保健室の先生(養護教諭)の校種ごとの仕事内容について

今回は、私立高校で5年、一律の小学校で10年、保健室の先生(養護教諭)として働いた経験を持つUさんに「養護教諭の校種ごとの仕事内容」について取材し、まとめました。

保健室の先生(養護教諭)を目指す人に、ぜひ読んでもらいたい内容です。


はじめに - 保健室の先生(養護教諭)が働く場所

保健室の先生(養護教諭)が働く場所は、当たり前ですが、「保健室」です。そして、たいていの教育施設には「保健室」があるので、保健室の先生(養護教諭)は、他の教科の教諭と違って、幼稚園から大学まで、あらゆる校種で働くことができます。

幼稚園・保育園、小学校、中学校、高校、大学と、校種によって保健室の先生(養護教諭)の仕事内容には違いがあります。もちろん、校種を問わず、共通している仕事も多いです。

本記事では、「校種を問わず共通している仕事」「校種によって異なる仕事」について、それぞれ説明します。

保健室の先生(養護教諭)の仕事ー校種を問わず共通して行う業務

まずは、保健室の先生(養護教諭)が共通して行う仕事について説明します。

保健室の先生(養護教諭)の業務その1:健康管理

保健室の先生(養護教諭)の主な仕事は、児童生徒、学生、そして教職員の健康管理です。

健康管理とは?

・年に1度の健康診断の計画、実施、記録、保存
・小学生であれば毎月、中学生であれば学期ごとに体重や身長、学校によっては視力検査を行う
・学校の中でケガをしたり、体調を崩したりしたときに保健室で手当てを行う
・保健室もしくは教室で病気やけがの予防や安全について授業や指導を行う

保健室の先生(養護教諭)の業務その2:健康相談活動

健康相談活動は、保健室の先生(養護教諭)の仕事で、注目されている業務の一つです。

健康相談活動とは、臨床心理士や精神科医、精神保健福祉士などが行うカウンセリングに似ています。

臨床心理士や精神科医、精神保健福祉士などが行うカウンセリングと違うところは、保健室の先生(養護教諭)は学校生活のいろいろな場面で、子どもと接することができるという点です。そのため、保健室を訪れる子どもたちの何気ない言葉や態度が普段と違うことを察知しやすく、子どもたちも心を開きやすい環境にあります。

健康相談活動を通して、家庭での虐待や学校の中でのいじめなどを発見することも
あります。保健室の先生(養護教諭)は、そうして発見したトラブルを、医療機関や公的機関へ橋渡しすることもあります。

保健室の先生(養護教諭)の仕事ー校種特有の仕事

次は、校種特有の仕事について説明します。


保健室の先生(養護教諭)の仕事:幼稚園(こども園・保育園を含む)

幼稚園の中の保健室の先生(養護教諭)は残念ながら「保健室の先生」としての職務だけをすればいいということはありません。

なぜなら、幼稚園の教職員数は少人数であることが多く、保健室の先生(養護教諭)も、他の教職員の一員として、掃除やプール当番はもちろん、園によってはあらゆる雑用を任されたり、事務を任されたりすることも少なくありません。

そのため、「保健室の先生(養護教諭)」という夢を持って幼稚園に就職した保健室の先生(養護教諭)は、他の校種よりも、退職や転職率が高い傾向にあるようです。

こういったミスマッチが長年続いている背景から、最近では採用の枠が「幼稚園」と「そのほかの校種」と分けられたり、幼稚園での職務内容の改善をしているところもあるようです。

保健室の先生(養護教諭)の仕事:小学校

小学校の養護教諭は、救急処置から健康相談まで「ザ・養護教諭」の職務を味わうことができます。

最近は、団塊の世代の退職によって20代の新任教職員が多くなっています。そうなると、保健指導や救急処置や健康相談など、保健室の先生(養護教諭)が行った内容を保護者に説明する際、担任が保護者に説明するのではなく、保健室の先生(養護教諭)がすることも多いです。

保護者からのクレームも多くて大変な部分もありますが、小学校の児童は6年間在籍するため、6年間子どもの成長を見ることができるという点については、小学校養護教諭の特権かもしれません。

保健室の先生(養護教諭)の仕事:中学校

中学生は最も多感な時期であり、最も成長が見られる時期です。

思春期ということもあり、健康相談活動も「性」に関することが多くなったり、クラブ活動も本格的に始まるため、担任と保護者だけでなくクラブ顧問とのやりとりをすることも重要になってきます。

私の持論ですが、中学校の保健室の先生(養護教諭)には「軸」が必要です。

中学生ともなると、生徒たちは相手を見て態度を変えてきます。優しいだけでは保健室がたまり場になります。たまり場になりすぎて、最終的に保健室には鍵をかけ、けがや病気の対応をまずは職員室でするといった学校もあるようです。これでは、本来の保健室ではなくなってしまいます。

とはいえ、厳しいだけだと生徒は保健室に寄り付かず、これもまた保健室の意義がなくなってしまいます。

そのため、中学校養護教諭は自分の中に「軸」をもち、毅然とした態度で、時に厳しく時に優しく、中途半端な態度はとらないようにしないといけません。

難しいように思いますが、思春期の時期に寄り添い、共に成長できるという点では、中学校は最も面白い校種だと思います。

保健室の先生(養護教諭)の仕事:高校・大学

高校や大学の保健室の先生(養護教諭)は、健康相談活動が主な仕事です。


生徒や学生の心に寄り添い、人生の先輩としてアドバイスをする場面も多いです。

採用されて初めての校種が高校や大学だと、自分の経験や力量の少なさから自信を失うことも多いかもしれません。

また、高校や大学は生徒の人数が多いため、保健室の先生(養護教諭)が2人以上の複数配置の場合もあり、保健室の先生(養護教諭)同士の人間関係も重要になってきます。一人で業務を行うことに慣れている保健室の先生(養護教諭)同志が一緒に働くことは、意外と難しいです。

「国立学校の養護教諭」と「公立学校の養護教諭」について

保健室の先生(養護教諭)として働くうえで、校種以外にもう一つ選択肢があります。それは、学校が国立か公立か私立か、ということです。

それぞれの学校で働いた場合の立場は、国立の学校で働く養護教諭は「国家公務員」、公立の学校で働く養護教諭は「地方公務員」、私立の学校で働く養護教諭は「非公務員」です。

それぞれに給与や待遇、仕事内容などに違いがあるので、自分に合った学校で働くのが一番だと思います。

なお、国立学校と公立学校は、「公的機関が運営しているから同じようなもの」と思ってしまう人も多いですが、公立の学校から国立の学校に異動したい場合、「地方公務員」と「国家公務員」で立場が違うため、一度退職して異動することになります。

「保健室の先生=看護師さん」というのは昔の話!

保健室の先生の起源は、感染症予防のため学校に派遣された学校看護師でした。そのため、戦後の数年間ではありますが、「養護教諭」に「看護師資格」が必須となっていた時期があります。

しかし、その後、文部省や現場の養護教諭の反発があり、養護教諭の養成課程には、看護師資格も併せて取得できるコースと、看護師資格の取得の必要が無いコースに分けられたそうです。

現在、保健室の先生(養護教諭)のほとんどは、教育大学をはじめ「養護教諭」の免許が取れる教育機関の卒業生が大半ですが、一昔前は看護師の資格を取るための看護学校を卒業し、大学もしくは専門の機関で保健師、教員免許を追加で履修する方も多くいました。「保健室の先生=看護師さん」というイメージが今でもあるのは、そのためです。

ちなみに、私立の学校には「養護教諭設置義務」が無いため、現在でも看護師または保健師の資格を持って保健室に勤務する「学校看護師」や「学校保健師」が「保健室の先生」の役割をしている学校もあります。

この場合、「保健室の先生」はあくまで看護や保健の専門的な業務は担当しても、「教育」等は行わないといった区別はあるようです。

※「養護教諭」と「養護教員」が異なるものとしてご紹介していましたが、「養護教員」は一部の職場での通称であり、一般的な区別ではありませんでした。お詫びして訂正いたします(2021年7月8日現在)

▼参考URL:学校看護の歴史的考察|北海道女子短期大学研究紀要(PDFファイル)
▼参考URL:APOPLUS|養護教諭の資格がなくても学校保健師になれるってホント!?(外部サイト)

「暇そう」…?保健室の先生(養護教諭)という仕事内容への、世間の思い込み

保健室の先生(養護教諭)という仕事は、同じ学校で働いている教職員でさえ、理解してもらえないことがあります。「暇そう」や「楽そう」など、子どもと同じ視線でみられることも少なくありません。

そのため保健室の先生(養護教諭)として学校の中で認められるためには、職務を確実に行い、自ら教職員に積極的に声をかけ、情報を共有し、些細なことも報告することが重要です。そのためには当然、コミュニケーション能力が必須となります。

また、保健室の先生(養護教諭)はドラマや漫画の中で出てくるような華やかな職種ではありません。学校の中で、子どもたちの心と体の健康を陰から支え、教職員や保護者の話を聞き、関係を調整する役を担うこともあります。

ただ、保健室の先生(養護教諭)は看護師や医師ではないため、治療も投薬もできません。担任ではないため、表に出ることもありません。保護者ではないので子どもたちの人生の一部しか見られません。

保健室の先生(養護教諭)の仕事への自信を失くしたときは?経験からのアドバイス

そのため、働き始めて仕事に慣れたころに「これは誰でもできる仕事なのかもしれない」と思い、自身の職務に自信を無くすこともあります。


その時に、そこで止まるのではなく、自分が働いている校種に必要な専門的知識を自ら学び、身につけ、磨くことで、自分の仕事に自信を取り戻してほしいです。

また、得た知識を児童や生徒、教職員に還元することで、今まで気付かなかった学校の中での「自分の新たな職務」を発見することもあります。そうしていく中で、「やっぱりこれは私にしかできない仕事だ」と再確認できると思います。

まとめ - 編集部より

今回は、保健室の先生(養護教諭)として働いた経験を持つUさんに、校種を問わず行う仕事と、校種特有の仕事について聞くことができました。

「保健室の先生(養護教諭)」という存在は身近でも、その仕事内容まで理解している人は多くありません。ですが、誰でも必ず保健室にお世話になった経験があるはずですし、学校には保健室の先生(養護教諭)が必要不可欠です。

「保健室の先生」の世間的なイメージと現実のギャップや、乗り越え方についても、経験から教えていただいたので、ぜひ参考にしてみてください。

本記事を通して、保健室の先生(養護教諭)の仕事について、理解を深めていただければと思います。

ご質問への回答

質問内容(要約)

「養護教諭と養護教員の違いは、看護師の免許を持っているかどうか」という記述は誤りではないか。「養護教員」という職種は教員免許としては存在せず、看護師免許所有の有無は養護教諭免許の種別には関係ないと思う。

私学では「養護教員」が求められるという話も、あまり聞かない。
(養護教諭の専修免許をお持ちの現役の養護教諭の方よりご指摘いただきました)

回答

「養護教諭」と「養護教員」が異なるものとしてご紹介していましたが、「養護教員」は一部の職場での通称であり、一般的な区別ではありませんでした。お詫びして訂正いたします。

また、私立学校で「養護教員」が求められるという記述についても、あくまで個人的な体験談の範囲でのお話でしたが、誤解を招く表現であったため削除いたしました。

また一部の職場での通称とはいえ、なぜそのような区別が生じたのかということについて、養護教諭の起源が学校に派遣された看護師であったこと、過去に養護教諭が「看護師免許」を必須としていた時代があったこと、その影響で「養護教諭養成コース」には、看護師の免許が取得できるコースと、看護師免許取得が必要無いコースに分かれた歴史があることを追記しました。

ご指摘ありがとうございました。

本記事は、2020年6月2日時点調査または公開された情報です。
記事内容の実施は、ご自身の責任のもと、安全性・有用性を考慮の上、ご利用ください。

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