弟、垣内くん、同僚の講師仲間など、様々な人から様々なことばをもらうので、仕事で落ち込んだ時などは響く言葉があるかもしれません。
誰しも過去に、仕事の中でなど、辛いことがあるかもしれませんが、いろんな角度から癒されながら励まされることも多い本なので、とてもおすすめです。でも、元気で仕事やる気満々な先生が読んだら、なんやこいつと清に嫌悪感を抱く可能性もあるので、どちらかというと、教員の仕事に疲れたときや悩んだ時に読む方がおすすめかなと思います。
その3:僕らは奇跡でできている(かんさいテレビ放送)
作品情報
「僕らは奇跡でできている」は、かんさいテレビで放送されたドラマです。放送期間は2018年10月~12月で、全10話です。
あらすじ
主人公の相河一輝(高橋一生)は動物行動学を教える大学講師。大好きな生き物のことや、自分が気になることについて考え始めると、周囲には目もくれず没頭してしまう性格のため、時に人を困らせ、時に人をいらだたせる“変わり者”です。
しかし、常識や固定観念にとらわれない一輝の言動は、周囲の人々や価値観を大きく揺さぶります。
彼を取り巻く人々は、才色兼備のこじらせ女性歯科医、一輝と教授との関係に嫉妬する准教授、周囲と独特の距離を保つ蟻オタク講師、普通じゃない講義に戸惑う学生たち、幼いころから一輝を見てきた祖父、歯に衣着せぬ物言いの世話焼き家政婦、一輝の理解者で、陽気でユーモアあふれる教授などです。
一輝は家政婦の山田さん(実は一輝の本当のお母さん)と一緒に暮らしています。山田さんの作るピリ辛キュウリが大好きで、山田さんが勝手に自分の部屋の掃除をすると怒ります。
歯の治療が嫌いな一輝ですが、どうしようもなくなり、歯医者に行きます。そこで才色兼備な歯科医水本と出会います。水本は遅刻しても悪い様子がなかったり、歯の治療にきなにもかかわらず先送りして帰る一輝に最初は不信感を抱きます。しかし、一輝と接する中で、自分が肩肘をはって生きてきたことに気づき、自分の思ったように、人生を送ろうと前向きになっていきます。
大学では自分のペースで自分の好きなように、授業をしたり、フィールドワークに出かけます。生徒たちは最初は特にやる気なく講義を受けていましたが、一輝のペースに振り回され、一輝の知識の深い動物行動学の講義にだんだん興味を持つようになり、自分たちから積極的に講義を受けるようになります。
教授はそんな一輝を認め、一輝のやることをすべて肯定してくれますが、時間や決まりにルーズな一輝は事務長によく怒られます。また、准教授の樫野木に疎まれて、しまいには大学に一輝がいることが迷惑だとも言われてしまいます。
最後は大学を辞めることを決意します。学生たちはなんとか一輝を引き留めたいと考え、動いていきます。一輝は一輝で自分の次の夢を見つけ、そのためにもっと勉強することとお金が必要なので、大学に残ることになります。
レビュー
一輝の行動などから、自閉症スペクトラムに属する障がいがある方が大学で講師として働き、生活していく話だと思いました。自分が中学校で働いていた時も特別支援学級に自閉症スペクトラムの生徒は何人かいて、彼らの中学時代を見ることはあっても、大人になってからに触れることは、私は1度もなかったので、大学の講師ということで、校種は全然違いますが、同じ教師という職種という設定なので、興味深く見ていました。(障がいのある方の保護者の方が見たら、いやいやそんなことあるかいと思うような話なのかもしれませんが、ドラマになっているので、なくはない設定なのかなとも思います。)
一輝には自分を認め、いつでも自分の味方をしてくれる存在(祖父、教授)がいたことは本当に大きかったと思います。家政婦として一緒に暮らしていた山田さんは実は本当のお母さんですが、一輝が小学生の時に、一輝の子育てにいっぱいいっぱいになってしまって、祖父に一輝を頼んで、一輝のもとを離れます。一輝にとっては悲しい経験だったと思いますが、祖父がずっと味方をしてくれたために、ここまでやってこれたのだと思います。また、一輝の才能を認めてくれた教授もとても素敵です。一輝は動物のことについて本当によく知っていて、その知識の深さを教授は見抜いて、認めてくれていたのだと思います。
障がいがある生徒を見ていましたが、本当にすごいなと思うことは多々ありました。それこそ自分が興味のあることは大人の私たちよりもたくさん知っているなと思ったこともあります。しかし、いざ社会に出るうえで、コミュニケーションの問題など気にかかることがあるのも事実ですし、なにかしらフォローも必要かなと思ってしまいます。ただ、周りの理解とフォローがあれば、このドラマのように、大学の講師になって、学生に深い知識を教えたり、いろんな良い影響を与えることも事実であると思います。
ドラマの中で、勉強が苦手で動物に興味がある小学生と一輝は友達になります。小学生の母親は、周りのみんなと一緒にしてほしいと願いますが、小学生はなかなかできません。一輝と一緒にいることも常識外れの行動をすることから否定的に見ています。しかし、途中からはだんだん理解してきた歯医者の水本の力もあって、母親も一輝と自分のことも認めていくようになります。今自分も子育てをする中で、自分の子どもが周りの子どものようにできないことを認めることはとても勇気のいることだと思いますが、認めることができることの素晴らしさもドラマで描かれていて、勉強になりました。
実際に障がいのある方々がどんな仕事をしているかは詳しくはわかりませんが、周りの人たちの理解がある教育現場では活躍の場があるのではないかと思わせられる作品でした。そんな風に働ける日がくるといいなとも思います。
まとめ
いかがでしたか?
筆者が、中学校の先生の目線から、先生が出てくる本とテレビドラマを紹介・レビューしました。
今回紹介した本やテレビドラマに限らず、「教師」を題材にした面白い作品はたくさんあります。それらの作品に影響を受けて、「教師」を目指そうと思う人もいるかもしれません。
教師を目指している方、現役の先生方は、ぜひこの記事をご参考ください。
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